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映画の中で彼等に生きていてほしい…『僕はイエス様が嫌い』奥山大史監督と鈴木卓爾さんを迎えトークショー開催!

2019年8月25日

東京から地方の学校に転校した少年が、信仰について思いを巡らす様を描く『僕はイエス様が嫌い』が大阪・十三の第七藝術劇場でも公開中。8月25日(日)には、奥山大史監督と鈴木卓爾さんを迎え、トークショーが開催された。

 

映画『僕はイエス様が嫌い』は、祖母と一緒に暮らすため、東京から雪深い地方の小学校へと転校することになったユラを主人公とする作品。ユラは、同級生たちとおこなう礼拝に戸惑いを感じていた。礼拝の習慣や友だちとも慣れていったある日、お祈りをするユラの目の前にとても小さなイエス様が現れる。ユラは願いを必ずかなえてくれるイエス様が持つ不思議な力を次第に信じるようになっていく…

 

上映後、奥山大史監督と鈴木卓爾さんが登壇。映画監督同士の対談となり興味深い内容で盛り上がった。

 

京都シネマで一度観ていた鈴木さんは、今回改めて鑑賞し「画面が動かないフィックスで撮られていることに途中から気がついた」と印象を話す。「奥山さんはとてもシンプルで、複雑なものがないように見える。映画館は教会と同じだな」と感じており「最初からシンメトリーの構図を意図的に展開している」と気づく。同時に「ユラとカズマがとても良い。2人だけでなく教室にいる子達がシンプル。素直で妙な蟠りを作らず純粋」と高評価した。コメントを受け、奥山監督は、子供達には脚本を渡していないことを告白。「先生役の大迫さんに依頼して引っ張ってもらった。制約を作らなかったことが功を奏したかもしれない。説明してしまうと、フリをしてしまう」と意図を明かす。鈴木さんは「演じている子供達が無垢で、映画撮影に対してバイアスを感じない配慮がされている。プレッシャーを感じないような環境にいる」と感心した。

 

撮影も奥山監督がしており「カメラの後ろには殆ど人がいないように意識しましたね」と振り返る。「照明さんにも大きな声を出さないようにお願いしている。静かでゆったりとした時間が流れているように見せている」と6日間の撮影を慌ただしく行いながらも「如何に子供達にリラックスしてもらうか」と心掛けていった。上手に演技できる子役は大人びてしまうが「オーディションには70人程度来て頂いたが、自然体の演技が出来る子を探していたら、彼に出会った」と回想。鈴木さんは「制服がダボダボとしており、所在のない雰囲気を醸し出している。居場所を見つけていく過程に引き寄せられる」と注目する。

 

これまで他の監督作品にも撮影として関わってきた奥山監督は「最初から1シーン1カットの映画をずっと撮りたい」と望んできた。日本映画にはあまりなく、しばらく探していく中で「鈴木監督が矢口史靖監督と撮られている『ONE PIECE 』を見つけた。自分でやってみたかったけど観たことない映像があった」と邂逅する。カメラを動かさずに定点で撮ることを好み、映画美学校でも学んできたが「どういう時にカメラを動かせばいいか分からず今も取り組んでいます。カメラが動かず監視カメラのように寄り添った方が観客に伝わるんじゃないか」と模索してきた。本作を観た鈴木さんは「これが映画なんだよねと思い出す感覚に陥った。遠くに居たり、台詞も大きくなかったりする中で、チャド・マレーンさんが意外なところにいることに気がついた。モヤモヤさせてくれる部分がヒントになるんだな」と気づかされていく。映画の見せ方について「全ては監督による決めつけであり、お客さんに作為的な映像を押し付けている」と踏まえた上で「お客さんの映像の見方は自由。僕らは極力カメラの前で繋いで見せているだけ。どこまでシンプルになれるか。起きていることに立ち会う」と説く。「映画はそもそも音がない芸術。トーキーが生まれて以降、サイレント映画と云われました。写真が動いていることをおもしろいと認識出来るか」と解説する。

 

劇中にイエス様が登場する発想について、奥山監督は「最初はイエス様を出さないつもりでした。僕の実体験を映画にしようと思い作品にした」と告白。キリスト教にするかも考えずにプロットを書いて、周りに意見を求めたが、皆からは「暗い、誰が楽しめるの?」と云われ、作品の本質を認識していった。楽しめる要素として小さなイエス様が思い浮かんだが「子役さんにイエス様に対する信仰心の変化を演技で表現できるのか。大人でも難しい」と懸念する。信仰心の象徴として考えていきながら「子供が想像するイエス様をしっかり描いたほうが楽しいかな」と構想していった。

 

本作は、群馬県中之条町の廃校なった中学校を利用した伊参スタジオで撮影している。木造で独特の空気が流れている建物で、場所を特定できる要素がない。奥山監督は「方言も入れずフラットに観てもらい、誰もが自分の記憶を呼び覚ませる映画にしたいな」と企画した。鈴木さんも「匿名的な映画になっている気がする。どんな人が観ても共感できるような作品で土着性がない」と評する。奥山監督も地域映画的な作品を撮ったことがあるが「地域を前面に出すと自分との距離が出来てしまう。地域との関連性を見出せないとしっかり撮れない」と実感。東京で生まれ育ってきたので「東京独特の作品を撮れるかもしれないけど興味がない。地域要素をなくした人間ドラマを撮りたい気持ちは昔もこれからもある」と語った。だが、知らず知らずのうちに日本独自の文化は表現されると認識しており「海外の映画祭では不思議がられて面白がってくれたことが新鮮。無意識に遠ざけているつもりだったけど、映画には滲み出てしまう」と認識させられていく。

 

京都造形芸術大学で映画制作について教えている鈴木さんは、本作を鑑賞し「作り方を学ばない方がおもしろいんじゃないか」と思ってしまった。さらに「映画の中で彼等に生きていてほしいから撮った手段がこの映画になった」と述べ「この映画が全国の人達に受け入れられていることが嬉しい」と喜んでいる。今回の貴重な機会に感謝しており「1年に1作は若い監督に”映画”を撮ってほしい。おもしろい作品は登場人物を眺めながら展開を想像したくなる。それを発動させ思考停止させないのが映画館」だと伝えた。奥山監督は「作った時は、レイトショーで1週間上映出来たら万々歳だった。外国の映画祭からの評価も有難いが、5月31日に東京で公開が始まり、大阪でも劇場公開してもらった。作って良かったし、作り続けていきたい」と目を輝かせている。

 

映画『僕はイエス様が嫌い』は、大阪・十三の第七藝術劇場で公開中。また、9月20日(金)より、兵庫・尼崎の塚口サンサン劇場でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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