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一般の会社員や不安定な人達に是非観てもらえたら…『さよならテレビ』圡方宏史監督に聞く!

2020年1月3日

自社の報道部にカメラを入れ、テレビの現場では今何が起こっているのかを追っていく『さよならテレビ』が、1月4日(土)より関西の劇場でも公開。今回、圡方宏史監督にインタビューを行った。

 

映画『さよならテレビ』は、現在のテレビの現場で何が起こっているのか探ったドキュメンタリー。さまざまな社会問題を取り上げたドキュメンタリー作品を世に送り出している東海テレビによる劇場公開ドキュメンタリーの第12弾。潤沢な広告収入を背景に、情報や娯楽を提供し続けた民間放送。しかし、テレビがお茶の間の主役だった時代は過去のものとなり、テレビを持たない若者も珍しくなくなってしまった。マスメディアの頂点に君臨していたテレビが「マスゴミ」とまで揶揄されるようになったのは、市民社会が成熟したのか、それともテレビというメディア自体が凋落したのか。テレビの現場で何が起きているのかを探るため、自社の報道部にカメラを入れ、現場の生の姿を追っていく。
2018年9月に東海テレビ開局60周年記念番組として東海地方限定で放送されたドキュメンタリー番組に40分以上のシーンを追加した。

 

2018年9月に東海地方限定で放送された番組から30分長くなった本作。実は、先に映画版が制作され、テレビ向けに短縮し77分バージョンを作り、今回、映画向けに再び戻している。圡方監督は、メインの登場人物3人を好きになってもらいたい意図があり「彼らが何故この仕事をやっているのか、根本的理由を表現したかった」と明かす。また、東海テレビドキュメンタリー劇場第11弾『眠る村』の監督を務めた齊藤潤一さん(撮影当時は報道部長)も登場しており「現場の作り手でもあり、サラリーマンでもある。なんでもやるので、自身で作り上げていった信条と矛盾するようなことを言わないといけない立場」と受けとめている。立場が変わると発言内容が変わらざるを得ない、と捉えており「現場を考えながら、管理職として上層部の意思に従わないといけない」と示唆していく。

 

本作が捉えたテレビ局の現場でも、働き方改革が謳われるようになったが、本当に実現可能なのか。圡方監督は「可能ではありますが、やった時に失われるものがあるかもしれない」と応える。「記者業はディレクター業と違って非効率的なんですよね。逆算せずに積み上げていく仕事だから、無駄になることが沢山ある。調査報道なので、空振りに終わることが多くある」と踏まえたうえで「夜回りなどが一番最初に犠牲になっていく。本当にそれでいいのか」と疑問を示す。作品内では「独自のネタを他社に先駆けて報道することにどれ程の意味があるのか」とメッセージを入れながら、一方で「非効率で無駄な取材がもしかしたら必要じゃないかな」という思いもあり「働き方改革は難しいんじゃないかな」と表した。

 

とはいえ、労働時間削減のために報道記者として「派遣社員」を参画させた。圡方監督が嘗て所属していた制作部では、以前から外部の人達に協力頂いていたが「純粋な外部の人が記者として入ることは、報道の現場では経験してこなかった」と振り返る。報道部は社員の割合が高く、東海テレビでも関連会社である東海テレビプロダクションからの記者を起用していた。だが、純粋に外部から派遣社員としては初めてに近く「未知の世界ですよね。挨拶の際には僕自身も驚いた。あぁいう子は今までいなかった」と打ち明ける。テレビ局で働く人間については「器用で営業含め様々な部署で多くの経験をしており、能力のバランスが良い」と考えており「彼は朴訥な感じで、彼のような人間が加わった時、どのように周りの人間が接すればよいか、集団の性格が分かる」と予感し、興味津々で取材していった。

 

なお、本作では、圡方監督自身も登場している。カメラマンの中根さんに「自分も撮ってくれ」とお願いしたが「無意識に撮られることが難しい状況だった」と思い返す。事前の予告なく襲撃してもらったこともあったが「実際に撮られるのは嫌だなぁ」と思いながら取材を受けていた。だが、自身が撮られている現場を皆が見ており「あいつらは何やっているの?気が狂った?」と視線を感じながらも撮影していく。まさに「被写体になるのは嫌なことだ」と身を以て知ることになった。普段は撮る側であり「普通にして下さい」と云っていたが「自分が撮られると、自然には出来ない」と初めて知り「取材されると傷つく」と認識する。「今でも自分が出てくるシーンを見るのが嫌です。無防備な自分の姿はみっともない」とまで漏らし「森達也さん曰く『取材という行為は、加害性のある行為だ』と実感した」と打ち明けた。

 

メインの登場人物3人が頑張っている姿を捉えた本作、明るい未来が待ち構えているように受けとれるが「業界全体や組織にとって、明るい材料は一つもない状況」と圡方監督は語り「『さよなら』という部分も中らずと雖も遠からず。一番最後はハッピーエンドでは終われない」と考えている。だが「一人一人が頑張って真剣に取り組んでおり、取材していると応援したくなる」という気持ちもあり「集団になると、どうしても問題が起きてしまう。組織とは不思議ですね」と冷静に話す。なお、今作は同業者向けには制作しておらず「メディアである程度の立場にいる人には抵抗があり、却って怒ってしまう」と理解した上で「一般の会社に勤めている人達や不安定な立場の会社員に観てもらい、どのように感じるか」と意識し制作した。本作が世に放った波紋が今年どのように広がっていくか大いに期待したい。

 

映画『さよならテレビ』は、1月4日(土)より、大阪・十三の第七藝術劇場、京都・烏丸の京都シネマ、1月18日(土)より、神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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