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登場人物の持つエモーションが頂点に達したところでスパッと切れるストーリーが好きなんだな…『麻希のいる世界』塩田明彦監督に聞く!

2022年3月17日

重病を抱えた少女が、美しい歌声の少女に出会うことで、それまでの日常が揺り動かされていくさまを描く『麻希のいる世界』が関西の劇場でも3月18日(金)より公開。今回、塩田明彦監督にインタビューを行った。

 

映画『麻希のいる世界』は、『害虫』『カナリア』『抱きしめたい -真実の物語-』の塩田明彦監督が、元「さくら学院」の新谷ゆづみさんと日髙麻鈴さんをダブル主演に迎えた激しい愛と青春のドラマ。『さよならくちびる』で新谷さんと日髙さんに出会った塩田監督が、2人を想定して執筆したオリジナル脚本をもとに撮りあげた。重い持病を抱え、生きることに希望を持てずにいた高校2年生の由希は、同年代の麻希と海岸で運命的な出会いを果たす。麻希は男性関係の悪い噂が原因で周囲から嫌われていたが、彼女の勝ち気な振る舞いは由希にとって生きるよすがとなり、2人は行動をともにするように。麻希の美しい歌声を聞いた由希は、その声で世界を見返すべくバンドの結成を決意する。一方、由希に思いを寄せる軽音部の祐介は彼女から麻希を引き離そうとするが、結局は彼女たちの音楽づくりに協力することになり…

 

前作『さよならくちびる』は、塩田監督のオリジナルストーリーであり「主演の小松菜奈さんと門脇麦さんが魅力的で手応えもあった。大ヒットしたら続編が作れるように構想を練っていた。息の長い作品で、今でも観続けられてSNSの書き込みがあるのでありがたい」と反応を喜んでいる。一方で、ファンの女の子役で端役ながらも印象的な出演をした新谷ゆづみさんと日髙麻鈴さんについて「とても良い演技をしていたので、スピンオフを作るならこの人達。10代の少年少女の物語を作るのがおもしろいだろうな」と構想していた。また、他の作品の企画も進めていたが、コロナ禍になり「やることが何一つ無くなった。あまりにも何もない時間に放り出されて、何かをしていないと気が狂ってしまう」と告白。そこで「あの2人の話を考えてみよう、と思った。考え始めたら『さよならくちびる』のスピンオフとはまるで違った世界になっていき、切り離してオリジナルの作品にしよう」として新たにストーリーを練っていった。

 

近年、若手女性監督達から「『月光の囁き』『害虫』を観て映画監督を志しました」と云われる機会が増え「女性達から僕の作った10代の少年少女の映画を気に入ってもらえるなら…」とチャレンジしている本作。当時、還暦近い年齢になっていた塩田監督は「今更、10代のリアリティを掴むのは難しい。別の切り口を考えていかないといけない」と熟考しており「考えたエッセンスの一つが妖精ローレライの伝説。美しい歌声を聴いた人達に破局をもたらすギリシャ神話をイメージしている」と説く。「ローレライのような麻希、という10代のファム・ファタールなら今まで作られていない、ファム・ファタールのニュータイプを創造できる。それに負けない強いキャラクターとして由希が存在できれば大丈夫」と考え、この2人でストーリーを作っていく。映画全体を高鳴る心臓の鼓動のリズムで描いており「由希と祐介は同じリズム。麻希だけが違うリズム。鼓動の高鳴りの頂点で振り切れる。登場人物のエモーションが頂点まで駆け上がり、スパッと切れる。そんな風にエモーションの高まりの頂点で終わるのが良い」と自作のテイストを物語る。シナリオを書き上げた時点で「人を愛する様々な感情が全部詰まっている。相手のジェンダーすら関係なくなる愛し方がある。リアリティがある」と直感。映画業界にいる20代の女性に読んでもらい「これは私の青春だ」とリアルな反応があり「この脚本なら映画になる」と確信できた。

 

祐介を演じた窪塚愛流さんについて「本格的に俳優活動を始めたい、という話を聞いていた。興味を持ち、会ってみたが、白いタートルネックのセーターを着た彼は、発光体の如く輝いているように見えて華があった」と初対面の時から印象深かった。「華奢で線が細いけれども、ストイックでプラトニック。道を究めようとして一心不乱になる目標に向かっていく役が向いていそうな気がした」と受けとめると共に「あまりにもストイックで自身を律してしっかりしているが故に、一旦折れ曲がると極端な方向へ曲がっていく役にも向いている」と判断。監督が求める演技として「とにかく力強く感情を込めて、演技に技巧を凝らさなくていい」と伝えており「祐介は真面目で真剣であり、生きていくための駆け引きが出来ない不器用さがあり、真剣に必死に演じればキャラクターと一体化する」と確信できた。

 

新谷ゆづみさんと日髙麻鈴さんと窪塚愛流さんによる共演について、塩田監督は3人それぞれの眼差しに関する違いを意識している。新谷さんは「感情表現が豊かな人。かすかな眼差しで10の感情を語る。眼差しに情緒を込めるのが上手い」と認識し、日髙さんは「エキゾチックな顔立ちが武器で、瞳の奥に謎を秘めたようなミステリアスな演技が出来る」と捉え、眼差しの違いを踏まえ、2人のキャラクターを大きく分けた。窪塚さんについては「ストイックに自己を律していながらも込み上げてくる情熱に突き動かされていく緊張感のある、真剣な眼差し」と理解し「由希は一途な目線で、自分のことは一切考えていない。祐介は自身を理性で律しようとしながら、何かを求めているが、その理性の強さの分、堪え切れなくなると思わぬ方向にはじけてしまう」と危うさを感じている。本人達には一切説明していないが「三者三様の眼差しがあるストーリーだ」と本作を冷静に解説した。

 

なお、本作の劇中歌「排水管」と「ざーざー雨」は、向井秀徳さんが楽曲提供している。時間が限られている中でシナリオを渡して楽曲制作を依頼しており、向井秀徳アコースティック&エレクトリックの既成曲からの提供を希望したが、向井さんが「それはいかん。映画のためのエモーションではない曲を使うより、映画の為の曲を作った方が良い。時間があろうがなかろうが、作らないといかんでしょう」と応じてもらった。1週間後にメジャー調とマイナー調の2パターンの楽曲が説明なく届き「思いを叩きつけた麻希バージョンと、彼女の気持ちを汲み取りつつ作り上げた祐介のアレンジバージョンだ」と云われ「なるほど。メジャー調とマイナー調をアレンジで使い分けるという発想はすごい、これで映画の出来は約束された」と感心。本作が持つエモーションを見事に盛り上げている。

 

映画『麻希のいる世界』は、3月18日(金)より大阪・心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸の京都シネマ、出町柳の出町座、3月19日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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