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僕らが強く信じてきたライブ映像の価値を復活させたい…!『平家物語 諸行無常セッション』河合宏樹監督に聞く!

2024年10月21日

小説家の古川日出男さんがサックス奏者の坂田明さんと、ZAZEN BOYSの向井秀徳さんに声をかけ、時代を超えて語り継がれている『平家物語』を文学と音楽の枠を超えて、三者三様の表現をする一夜限りのライブイベントを映しだす『平家物語 諸行無常セッション』が10月25日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、河合宏樹監督にインタビューを行った。

 

映画『平家物語 諸行無常セッション』は、小説家の古川日出男さん、サックス奏者の坂田明さん、ロックミュージシャンの向井秀徳さん(ZAZEN BOYS、ex.NUMBER GIRL)が共演した一夜限りのライブイベント「平家物語 諸行無常セッション」を記録したライブ映画。古川日出男さんの呼びかけにより、2017年5月18日に高知県・五台山竹林寺にて開催されたイベント。現代語全訳を手がけた「平家物語」のテレビアニメ化などで平家ブームの立役者のひとりとなった古川さん、かねて朗読と演奏で「平家物語」を翻案してきた坂田さん、音楽を通して「諸行無常」を唱え続ける向井さんの3人が、文学と音楽の枠を超え、圧倒的な熱量のセッションを繰り広げた。『うたのはじまり』『兵士A』など人間の内面からあふれ出た音が世界や状況と交わる様子をとらえてきた河合宏樹監督が、伝説の一夜をカメラに収め、スクリーンによみがえらせる。

 

2016年12月、古川さんが手がけた「平家物語」の現代語訳版が出版された。その際、高知県でのライブイベントに関する誘いを受け、古川さん自身の主催で『平家物語 諸行無常セッション』を企画。イベントの一年前に古川さんより「来年のこの日程を空けといてくれ」と耳打ちされた河合監督は、当日の様子を記録するために現地に伺うことに。当時は、映画化までは想定していなかった。

 

ライブイベントが開催された高知県の五台山竹林寺は、境内が山の上にあり、何十段もの階段を上らないといけない。出演者やスタッフ、お客さんも同じように登る必要があり「登っていく中で、皆が各々に或る種の磁場を感じ取っている」と実感しており、「あの立地だからこそできなかったセッションだった」と思い返す。河合監督自身はライブのリハーサルには参加しておらず、現地で流れゆくままに撮影している。自身含め4人の手持ちカメラで連携しながら撮っており「彼らは無意識に即興でやっている部分が凄く多いので、僕ら全員がセッションしているような気持ちで撮ることになった」と話す。

 

古川さんとは16年来の付き合いがあり撮り続けてきた河合監督。古川さんと向井さんによるセッションは何度も撮影しており「この2人に坂田さんが加わる…坂田さんは、ジャズ界の超レジェンドであり、インプロビゼーションやパフォーマンスによる『平家物語』を何十年にわたり披露している。」。また「繰り返される諸行無常 よみがえる性的衝動」というフレーズを20年以上も発してきた向井さんが参加することは必然であり「本当にこの3人が集まり此処で共演することは、奇跡的であり伝説になる」と確信し「途轍もないテンションと気合いが集結し、ライブ中も全員が一種のゾーンに入っていた。坂田さんが”祇園精舍の鐘の声”と唱えた時には時空の扉が開いてしまった」と驚愕。「向井さんはギターを持ち、坂田さんがサックスを持つと、古川さんだけが身1つじゃないか」と指摘されることがあったが「向井さんがギターと合わさり1つの身体、坂田さんもサックスがあってこそ1つの身体。古川さんも本を読み、最後にはお経まで唱えていく。 全体で1つの体だった。これは、身体と身体による交わりであり、最早、僕のカメラも交ざっていた」と言わざるを得ない。

 

ライブ終了後、映像の編集作業は即時取りかかり、2017年中には終えていた。音のミックスは粘って取り組んだ。カメラワークの切り替えは無意識でやっており「元々決め打ち等が出来ない。何かを作ろうと思って手がけていない。編集作業におけるセッションだと捉えている」と自らの感性を露にした。

 

