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気軽に”日の丸”や日本やアイデンティティを話せる風通しの良い社会に…『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』佐井大紀監督迎え舞台挨拶開催!

2023年2月26日

1967年に放送し問題作とされた、劇作家の寺山修司さんが日本について問うTBSドキュメンタリー『日の丸』を、寺山さん没後40年を迎える2023年に蘇らせるドキュメンタリー『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』が全国の劇場で公開中。2月26日(日)には、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田に佐井大紀監督を迎え舞台挨拶が開催された。

 

映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は、寺山修司さんが構成を手がけた1967年放送のTBSドキュメンタリー『日の丸』を現代によみがえらせたドキュメンタリー映画。街ゆく人々に「日の丸の赤は何を意味していますか?」「あなたに外国人の友達はいますか?」「もし戦争になったらその人と戦えますか?」といった本質に迫る挑発的な内容のインタビューを敢行した同番組は、放送直後から抗議が殺到し閣議でも問題視されるなど大きな反響を呼んだ。TBSのドラマ制作部所属で本作が初ドキュメンタリーとなる佐井大紀監督が、自ら街頭に立って1967年版と同様の質問を現代の人々に投げかける。ふたつの時代を対比させることで「日本」や「日本人」の姿を浮かび上がらせていく。

上映後、佐井大紀監督が登壇。世の中を俯瞰的に捉えていることが伝わってくる印象的な舞台挨拶が繰り広げられた。

 

“日の丸”に対して、佐井監督は「特別に好きや嫌悪があったわけではない」と語り「『日の丸』という作品を観た直後の違和感、何とも言えない気持ち悪さ。当時の番組は、インタビューを羅列しているだけの映像なので、ホラー映画や怖いフェイクドキュメンタリーを観たような気持ちだった」と明かす。そして「公共の電波にのる、とはどういうことなんだろう」と違和感が残っており、日の丸という国旗や国というものに起因して制作されていないと語った。建国記念日の2日前である1967年2月9日に放送された番組に対し「多くの人が、”今、この話する?やめようよ、それは”と聞き心地の悪さがあったのではないか。『現代の主役』という番組で、”日の丸”が取り上げられた。今なら、『情熱大陸』で”日の丸”が登場するようなもの。この歪さ、会社の懐の広さを感じ、面白い時代だなと思った。寺山修司はおもしろいな」と感じていた。また、当時は街録という手法が作り出された頃であり「今はメジャーになって、市民権を得て、皆が街中でカメラを向けられたら、TVでやっているものとして想像がつく。当時は真新しく、様々な手法を模索していた。成熟していく前だからこそ、実現した」と説く。

 

当時と同じ手法を実践してみて「応えてもらえないですよね」と吐露。「街録のイメージ、メディアにおける肖像権、メディアリテラシーや放送倫理が馴染んでいるので、いきなり身分も明かさずに、あぁいう質問をしても、ビックリして”なんなの、この人!”と。YouTuberだと思われる。最後に、TBSだと明かすと”そうだったの…”と安心して下さる」と苦労を重ねており「全然答えてもらえなかった。95%ぐらいは無視して、罵声を浴びせ去っていく」と振り返る。なお、映画以前に製作されたTV版では放送前にTwitterを開設。日の丸の写真を募集したが、ほとんど反応がなく、TV CMを流したりYouTubeにもアップロードしたり様々な告知をしても反応がなかった。この反応がないことについては「当事者になることを回避しようとしてしまう。そんな防衛反応が発動したんじゃないか」と察し、(批判の的を攻撃することだけに注力する現代社会の比喩として)「”日の丸”の赤は、空洞なのではないか」と考えるようになった。SNSに対し「顔が見えないので、いかようにも何でも言えるし、何も言わないでもいい。Face to Faceではないからこそ、距離のあるメディアで行うと、そういうものが浮かび上がってくるんだな」と実感した。

 

2020年代の今に寺山修司が発することについて「情念の反動化への挑戦とは異なり、考えが凝り固まったり、想像力によって補ったりすることではなく、周囲の反応によって判断する傾向を感じ取るのではないか」と受けとめており「SNSは個人が何でも発信できますが、SNSで見ている情報は、自分に都合のいいものしか流れてこない。多様性に見えて、実は物凄く狭まっているんじゃないか」と俯瞰的に捉えている。そこで「寺山修司は、多様であるように思えて実は単一的である社会をどう挑発するのかな。違うやり方をするんじゃないかな」と考えを巡らせていく。

 

2023年の今を鑑み「寺山修司の方が”自分”を持っている」と述べると同時に「僕は普通の会社員なので。長い物には巻かれながら、やっているので」と謙遜。さらに「寺山修司って凄いな。僕はTBSがあってこそ出来ているので。寺山修司は自分の王国を自分で築き上げようとする野心や、自分の世界を10代の頃から持っている。僕は寺山修司のふんどしで相撲をとっている」とコメント。1960年代に対し「既存の価値観やカルチャーを一度破壊して再構築する。これが1960年代のカウンターカルチャー。その影響を受けた1970年代前半までの映画や音楽が凄く好きです。ATGやショーケン(萩原 健一)の映画には萎んでいく雰囲気がある」と受けとめ「70年代後半になると、技術が発達し、バブルに向けて別の輝きが出て来る。70代前半までの破壊・再構築を経て何が見えてきたんだろう、ということが好きです。世の中の価値観を疑うスタンスは憧れます。今はしづらくなっている、と感じるので、寺山修司の名を借りてやっている。自分1人だけでは潰されてしまうんじゃないか」と俯瞰している。また「赤塚不二夫は『レッツラゴン』などの作品でメタ構造のマトリョーシカみたいなことをしており、後にタモリさんを見出す。学生運動をしている人達の関係性があったり、若松孝二が存在したり。政治的なものとナンセンスなものによって、メインカルチャーとサブカルチャーが混ざり合う雰囲気に憧れる」と捉えていた。

 

最後に「”日の丸”という題名ですから、語りづらかったり皆で話し合いづらかったりする潜在的に避けてしまうテーマではありますが、酒の肴にするぐらいのつもりで、この映画を身近な人のところへ持って帰ってもらったり、SNSで発信して頂いたりして、皆が気軽に”日の丸”や日本やアイデンティティを話せるような風通しの良い社会になるきっかけとなる作品を作りましたので、是非身近な方に共有して頂けると幸いです」と思いを込め、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は、全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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