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僕等は作品を作り続けないといけない…!『劇場』行定勲監督を迎え舞台挨拶開催!

2020年7月23日

劇作家を目指す青年と、彼を愛し、支える女性の7年間の恋を描く『劇場』が全国の劇場で公開中。また、Amazon Prime Videoで全世界独占配信中。7月23日(木)には、大阪・九条のシネ・ヌーヴォに行定勲監督を迎え、舞台挨拶が開催された。

 

映画『劇場』は、売れない劇作家と、彼を必死に支える恋人の7年間を描く。中学からの友人と立ち上げた劇団で脚本家兼演出家を担う永田。しかし、永田の作り上げる前衛的な作風は酷評され、客足も伸びず、ついに劇団員たちも永田を見放し、劇団は解散状態となってしまう。厳しい現実と理想とする演劇のはざまで悩む永田は、言いようのない孤独と戦っていた。そんなある日、永田は自分と同じスニーカーを履いている沙希を見かけ、彼女に声をかける。沙希は女優になる夢を抱いて上京し、服飾の大学に通っている学生だった。こうして2人の恋は始まり、お金のない永田が沙希の部屋に転がり込む形で2人の生活がスタートする。沙希は自分の夢を重ねるかのように永田を応援し、永田も自分を理解し支えてくれる沙希を大切に思いながら、理想と現実と間を埋めるかのようにますます演劇にのめり込んでいく。

「火花」で芥川賞を受賞した又吉直樹さんの2作目となる小説を、主演を山崎賢人さん、ヒロインを松岡茉優さんが担い、行定勲監督のメガホンで映画化。寛 一 郎さん、伊藤沙莉さん、King Gnuの井口理さん、浅香航大さんらもキャストに名を連ね、脚本を蓬莱竜太さん、音楽を曽我部恵一さんが担当している。

 

現在の状況下での満員御礼状態の中、上映後に行定勲監督が登壇。保護シートが立てられマスクをした上で舞台挨拶となり「こういう状況の舞台挨拶は一生忘れられないことになりそうです」と話しながらも、感謝の気持ちを伝えながら、作品の魅力が大いに伝わるトークが繰り広げられた。

 

本作は、今年の4月に公開される予定だったが、公開直前5日前に延期を発表。行定勲監督ら作品の関係者一同は「劇場が開いてる限りは公開しよう」と意気込んでいた。だが、公開延期にについて前向きに捉えていたが「延期された後にどうなるか分からない状況になると凄く不安になるんですね」と吐露する。2ヶ月間は悩みに悩んでおり「何の選択が正しいか。どういう公開の仕方が皆さんに一番届くのか。親密な二人の映画ですから、個人に対して届けたい思いが強かった。何が正解で何が間違いか分からない状況だったんですね」と告白。そして、選んだのが配信と劇場公開という手段。「これから先を見据えた僕なりのこの経験が何かに繋がっていく、自分達の映画を作るための糧になりたい」と受けとめており「こういう状況の中でAmazonと話し合い『ミニシアターで20スクリーンだったらいいよ』と取り決めた」と経緯を明かしていく。複雑な心境であることが予想されるが「一つだけいいことだったのは、ラストシーンが俺が思った通りの場所で公開されること」だと挙げた。本作の完成時に「シネコンで観ると、どんな風に観えるんだろうな。僕の中では、ラストシーンを迎えた時に観客が余韻に浸れる場所は、ミニシアター。僕が嘗て若い頃にミニシアターで沢山の様々な映画を、様々なことを教えてもらったミニシアターの暗闇の中だったら、ここに映し出されたラストシーンが地続きになるんじゃないか」という思いをダビング(音の仕上げ)が終わった後にスタッフと喋っており「本当にミニシアターの暗闇の中で観るのが一番合うよね」と確信。「こんな思い入れが自分の中である映画になったので、皆さんに来て頂いたことが嬉しくて、贅沢な経験をさせてもらっている」と実感しており、改めて感謝の気持ちを伝えていった。

 

既に本作を観た方の感想はSNS等で沢山語られている。行定監督は「映画を作っていて、感想を読むのがいつも凄く怖いんですね」と打ち明けながらも「今回は、半分の観客が配信で観ているんですね。顔を見ていないんですよ。お客さんの入りや雰囲気が分からないから、SNSを見ざるを得ないんですね。怖いけど見ると皆の感想が長い。これは嬉しいな」と喜んでいた。「一人で時間をかけながらずっと読んでいくんですね。良いも悪いも含めて長く書いて下さっているのは、何か届いている。良い意味で賛否両論だと思っています」と真摯に受けとめており「『賛否両論でないと良い映画じゃない』と昔に僕の師匠から教えられている」と姿勢はブレていない。「自分のことのように書いているのが嬉しいですね。皆がそれぞれに苦労して様々な恋愛をしてきたんだな、様々な人と向き合ってきたんだな。多分、永田みたいな人が多いんだと思いますね」と作品へ共感するコメントに反応し「自分の身勝手さやアイデンティティが、自分という自我と戦っている。逆に、沙希のように相手を支えたかったけど、支えられなかった人達の思い出が凄く綴られている感想が多い」と感慨深げだった。なお、本作のホームページには様々な著名人からコメントが寄せられており、行定監督の友人でもあり、日本映画を物凄く観ているポン・ジュノ監督による長文の感想が掲載され「”コメント”をお願いしたのに、物凄く見事で読み応えがある。どこを切り取っても良く、美しいコメントで流石です」と太鼓判を押す。

