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猫が住むことさえ許容できない街は、私達にとっても優しい街なのか…『五香宮の猫』想田和弘監督に聞く!

2024年10月4日

岡山県牛窓で古くから地元で親しまれている鎮守の社である五香宮と、住み着いている数十匹の野良猫たちを描くことで、自然と人間の関係を再考していく『五香宮の猫』が10月19日(土)より全国の劇場で公開される。今回、想田和弘監督にインタビューを行った。

 

映画『五香宮の猫』は、『選挙』『精神』等の「観察映画」と称する独自の手法のドキュメンタリー作品で知られる想田和弘監督が、『牡蠣工場』『港町』の舞台となった岡山県牛窓の人と猫と自然をとらえたドキュメンタリー。瀬戸内海の港町である牛窓で古くから親しまれてきた小さな鎮守の社である五香宮。数十匹の野良猫が住み着いていることから「猫神社」とも呼ばれ、猫好きの住民や来訪者からは喜ばれているが、その一方で糞尿の被害に悩まされる住民もいる。2021年に27年暮らしてきたニューヨークを離れて牛窓に移住した想田監督と妻でプロデューサーの柏木規与子さんは、新入りの住民として地域に飛び込み猫を巡る問題に巻き込まれながらも、高齢化の進む伝統的コミュニティとその中心にある五香宮にカメラを向け、四季折々の美しい自然の中で猫と人間が織りなす豊かな光景を映し出していく。

 

監督自らが定めた「観察映画の十戒」に則り、作品を作り続けてきた想田監督。本作においても、初対面でありながらも許可を頂いたら直ぐにカメラを回しており「そこで映るものは、ぎこちないものかもしれない。だけど、それでもいい。それこそが今映し出されている関係性なんだ」と肯定する。また「こちらが何かを撮ろうとしなければ、相手は緊張しない。特別なことはしておらず、普通に振る舞ってくださる」と受けとめており「そういう時にこそ、おもしろいことが起きる」と説く。

 

また、これまでの作品においても猫が登場することは多かったが、あくまでも脇役だった。だが、今回は猫達が主役だ。今までも「猫が主役の作品を撮りたい」と考えたことがあったが、明確な題材は無かった。今回は、移住した岡山県牛窓で成り行きによって夫婦で野良猫の捕獲を手伝うことがきっかけでカメラを回し始めており「当初、映画にしようとは思っていなかった」と明かす。結果的に本作が出来上がったが「昔から猫とはご縁があり、僕のほとんどの映画に登場してもらっています。一度は猫に主人公になってもらって映画を作らないといけないでしょう」と或る種の必然性は感じていた。

 

猫にカメラを向けることにあたっては特別なことはしておらず「人間と同じですね。撮ろうとするのではなく、そこに佇んでそっと撮らせてもらっている」というスタンスだ。作中では、猫が人間の言葉を喋っているような光景があり、想田監督は「猫は喋りますよ」と断言。「僕らの家に何度も入ろうとしてくる茶太くんは、凄くおしゃべり。言葉であることは明らか」と述べ「僕等に理解する能力がないだけ。その時々によって声色や喋り方が違う。単に泣いているだけじゃない。絶対に何かを喋っていると思う瞬間が毎日ある。勿論、全く喋らない猫もいる」と解説する。

 

野良猫の捕獲にあたり、地域の寄り合いにも参加する必要があり、想田監督はカメラを向けた。映し出されたシーンは掘他の国にはない日本独特の光景にも感じられ、外国の映画祭で上映された際には「不同意であることに同意する」といった表現を以て、映し出される人間関係を捉えた批評がなされている。実際の寄り合いでは、それぞれの意見について述べていくが、踏み込んだ議論には発展しておらず結論を出していないため「曖昧だけど、衝突を回避する知恵でもある。独特の身体性がある」と気づかされ「僕にとっては懐かしくもあり、新たな発見でもあった」と思い返す。27年間もアメリカ・ニューヨークに住んでいたこともあり「意見の違う人達と議論するなら、相手を論破するか説得してきた。でも、そのようなことをすると、コミュニティは分断してしまう可能性があるのではないだろうか」と熟考。世の中で起こっている出来事の傾向を鑑みながら「最近、敵と味方に分かれて相手をやっつける風潮が特に強くなってきた。これは世界的な現象にもなっている。修復出来ない程にコミュニティが分断してしまっていることもある。これを突き詰めると戦争にまで至ってしまう。それらを回避するための方法は伝統社会で育まれた知恵の中にあり、それが映し出されたんじゃないか」と解釈している。

 

四季折々の姿を撮り終えた後、編集段階となったが、時系列順に纏めておらず「緩やかに時系列。夏から撮り始めたが、映画は春から始まっている。当初は春夏秋冬の構成だった。編集では、新たなバージョンができるたびに(プロデューサーの)柏木と一緒に観てディスカッションする」と振り返り「第三編の頃、柏木から”やっぱり最後は春に戻った方がいいんじゃないか”と言われ、映画のストラクチャーが見えた」と明かす。「これはサイクルについての映画なんだ」と発見し、映画の方向性も定まった。ポストイットを使用して1つ1つのシーンを書きだし、順番を入れ替えたりシーンを足したり引いたりしながら納得できるまで試行錯誤を重ねた上で本作を仕上げていった。完成した作品は既に各国の映画祭で上映されており「チケットが発売と同時に売り切れてしまう程に関心が凄く高かった。上映後は泣きながら劇場から出てくる人もいる。人それぞれ様々な反応がありますね」とレポート。各国での配給も決まりつつあり、様々な国で公開できそうだ。

 

なお、現在の五香宮は、猫の数が急激に減少しており「みんな避妊去勢手術をしたので、基本的に増えることはないですね。捨て猫もいるが、地元の方が協力して里親を見つけていく。結局、このままだと猫はいなくなる」といった状況に想田監督自身は複雑な思いがある。「そういうことでいいのかな。猫が住むことさえ許容できない街は、私達にとっても優しい街なのか」と感じ、撮影時に遭遇した或る小学生の一言には「ハッとしましたね。シンプルに考えれば、その通りだな」と受けとめざるを得ない。

 

牛窓に移住した現在、監督自身の生活もガラリと変わり「今までは1、2年に1本程度のペースで映画を公開してきた。だけど、今回は4年ぶり。全てがスローダウンしているんですが、心地良い。だから、次はいつになるのかな」と本音を漏らす。「今までは、一生懸命に映画を作ることを優先順位の最上位においていた。それ以外の全ては二の次、三の次にしていた。これはやり過ぎたな」と反省しており「今は真逆。猫の世話や友達と過ごす時間、日々の生活における営みを大事にした上で、時間の余裕がある時に映画を作ることにしよう」という思いに至っている。

 

映画『五香宮の猫』は、10月19日(土)より全国の劇場で公開。関西では、10月19日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や京都・烏丸の京都シネマ、10月26日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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