エンターテインメントの中にしっかりと社会派なテーマを内在できる…『おいしい給食 炎の修学旅行』市原隼人さんと綾部真弥監督に聞く!

修学旅行で訪れた青森と岩手を舞台に、給食マニアの中学校教師と、そのライバルである中学3年生の生徒が、非日常の中で繰り広げるアレンジ給食の勝負を描く『おいしい給食 炎の修学旅行』が10月24日(金)より全国の劇場で公開。今回、市原隼人さんと綾部真弥監督にインタビューを行った。
映画『おいしい給食 炎の修学旅行』は、市原隼人さんが主演を務め、給食マニアの中学校教師と生徒が繰り広げる給食バトルを描く学園コメディ「おいしい給食」シリーズの劇場版第4弾。1990年、函館。給食をこよなく愛する中学校教師である甘利田幸男は、アレンジ給食の天才である生徒の粒来ケンと、「どちらが給食をよりおいしく食べることができるか」という静かな闘いを続けていた。そんなある日、甘利田が受け持つ3年生の修学旅行の行き先が、青森・岩手に決定する。生徒の学びの旅であると説きながらも、頭の中はご当地グルメでいっぱいの甘利田。フェリーで本州に渡り、名物のせんべい汁やわんこそばに舌鼓を打つ甘利田だったが、そんな彼にケンはまさかのアレンジ勝負を仕掛ける。さらに旅先でケンが他校の生徒に絡まれるトラブルが発生し、止めに入ろうとした甘利田の前に、かつての同僚である御園ひとみが現れる。主人公の甘利田幸男役の市原さんやライバル生徒である粒来ケン役の田澤泰粋さん、テレビドラマシリーズ1作目のヒロインである御園ひとみ役の武田玲奈さんら、おなじみのキャストに加え、スパルタ指導教員の樺沢輝夫役で片桐仁さんが新たに参加した。
劇場版第4弾を製作するにあたり、綾部監督は「前作では、粒来ケン君がまだ卒業していない、甘利田先生も函館にいる状態だったので、最終的に函館編の完結をやらないとマズいんじゃないか。そして、粒来君を卒業させてあげたかった」という思いがあった。 とはいえ「函館で全10話のドラマをもう一回やるのはなかなか…。マニアック過ぎることになってしまうんではないか」と危惧し「映画だけで、ロードムービーとして修学旅行を取り上げて甘利田先生が外で外食をどう食べるか」と構想。「最初と最後は給食で締めつつも、いかに『おいしい給食』の世界観の中で修学旅行を描くことができるか」と考え「そうすると新たな風が吹き、違う魅力が出るんじゃないかな。 変わらない『おいしい給食』と特別編としての修学旅行、という見せ方ができる。飽きられずに楽しく見られるんじゃないかな」と着想した。また、武田玲奈さんが演じる御園ひとみ役を再登場させる、というアイデアはプロデューサーからよく挙がっており「今作は連続ドラマを経たわけではない。一本勝負なので、御園ひとみというヒロインがピッタリ。彼女も20代後半に差しかかり、新たな役柄としてテーマ性も浮かび上がってくる。新人教師だった22歳の悩みと28歳の悩みは違う。 一つ壁を乗り越えたその先にも壁があり、話が二重三重に転がっておもしろくなるのではないか」と気づいていく。
「函館に行けたことすら奇跡だ」と思っていた市原さんは「 給食のために学校に来ている、と言っても過言ではない甘利田先生が、修学旅行の旅に出て、青森と岩手の食材を地産地消する…どんな物語になるんだ」とワクワクしていた。台本を読んでみて「『おいしい給食』はこんなにまだ新しい世界観があったのか」と興奮し「常に変わらない甘利田でいよう。環境が変わっても甘利田が変わらないからこそ、お客様に喜んでいただける作品ができるんじゃないか」と考え、役作りをしていく。今回、煎餅汁とわんこそばを食べさせてもらうことになり「給食では絶対食べられないメニューですので、すごく楽しかった。どんな風に食べようかと…。煎餅汁を食べて、あちゃー、と後ろにのけぞる、といったアクションは自分で勝手にやっている。どんなモノローグやナレーション、心の声を抑揚つけてやろうかな」と考えるだけでも十分に楽しんでいた。