 

ラストシーンは、とある仕掛けが仕込まれている本作。行定監督は小説を読んだ時に、その演出を思いついた。「二日間に分けて物凄く没頭して読んだんですよね。身につまされるというか、これほどまでに自分がやらかしたことや様々なことを代弁してくれる作家がいるもんだな」と当時の想いを振り返りながら「『こんなの絶対に映画に出来ない』と云われるだろうけど、又吉直樹という名前があれば映画に出来るんじゃないか」と確信する。すぐにプロデューサーに電話して、監督に立候補し「『ラストシーンが思いついたんです』とラストシーンを説明しました。それが出来ないなら、きっと僕は又吉さんにも悪いことをしてしまう。又吉さんがこれを聞いて『分かりました。大丈夫です。好きなようにやってください』と受けとめてくれた」と信頼を得られ「良い原作者だなぁ。素晴らしい原作者は、自分の作品が揺るぎないから、二次的な映画にされても何でもないですね」と安心。「『良いですよ』ということは、お手並み拝見ということかな」と冷静になりながら、感謝の気持ちを以て制作に取り組み「出来上がった作品を気に入って下さった。食事を共にしたが、多くを語らない方で『何度も観ちゃいますね、僕は一生で何度も観るでしょう、この映画を』と仰っていた」と又吉さんの率直な感想に喜んだ。また「半自伝な作品なんだろうな。『山崎賢人で良かったなぁ』としきりに云ってましたね。『あれを僕がやってたら悲惨な出来になってましたね、嫌な奴になり過ぎていたけど、僕は人間味があって可愛らしい部分があり憎めないんですよね、それが良かったと思います』とホッとしていらっしゃいました」と人間味溢れるコメントを伝えていく。

 

山崎賢人さんのキャスティングについて「(スタッフの)皆が『えぇ〜!」という同じ反応だった」と明かし、行定監督は「僕の想像を超えている人間の方が僕の考えを凌駕する。想像の域にいない人の方が良い中で山崎賢人だった」と意外なキャスティングにしたかった真相を語る。また「とにかく松岡茉優という女優が相手役になったことが物凄い。この二人は水と油ぐらい違う、演技法が」と説く。「松岡は緻密に台本を読み込んできますね。自分がどの時期にどういうことで、書かれていない背景を全部書いて、自分の中で全てを咀嚼している。それを僕には言わない。緻密な演技をしてくれる」と述べ「対して、山崎賢人はほぼほぼ無自覚な演技ですね。ちゃんと台本を読んでキッチリ演じるけど、不器用だから監督が介入する演出の隙間をちゃんと常に持っている。松岡の仕掛けにホントに驚いたり焦ったり狼狽したりするので物凄くおもしろい。今までと違う部分を一生懸命に自分と向き合ってやったんだろうな」と監督ならでは視点で主演の二人を絶賛していった。ここからは、お客さんからの熱い感想や質問が寄せられ、二人が役になった瞬間、ラストシーンの仕掛け等について聞かれ、丁寧に解説されていく。

 

最後に、行定監督は「社会問題とまでいかなくても、コロナ禍において今回の取り組みが(メディアに)扱われて、沢山のロングインタビューを受けてきました」と振り返りながら「観客に届けるため最大限に今出来ることは何なのかをずっと考えたんですけど、公開してみて、皆さんが足を運んでくださって様々な感想を以て広めて下さっている姿を見た時、作品を作ることを僕等は続けないといけないんだな。どんな形であれ皆さんが受けとめてくれるんですね」と実感したことを明かす。そして「パーフェクトな状況は僕らには望めません。だけど『作ることを諦めることは駄目だ』と思ったし、皆さんがシネ・ヌーヴォの客席でこの映画を感じて頂けたことは一生忘れないです。この期間に僕の周りでも色々なことがあったわけですけど、映画を届けて観て頂かないと結果的には記憶にも残っていかない。これからも頑張って映画を作っていこうかな」と前向きな気持ちを伝え、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『劇場』は、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、京都・烏丸御池のアップリンク京都、兵庫・宝塚のシネ・ピピアをはじめ、全国の劇場で公開中。また、Amazon Prime Videoで全世界独占配信中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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