難しい話が出来ない社会は何のためにあるのか…『審判』にわつとむさん、田邉淳一さん、ジョン・ウィリアムズ監督を迎え舞台挨拶開催!
フランツ・カフカの有名な小説を基に、舞台を現代の東京に置き換えて描く不条理ドラマ『審判』が12月15日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。初日には、にわつとむさん、田邉淳一さん、ジョン・ウィリアムズ監督を迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『審判』は、フランツ・カフカの不条理文学「審判」を現代東京を舞台に映画化。銀行員の男・木村が30歳の誕生日に自宅マンションで目覚めると、部屋には2人の見知らぬ男たちがいた。彼らは木村を逮捕にしきたと言うが罪状は不明で、木村が無罪を主張すればするほど、蜘蛛の巣のようなシステムに絡み取られて身動きができなくなっていく。救いを求めてあがいても期待はことごとく外れ、やがて木村は出口のないこの迷路の終焉に気づきはじめる…
『いちばん美しい夏』『スターフィッシュホテル』など日本で活動を続けるイギリス人監督ジョン・ウィリアムズが現代社会にはびこる違和感を投影してシュールな物語を演出。監督とは3度目のタッグとなる個性派俳優、にわつとむさんが受難の主人公を妙演する。
上映後、にわつとむさん、田邉淳一さん、ジョン・ウィリアムズ監督が登壇。客席には外国人のお客様もちらほら見える程に多くの方が駆けつけた大阪公開初日となった。
ジョン監督は「難しい話が出来ない社会は何のためにあるのか」と疑問を持っている。近年の日本社会に対し「全て娯楽になってきており、わかりやすいことしか話せない」と嘆き「ちょっと待てよ。人間の心や幸せについて考えることは、根本的に難しい話。本当に難しい話を避けていいのか」と提案。東日本大震災後に生じた日本の傾向を鑑み「カフカの小説が思い浮かんだ。今の日本社会を映す鏡だ」と感じ、本作の映画化に取り組んだ。本作は、支援して頂いた人達や出演者達との長い親交関係の中で共に制作しており「今まで作った映画と全く違う愛を込めて作っている」と作品にかける思いを語る。
撮影に至るまでには、リハーサルが2年も行われた。にわさんはジョン監督から「”Don’t Act!(演技するな!)”」と厳しく指導されている。「日本映画では皆が演技し過ぎている」と感じており「これが僕がやりたかった演技。現場では苦しみました。どうしても演技してしまう」と当時を振り返り「ジョンとは20年の付き合いだが、一番怒っていた」と明かす。これを受け、ジョン監督は「信頼関係があるから、駄目だ!と言えるようになった」と説明する。また、にわさんは「隣人役の常石梨乃さんとは共に演技レッスンを受けており仲が良かったが、作品の中では初めて会う設定。最初のシーンで『仲の良さを表さないでくれ!初めて会った時の新鮮さがない!』とジョンが言った」ことも加えた。さらに、田邉さんは「撮影時、ジョンは何も言わない。だけど、テイクが良い時は『Good!』『Great!』『Excellent!』と放つ。逆に『OK!』『NotBad!』と言われた時は良くない」と解説。本当に素晴らしい演技に対しては「Excellent!の上は、何も言わずに泣くこと。お寺のシーンではジョンが泣いていた」と、にわさんが添えた。ジョン監督は「にわさんは、主役として全編登場しているので、集中力は想像を絶する。プレッシャーがあり、気持ちが入っているか分かる」と共感を示す。
にわさんとジョン監督は20年来の盟友であり、5年前から本作を企画していた。にわさんは、ジョン監督が作りたい作品だと聞き「異論はなかった。監督の演出方法は既存の方法にはないが、役者をリスペクトして大切にしている。役者から出てくるものを掬い取っている。そんな監督とずっとやっていきたい」と、全幅の信頼を置いている。とはいえ、脚本は難しく「最初はさっぱり分からなかった。どう演じたらいいのか、と困ったが『これは僕の人生だ』と思って演じた。『逮捕された瞬間からどうにかして頑張って生きていくぞ』と、逆境を跳ね除けていく苦行のような日常を映画の中で生きた」と振り返った。これを受け、ジョン監督は「目が覚めた時こそ人生を考え始める瞬間。禅に近い悟りであり、人生の意味が解るかどうかだ」と、にわさんの解釈に理解を示す。田邉さんも最初は全く理解できず「演じられない」と困った。それまでは、脚本を分析した上で、キャラクターを理解していったが「今までの手段が通用しない。『どうやって演じたらいいか分からない』と困惑した時、改めて『演じたい』と思った」と告白。何故なら「『理解しようとしなくてもいいんじゃないか』と思った。『分からないまま臨んで、目的地に向かって取り組んでみよう』と演じたら、ある時『もしかして?』という境地に至った」と解説すると共に「これは日常に沢山ある出来事だ」と、作品のおもしろさに気づいた。出演者の反応を垣間見たジョン監督は「役者は皆冒険したい。わかりやすいものは役者にとってはおもしろくないし、経験値が上がらない。解釈や想像力に遊びがない。霧の中で分かろうとした少し先に意味がある」と解説する。
日本で映画を作ることについて、ジョン監督は「『いちばん美しい夏』を撮るまでは、外国人が日本で映画を撮ることはメリットがなく疑問を抱いた。簡単ではないし、皆が苦労している。だが、日本のクリエイティブな役者やスタッフと出会い、最近では、クリエイティビティがなくなっている中で戦うことに意味がある」と実感。だからこそ「日本で撮り続けたい。自らの自由のため、皆のクリエイティビティのために戦わないといけない」と、今後も強い意志で取り組んでいく。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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