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映画の可能性に絶えず挑みたい…!『風たちの午後』矢崎仁司監督を迎え舞台挨拶が開催

2019年5月11日

同性を好きになってしまった女性の狂おしい思いをリアルに描き、世界中の映画祭で好評を博した『風たちの午後』(デジタルリマスター版)が関西の劇場で公開中。5月11日(土)には、大阪・九条のシネ・ヌーヴォに矢崎仁司監督を迎え、舞台挨拶が開催された。

 

映画『風たちの午後』(デジタルリマスター版)は、『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』の矢崎仁司監督が1980年に発表した長編デビュー作。誕生日を迎えたルームメイトの美津のために、夏子はおそろいの乙女座のネックレスとバラの花を買ってくる。しかしアパートの窓には、美津の恋人・英男が来ている合図の白いハンカチが下がっていた。ひそかに美津を愛してしまった夏子は、彼女を独り占めしたいがために英男の子を宿し、やがて2人の関係は破局へと向かう。そのセンセーショナルな内容が話題を呼び、ヨコハマ映画祭自主制作映画賞を受賞したほか、世界各地の映画祭で上映された。

 

上映後、矢崎仁司監督が登壇。制作した40年前を懐かしがりながら振り返った。

本作が放つ音は、出来る限り絞っている。公開当時は、映写室の前に音が小さいことについて貼り紙までしていた。イギリスのエジンバラ映画祭にも招待されており、矢崎監督が訪れた際には「デレク・ジャーマンや侯孝賢に会えた」と嬉しく話す。音量に関して、改めて自身を振り返り「映画の可能性に挑みたい。音量を小さくして、観ることを強いるような作品を作りたかった。可能性を深めていかないと映画はダメになる」と、若気の至りを噛み締めつつ、現在もブレていない、と感じていた。

 

実際の撮影現場では、ヒロインの二人だけが聞こえるような位置にカメラを設置。矢崎監督に声が聞こえるとNGにしていた。今回のデジタルリマスター版を観て「僕が観たいのは光景なんだな。物語や物語を進める会話には興味がないんだな」と実感。監督自身が観たい光景を積み重ねて出来上がった作品だと感慨にふける。

 

なお、音量が小さいと、映写室に怒鳴り込まれることもあったようが、最近では音が小さいことを受け入れてくれるようになり「映画全部がこうだと困りますが、たまにはこういう映画があってもいいのかな」と提案。「聞こえない音にイライラしても、30分ぐらい経つと心地良くなるはずなんです。その感覚で作っている」と解説した。

 

また、本作は、ラストカットが印象的である。ATGの二代目社長であり日本映画学校の理事長だった佐々木史朗さんから「抽象で終わるのは良くない。具体で終われ」と聞いたが、監督自身は「抽象で終わった感覚は全くない」と話す。当時の三面記事で、沖縄から東京に出てきた美容師が中野のアパートで餓死していた事件を見て「当時は餓死という手段を選ばない程に東京は潤っていたはずなのに、餓死を選んだ。その意志の強さを映画で表現できないか」と考え、本作に反映。音を十分に用いて表現し出来上がった。

 

矢崎監督は、未だに撮影中の夢にうなされて朝起きることがあり「相当しんどいことをあちこちでしてきました。映画はシナリオが途中で要らなくなっても、生まれる性を写し取っている。物語を撮ることに改めて挑戦し難しさを感じています」と、作品に対し絶えず真摯に向き合っている。40年前に制作した本作を自身で観ながら、恥ずかくなりながらも「観て頂いてありがとうございます。これからも挑み続けます。次の作品も違う意味で挑んでいますので、よろしくお願いします」とお客さんへの思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『風たちの午後』(デジタルリマスター版)は、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、神戸・元町の元町映画館、京都・出町柳の出町座でも公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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