10年の年月を掛けて完成させたSF ファンタジー『ユートピア』関西でも公開!伊藤峻太監督に聞く!
童話「ハーメルンの笛吹き男」をモチーフにしたSFファンタジー『ユートピア』が、7月7日(土)より大阪・十三のシアターセブンと京都・出町柳の出町座で1週間限定公開。今回、関西を訪れた伊藤峻太監督にインタビューを行った。
映画『ユートピア』は、童話「ハーメルンの笛吹き男」に着想を得て製作されたオリジナルのSFファンタジー。ある夏の朝、まみが目を覚ますと外は雪が降っていた。さらに謎の少女ベアが現れ、電気や水などライフラインも途絶。混乱する中、まみは言葉の通じないベアになぜか懐かしさを覚え、惹かれていく。やがて、ベアが1284年にドイツのハーメルンで笛吹き男にさらわれた130人の子どものうちのひとりであることが判明。時を同じくして、東京から子どもたちの姿が少しずつ消え始め……
伊藤監督は、幼少期から絵と物語を描くことが好きで、自ずと漫画を描くようになり、将来は漫画家を志す。高校1年の時、同じクラスだった下條岳さんが”映画監督になりたい”と言っていた。そんな将来の夢がある同級生に初めて出会い「映画監督ってなれるんだ!すごいな」と羨望の眼差しで見る。高校2年の頃には影響を受け、共に映像作りに取り組んだ。漫画を描いていたが「自分の思い通りになるのが漫画。映画は自分以外の要素が入ってくるイレギュラーさとお祭り感のある楽しさやおもしろさがある」と気づいて以来、映画三昧に。当時は、公立高校の普通科に通い、テニス部に所属していたが、放課後に有志が自主的に集まって映画を撮っていた。高校3年生の時には『虹色★ロケット』という映画を撮り校内で上映し、翌年には、第1回高校生映画甲子園に応募する。規定上映時間を超えており落選したが、審査員だった下北沢トリウッドの大槻貴宏さんに出会い『虹色★ロケット』の上映を提案された。結果的に劇場でロードショーされ、DVDの発売&レンタルに至る。興行的に成功し、次回作の話を受け『ユートピア』を大槻さんと企画し、完成までに10年を要した。
今作は童話「ハーメルンの笛吹き男」が鍵となる作品。伊藤監督は、絵本でストーリーを知っていたが、大学1年生の時、とあるきっかけで調べ、史実だと知った。ドイツのハーメルン市から130人の子供が消えた、という事実が街の門に刻まれており、興味津々。研究本を読んで「具体的には、6つの有力な説がある。十字軍、ペスト等があるが、どうしてもファンタジーを感じてしまう。そこでユートピアというテーマを盛り込んだ」と着想する。ユートピアは、理想郷という意味だと思いがちだが、実は、どこにもないという意味の造語。500年前にイギリスの思想家であるトマス・モアが書いた小説『ユートピア』について「ファンタジーの読み物としておもしろく、政府に直接言えないことをファンタジーにして遠回しに訴えている。それは、読んでいてワクワクするおもしろさがあり、モチーフとして作品に入り込んだ」と明かす。
劇中に用いられた言語は、架空の言語であるユートピア語。伊藤監督が英語や中国語等を参考に文法を決め、脚本内の言葉を全て考案。出演者の中には覚えられず知恵熱を出した方もいたが、皆が思い思いの方法で台詞を覚えていった。その中でも、オールデ指揮官役のウダ タカキさんや森 郁月さんは他の役者さん含め全ての台詞や言葉の意味まで覚え、他の役者さんに指導するレベルにまで到達。主演の松永さんはユートピア語を話す必要はなかったが「何を言っているのか本当にわからなかったが、こんなことを言っているんだろうなと想像しながら演じ、役柄と一致できた」と振り返る。
なお、本作は、VFX技術が使われているが、同時にアナログ製品も多用された。伊藤監督は劇中に携帯電話が出てくることを嫌い「スマホが出てくると、便利過ぎて障害が無くなり、シナリオが書けなくなる」と本音を漏らす。当初の台本では、電気がなくなる設定ではなかったが「情報メディアが機能している東京で、太陽嵐と同じような規模の災害が起きた場合、電気が使えなくなる。新しい災害を提示したかった」と訴える。災害が勝手に人々を連れ去ってしまう理不尽さが作品の根底にあり「長い間考えていく中で、社会も変化し東日本大震災が起きた。自分の思考が変わっていく中で、新しい災害として電気が通じない設定入れるべき」だと判断。デジタルが駄目になり、アナログ技術がある状態の方が 実は強いと捉え「今や映画もデジタルでしか存在していないので、太陽嵐が来て、ハードディスクが壊れたら無くなるという怖さが編集中はずっとあった」と緊張感を保ってきた。
現在、伊藤監督は次に撮りたい映画の企画書を既に作り始めており「『ユートピア』に時間を掛け過ぎた反省を込めて、次は早く作りたい。原作を作るところから始めたい。でも、原作が出来たら満足して自分で撮らないかも…」と飄々としながらも、未来を見据えている。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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