今作では、青森の花堺中学との交流があり、さらに1クラス分以上のキャスティングが必要となる。前作までは、TVドラマから映画への流れがあったが「今回は映画1作だけであるため、最初からずっと元気な状態で撮影できるかな」と綾部監督と考えていた。とはいえ「TVドラマだと、第一話では少し硬かった演技が、次第に解れていく。実際、学校では1学期の最初と夏休みを迎えた頃には違っている。クラスでの関係性が出来上がっていく。そんな風にして映画に突入していく」といった経験をしており「今回、映画1本目で最初から大事なシーンを沢山撮らなきゃいけなかった。今までのリハーサルの中でも一番時間をかけていたんです」と明かす。さらに1クラスが登場するので、全員が坊主或いは三つ編みという条件の下でも出演していただける方をオーディションで募った。そこから、独特の校風を作り上げる必要があり、校歌の歌い方も含めて練習しており「一番成長してくれる中学生を相手にして、ここまでやれるんだ」とやりがいもある。そして、対立するスパルタ管理教育者の樺沢輝夫役で片桐仁さんをキャスティングしており「甘利田と違う化学反応になると、おもしろいんじゃないかな。 ちょっと嫌味で、武闘派ではない体育教師でありながら、ネチネチした厭らしさが醸し出せる」と興味津々だった。
様々な個性的な俳優がキャスティングされていることを確認した市原さんは「キャラの渋滞だな(笑)」と実感。受け身の立場で演じており「とんでもないテーマパークに来てしまった。 レールがないジェットコースターに乗ってしまった」と驚きながらも「 六平直政さんのお芝居は、最高におもしろいです。小堺一機さんは、私の唐突なリアクションにもとても繊細に合わせてくださる。 高畑淳子さんは、本当に尊敬する表現者の方であります」と敬意を表す。そして、片桐仁さんについて「しっかりとメッセージを込めて、一つ一つ丁寧に芝居と向き合っていらっしゃる」と感じ「綾部監督によるワークショップを経て役作りができた子ども達との顔合わせの際には、自己紹介する1人1人について全員のメモをとっていらした。 役者としても真面目で丁寧な方。 相手をしっかりと見るからこそ演じられる役だと」と察した。片桐さんが演じた樺沢輝夫について「 横暴に見えるキャラクターで、子ども達に対して厳しくて押し付けがましく、それが正しいと疑わず教育をするのですが、真面目で丁寧な片桐さん方が演じているからこそ、そういった向き合い方ができるんだな」と気づき「表面的な姿で見るだけではなく、樺沢の変遷を考慮していくと、深い意味で、人間らしさや正義とは何だろう」と考えていく。当時の象徴的なスパルタ教育を実践する先生として描かれているが「子ども達との正しい向き合い方や教育の方法は、何処にあるのだろう。社会に出れば、さらに揉まれていくかもしれないのに、学校で子供たちかある本作だが「様々なキャラクターが出るからこそ、メッセージ性もある社会派な作品でもある。時代や様々な情勢に対して問いかけをしていくのが『おいしい給食』なんだ」と痛感し「だからこそ登場する個性的な人達、それぞれにしっかりとした意味があるんだ、と感じながら、様々なキャラクターを見させていただいています」と話す。なお、武田玲奈さんと再共演について喜んでおり「玲奈ちゃん自身も、一度演じた役を数年が経った後に再びやるなんて夢にも思っていなかったんじゃないでしょうか」と察した。武田さんについて「ご本人も様々な経験をされて、より力強く艶やかになっている。前回は、何かを受け止めて何かを感じ、それを表現に移す姿を見ていたんです。今回は自ら様々なものをキャッチしに行こうとする姿勢が見えていた。私が言わせていただくのは、大変おこがましいですが、玲奈ちゃん自身も、人間としてまた新たな魅力をまとって戻ってきてくださった」と受けとめており「シリーズが続いていないと味わえない醍醐味です。今回はseason1の映像が映るので、懐かしさを感じながらも、何もないところから作品の意義を見出す苦しみをもう一度思い出させてもらい、初心に返せていただけた」と感謝している。
