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巖さんの言葉や思いを伝えたい、巖さんが生きている世界を描きたい…『拳と祈り —袴田巖の生涯—』笠井千晶監督に聞く!

2024年10月14日

放火殺人の疑いをかけられ、死刑囚となり、47年7ヶ月も獄中で過ごした袴田巖さんを追いかけ、釈放から10年の節目に完成されたドキュメンタリー『拳と祈り —袴田巖の生涯—』が10月25日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、笠井千晶監督にインタビューを行った。

 

映画『拳と祈り —袴田巖の生涯—』は、死刑囚となり、47年間の獄中生活を送った袴田巖さんの闘いの軌跡を追ったドキュメンタリー。1966年6月に静岡県で起きた味噌会社専務一家殺人放火事件の犯人として死刑判決を受け、47年7ヶ月もの獄中生活を送ってきた袴田巖さんが、2014年3月に突然釈放された。プロボクサーとして青春を駆け抜けた袴田さんは30歳の時に逮捕され、無実の訴えは裁判所からも世間からも黙殺された。明日にも死刑が執行されるかもしれないという恐怖の日々を耐え続け、釈放時には78歳になっていた。死刑囚が再審開始決定と同時に釈放されるという前代未聞の事態が劇的に報道されるなか、22年間にわたって袴田さんを追い続ける笠井千晶監督が、その舞台裏を記録。カメラは半世紀近く引き裂かれていた袴田さんと姉の秀子さんによる2人の生活をとらえ、対話を重ね、袴田さんの心の内面深くに迫る。

 

静岡放送に入社し報道部の記者として2年目を迎えた頃、袴田事件について初めて知り興味を持った笠井さん。これまで多くの方々が冤罪の可能性や疑わしい証拠について検証してきた。当時、事件発生から36年が経過しており、死刑囚となり無実を訴えてきた袴田巖さんが家族に宛てた膨大な手紙の存在を知り「実際にそのお手紙に触れ、読んでみたい」と切望し、お姉さんの袴田秀子さんに連絡を取り会いにいった。笠井さんは冤罪事件に興味があったわけではないのだ。秀子さんは、静岡放送の記者である笠井さんによる取材を快く受け入れ、手紙を見せることに。だが、一度で読める量では到底なかったので、複数回に分けて手紙を読ませてもらった。その後も取材を重ねたかった中で、静岡放送での異動があり、浜松市に引っ越すことに。そこで、秀子さんが大家であるマンションの一室を紹介してもらい、結果的にお世話になることになった。以降、取材として秀子さんに伺うだけでなく、一層に近い距離感を以て接することなり、お互いに信頼関係を築いていく。2004年に静岡放送のドキュメンタリー番組「宣告の果て〜確定死刑囚・袴田巖の38年〜」を制作し、その後、中京テレビに転職しても独自取材を重ね、最終的に袴田事件に関する4本のテレビドキュメンタリー番組を制作した。

 

2014年、袴田巖さんが釈放された時には「ドキュメンタリー映画の制作にすぐにでも取りかかろう」と決意。死刑が確定して確定囚になると、極一部の例外を除き、家族と弁護士以外は面会も出来ず、一度も巖さんに会ったことがなかったが、釈放後は御本人と会えることに。「目の前にいる姿を撮影できる」と喜びながら、普段の袴田さん姉弟の姿をさりげなく撮っていくことが出来た。なお、作中にある警察の取り調べを収めた音声に関しては、再審請求の中で弁護団が検察に対し証拠の開示を求め公開されたもので、弁護団の了解を頂き、使用させてもらっている。そして、今から3年前に「ご高齢の2人が元気な間に映画を完成させて劇場で公開しよう」と決断。その後、偶然にも無罪判決が出た直後の劇場公開に至っている。

 

撮影しながら編集作業も進めていった。400時間にも及ぶ膨大な撮影素材があったが、1年近くかけて全てを見て文字起こしをすることからスタートしており「巖さんが主人公の作品にしたい。素材を選別する時には、巖さんが発する言葉から人柄などを理解できるものを最優先で盛り込もう」と編集方針を決定。秀子さんによる良い言葉も沢山あったが、抑えぎみにして2人のバランスや存在感を保っている。なお、事件の検証や冤罪に至った経緯に関する映像は最小限にしており、その分「巖さんが青春を過ごした時代の空気感を取り入れたい」と検討。可能な限りアーカイブ映像を探し出し「巖さんが懐かしいと思われるような作品にしよう」と心がけながら、劇場で公開できる尺まで絞っていった。作品全体を構成する際には、まず紙を用いた台本を作っており「どういったことを軸に描き、どのようなシーンを取り入れるか。ひょっとしたら時系列として複雑な構成になるかもしれない」と試行錯誤している。だが「今回は、巖さんの言葉や思いを伝えたい。巖さんが生きている世界を描きたい」という主軸を定め「ナレーションのないドキュメンタリーとして描くならば、巖さんについてじんわりと感じながら理解できるよう、ある程度のボリュームは必要だ」と確信。『拳と祈り —袴田巖の生涯—』というタイトルに相応しい159分の作品が出来上がった。

 

完成した作品は秀子さんにも観て頂いており、「巖がたくさんおしゃべりしているね」という素直な感想と共に、監督自身が撮っている近い目線の雰囲気を感じてもらっている。秀子さんは巖さんの日々を見続ける10年間を過ごしてきたものの「10年間の記憶の中には、徐々に忘れていく部分もあるはず。そこも映像にはしっかり残っている。振り返りながら懐かしく見てもらったんじゃないかな」と受けとめていた。つい先日に無罪判決が出たこともあり、巖さんを撮り、映画として完成するという目標が無事に叶った。現在の状況に感謝しているという笠井監督は本作の劇場公開を楽しみにしている。

 

映画『拳と祈り ー袴田巖の生涯ー』は、関西では、10月25日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、10月26日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、11月8日(金)より兵庫・洲本の洲本オリオン、11月9日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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