炭鉱の町を舞台にした2部構成の社会派ドラマ『石炭の値打ち』が関西の劇場でも公開!
©Journeyman Pictures
イギリスの巨匠ケン・ローチ監督が、1977年にBBCのドラマ枠の作品として脚本家バリー・ハインズとタッグを組み、2部構成で製作した社会派ドラマ『石炭の値打ち』が11月29日(土)より関西の劇場でも公開される。
映画『石炭の値打ち』は、イギリスの名匠ケン・ローチが1977年にBBCのドラマ枠「プレイ・フォー・トゥデイ」のために制作した2部構成の社会派ドラマ。1969年の映画『ケス』に続いてバリー・ハインズが脚本を手がけ、当時の英国社会を象徴する存在でもあった炭鉱という労働現場を舞台に、そこに生きる人々の暮らしと人生をじっくりと描き出す。
第1部「炭鉱の人々(Meet the People)」(77分)では、イギリス皇太子の視察訪問を控えた炭鉱町の人々が、急ごしらえの“演出”とも言えるような清掃や修繕に奔走し、労働者たちが世間体のためだけに動員される様子をユーモアとアイロニーを交えながら描く。形ばかりの体裁を促す当局とそれに翻弄される労働者たちの姿を通し、階級社会の構造的な滑稽さと暴力性を浮かび上がらせていく。
第2部「現実との直面(Back to Reality)」(91分)では一転してハードでシリアスな作風となり、炭鉱労働における労働者への人権軽視と管理体制のずさんさが引き起こす事故の悲劇を痛切に描写。死と隣り合わせのなかで働く炭鉱夫たちと、その悲劇に直面した家族たちの現実をリアルに映し出す。
日本では未ソフト化・未配信のため鑑賞が困難だったが、2025年11月に劇場初公開となる。

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映画『石炭の値打ち』は、関西では、11月29日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、12月12日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。
労働に関する題材を変容していく時代に合わせて作り上げた社会派ドラマを長年携わってきたケン・ローチ監督。本作は、初期にテレビ映画として作られてきた作品の中で日本の劇場未公開だったことから、ようやく観ることが出来る機会を得られた。2部構成となっており、まず第1部は、「炭鉱の人々(Meet the People)」。短い時間ではあるが、イギリス皇太子が炭鉱を視察訪問することとなり、慌てて付け焼き刃の如く奔走する姿を描いていく。訪問までの短期間の中で、本来の業務をやりながらも、修繕したり見栄えだけをよくしたりする姿は滑稽であり、翻って、労働の本質を映し出しているようにも感じられる。そして、第2部「現実との直面(Back to Reality)」では、炭坑内での崩落事故を映し出していく。日本の作品でも炭鉱での事故を映し出すシーンを観たことがある気がするが、これほどまでにリアリティがあるように感じられる苦しさを映し出した作品も滅多にないのではないか。崩落した現場で、仲間や家族を救い出そうとしているにもかかわらず、経営層が柔軟に動けずにいる様子は、いつの時代になっても変わらないようにも感じられる。2部作を通して、労働が人々にもたらすものを1960年代から一貫して映し出していることに気づかされる限り。石炭という象徴に対する労働の値打ちを改めて問いただす一作である。
- キネ坊主
- 映画ライター
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