出来上がった作品自体はハードディスクの中に5年間も留めており「ディスクは”俺を早く外に出してくれ”と自宅の中で亡霊のように唸っていた」と表現する。「平家物語」は人気のある歴史的な文学だ。2022年には山田尚子監督が現代語訳版をTVアニメーションシリーズとして放映され、古川さんによる「平家物語 犬王の巻」というスピンオフ作品を 湯浅政明監督がアニメ映画として公開した。また、NHK大河ドラマでも平家が取り上げられており、平家に関するブームの再来を察し、出演の3人に「映画として公開させてくれないか」と声をかけていく。まずは、公開記念イベントを開催し、劇場公開のタイミングを計りながら、ミニシアターに声をかけ交渉等を続け、2017年のライブから7年を経て、ようやく今回の上映となった。

 

先月には、東京・新宿K’s cinemaで 全日イベント付 1週間限定上映が行われており「なんだ、これは!」「これはとんでもないことが起きているぞ」という素直な反応が届いている。「坂田さんが原文を読み、古川さんが現代語訳を読んでいる。平家物語ファンの方なら、ある程度は分かる」ということも踏まえているが、最終的には拍手が起きたことには感慨深げだ。今後、全国遍路巡礼を実施することが決定しており、河合監督自身の意気込みも高まっている。これまで様々なライブ映像を撮り続けてきたが「最近、ライブ映像の価値観が変わり過ぎている。YouTubeにアップロードしてもリンクにまで辿り着いてくれない。尺が長いと早送りされてしまう。これでは意味がない」と危機感を感じており「今一度ミニシアターさんと結託し、僕らが強く信じてきたライブ映像の価値を復活させたい。お客さんを劇場内に拘束させて全部見てもらうことが1番やりたかった」と率直に話す。なお、劇場で販売されるパンフレットには、平家物語の解説、出演の3人や河合監督の心境も綴られており「マストバイ」とお薦めしている。

 

これまで、河合監督は古川日出男さんを16年、七尾旅人さんを12年撮り続け「留める」ことを続けてきた。そして、近年の世の中の状況や自身の心境を鑑みながら「自分のことを留めていくことも必要だな」と考えるようになっている。現在は「次は、自分の人生を掛け合わせたようなフィクションをやろう」と企画し、まずは脚本を執筆中だ。とはいえ、監督自身の周囲には、圧倒的な実力を持つレジェンド的な小説家が存在していることを認識しており「古川日出男さんと出会うまでは、レオス・カラックスが大好きな映画小僧だった。当時の軸に戻ってみよう」と模索しながら取り組んでいる現在地点である。

 

映画『平家物語 諸行無常セッション』は、関西では、10月25日(金)より京都・出町柳の出町座、10月26日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、11月8日(金)より兵庫・洲本の洲本オリオン、11月9日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。なお、以下の通り各劇場でのイベントを開催予定。

 

10月26日(土)出町座
15:30より上映開始、上映後にトークイベント開催
登壇:山下澄人さん(小説家、劇作家)×河合宏樹監督
司会:安東嵩史さん
【トーク】小説と演劇と、音楽とカメラ
小説家・劇作家の山下澄人を迎えての京都・大阪連続トーク。
山下が主宰する演劇のラボでは、突然知らない人同士が向き合い、テーマもないままに対話が始まる。そこに忽然と現れるセッション、生と生の交錯。それは山下の語るところの「飛ぶ瞬間、ゾーンに入る瞬間」である。『平家物語 諸行無常セッション』にも、おそらくその瞬間は記録されている。即興と「ゾーン」とはいったい何なのか。

 

10月26日(土)第七藝術劇場
19:15より上映開始、上映後にトークイベント開催
登壇:山下澄人さん(小説家、劇作家)×河合宏樹監督
司会:安東嵩史さん
【トーク】
「災後(アフターマス)」を書く/読む/演じる
災、病、戰。「できごと」は、記録されるものだけが後世に残るのではない。直接には表面に浮かんでこずとも、「できごと」は人びとが語ることや選ぶ行動の中に浸透し、ときに思いもしなかった場所に忽然する。山下澄人の小説に、パフォーマンスに、地下水脈のように流れる「災後」の時間を聞く。

 

11月10日(日)元町映画館
19:30上映開始、上映後にパフォーマンスセッション開催
キュレーション&トーク:河合宏樹監督&白玖欣宏さん(映像ディレクター・絵本作家・神戸芸術工科大学助教)
演奏:butajiさん(シンガーソングライター)
【パフォーマンスセッション】
「阪神大震災はいまも続いてる」
災の残響はどこまで続き、未来に響くのか
神戸にルーツをもち、阪神淡路大震災を経験したbutajiと白玖欣宏を招き、トークと演奏を軸とした災後パフォーマンスを行います。災は800年前から琵琶法師が鳴らし、歌い、口伝された平家物語から続き、今も日本を襲い続けている。災近づく未来に歌は届くのか。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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