甘利田先生による独特なアクションは台本に書かれておらず、市原さんのアドリブな演技によって作り上げられてきた。TVドラマと映画を通じて沢山のアクションを見てきた綾部監督としては「基本的に、市原君が自身の演技プランとして甘利田を最も理解した上でチャレンジしたいことをプランしている流れは、もちろん尊重している」と述べ「ただ、それを客観的に見た時の判断は違ってくるので、調整が必要。おもしろいので、どのように撮ればおもしろくなるか。逆に、いき過ぎてしまうと、シーンに込められたテーマの方向性を誤ってしまう。一つ一つについてやり取りしながら、基本的には全ては自由に演じてもらっている」と説く。「食事シーンだけでなく、市原君による甘利田を引き出してもらいながら、全体のバランスも整えている」と話しながら「皆が個性的過ぎる。同じ世界で描かれている芝居にするのは大変そうで、意外と楽しくもある。失敗だと思ったことがあまりない。ジャンルや出自の違う人が沢山いるけど、個性がぶつかり合いながら作っていくのが『おいしい給食』ならではのスリリングさ。想像以上のアドリブで一番いいところを使わせてもらっている」と語った。市原さんにとっても「これほど出演者を信頼していただける現場はすごく珍しいです。 それだけの余白がある。何かを作らせていただけることもすごく光栄なことであり、原作がないことは強みであり、可能性がある」と感じており「最初に、この作品の台本をいただいた時、十人の役者がいたら十通りの甘利田ができると思いました。こういう演者がやったら、こういう感じになるのかな。私がやったら、どんな甘利田になるんだろう。唯一無二の誰も見たことがないキャラクターを生み出してみたい。常に挑戦だった」と思い返す。season1の頃には、綾部監督に「使われなくても大丈夫ですので、こういう芝居やってみていいですか」と伝えていたことがあり「それを全部受け止めてくださった度量がある監督がいたからこそ、振り幅がすごい。 常識と非常識を同じだけ振り回しているような、とてつもないキャラクターが生み出せた。全ては信頼だと思います。とにかくすごく楽しいです」と信頼している。
なお、今作は本映画シリーズで完成までに最も時間を要しており、綾部監督は「編集作業に入った時には、全てが繋がっているだろうか。正直に言えば、不安の方が多かったんですよね」と打ち明ける。最初は長尺になってしまったが「抽出しながら、子供が見ても飽きないギリギリのラインで2時間程度の最適な映画にするには、どうしたらいいか。勿論テーマ性を浮かび上がらせながら、しっかり強いものにしなきゃいけない」と検討し「スパルタ教育に関する賛否があったが、スパルタに押さえつけられた人達が、今は個性的に生きている、といったアンチテーゼへの更なるカウンターパンチもある。今の方が自由な時代だけど、意外と個性的じゃない。樺沢の教育のように前時代的な教え方も間違ってない部分もある」といったテーマも見出した。「エンターテインメントの中にしっかりとこのテーマを内在できる」と確信し「粒来ケン+ひとみ先生との再会+樺沢、という1つのラインが出来上がった時、この映画はおもしろいんじゃないか」と手応えを感じられている。
今後、更なる次回作を期待してしまうが、市原さんは「まだ先のことは全く考えられない」と正直に話しながら「もし次があるなら、変わらない甘利田でありながら、”近くで見ると悲劇、俯瞰でみると喜劇になる”といったように、甘利田がとんでも大きな壁にぶつかるような悲劇をいただきたい。それは何かわからないです」と期待していた。綾部監督は「甘利田は頑固で変わらない一面もあれば、相手をどういう風にも許容できる人なんですよね。別の場所に行けば、魅力的な人達と相対し、自ずと違った魅力が出てくる」と考えており「僕達と同じですね。分かったつもりでいたけど、この人と出会って、自身の違う一面に気づく。 そういったことが見えてくると、さらにファンの方も喜ぶのかな」と受けとめている。
映画『おいしい給食 炎の修学旅行』は、10月24日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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