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普通の女性が如何にして過激になっていくか…『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督に聞く!

2023年5月15日

多様性が重んじられる中、少数派に偏見を持つ女性達の日常が惨劇に変わっていく様をワンショットで描く『ソフト/クワイエット』が5月19日(金)より全国の劇場で公開される。今回、ベス・デ・アラウージョ監督にインタビューを行った。

 

映画『ソフト/クワイエット』は、マイノリティへの偏見を持つ白人女性達があるトラブルをきっかけに取り返しのつかない事態に陥っていく様子を全編ワンショット&リアルタイム進行で描いたクライムスリラー。郊外の幼稚園に勤めるエミリーは、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義グループを結成する。教会の談話室で開かれた初会合には、多文化主義や多様性を重んじる現代の風潮に不満を抱える6人の女性が集まる。日頃の鬱憤や過激な思想を共有して盛りあがった彼女達は2次会のためエミリーの家へ向かうが、その途中に立ち寄った食料品店でアジア系の姉妹と口論になってしまう。腹を立てたエミリーたちは、悪戯半分で姉妹の家を荒らしに行くが…
『ゲット・アウト』のジェイソン・ブラムが製作総指揮を手がけ、これが長編デビュー作となるベス・デ・アラウージョがオリジナル脚本・監督を務めた。

 

2020年、アメリカ・ニューヨークにあるセントラルパークで、犬をひもにつなぐように求めた黒人の男性を、白人の女性が警察に通報して物議を醸した出来事の動画を観て怒りを感じ、本作を作り始めたベス監督。自身でも、小学2年生の頃、有色人種の生徒に対して明らかに違った扱いをしていた女性の先生に出会っていたことを思い出す。当時の出来事について「自分は幼過ぎて起きていることを理解できていなかった。大人になってから反芻して、そういうことだったんだな」と気づかされ、本作の主人公であるエミリーのキャラクターを形作っていった。このことから、本作の制作会社については「Second Grade Teacher Productions」という名称にしている。

 

通常、ショッキングな出来事を描く場合、被害者を主人公にした作品が多い。だが、本作では加害者側を主人公にしている。「被害者であることは、物語的にはそんなに変化があるものになりにくい。彼女達のせいでもないし、間違いも犯しているわけじゃないし、彼女達が物語の中で学ぶべきものはない。ただ被害を受けている」と冷静に受けとめ「この物語のアプローチとしては、加害者目線の方がおもしろいんじゃないか。その方が、普通の女性が如何にして過激になっていくか、がヒシヒシと感じられるんじゃないか」と着想。とはいえ、登場人物が虐められることを描くことについて、精神的負荷が大きかったのではないか、と察せられる。脚本執筆中は公私において幸せな気持ちになりにくかったようで「だからこそ、早くその場を抜け出さなければいけない。限度がある」と痛感し、可能な限り早く仕上げていった。だが、重要なプロセスとなっており「現場では、今どんな境地にキャラクターがいるのか、役者にしっかりと説明することが出来た」と手応えを感じている。

 

作中で「アーリア人団結をめざす娘たち」を結成する登場人物達は、根っからの悪人ではないキャラクターとして描かれていく。ベス監督は脚本を書くにあたり、全ての人間に対し、一つの側面だけでなく、しっかりと立体的に描くようにしており「白人至上主義者を邪悪な存在として片づけてしまうことは、とても危険なことだ。私たち人間自体がモンスターであり、私たち人間の中に何かを信じ込んでしまうことが出来てしまう。そんな思想は誰の中でもある」と説く。ただ、脚本執筆時は「キャラクターそれぞれのモチベーションと目的と何なのか」と明確にすることを需要にしており「エミリーが最初に会う女性であるレスリーはソシオパスだ、と私は思っている。他人が痛みを感じていることに喜びを感じるキャラクター。他の女性については、とにかく自分が正しいと信じている、という強い思いを持っている」と述べる。現在、そういった個性を持つ人間が沢山いる、と感じており「彼女達は、生活様式や宗教や優越感に浸っている思想にしがみつき、そういう世界でなければ幸せや繁栄はありえない、と信じている。彼女達1人1人の動機が何なのか」とスポットを充てて書き上げた。今作にはブラムハウスが製作に入っており「皆がホラーだと思って観る。それがおもしろいところ」と思惑があるようだが、監督自身は「どちらかと云えば、スリラードラマが好き。『セブン』がお気に入り」と率直に話す。

 

主人公であるエミリーには、これまでも共に仕事をしたことがあるステファニー・エステスを起用しており「彼女自身は素敵な女性。エミリーのキャラクターと全く違います」と説明。彼女に当て書きしているが「キャラクターが動かず何度も書き直した。私の経験を基にしたフィクションをいつも書いており、パーソナルなものしか書いていない。彼女のための物語を書くのが難航した。特に周囲が私たちを見る視点は、彼女が白人であることで違う」と苦労を重ねていく。その中で、例の動画を観ることで、本作の物語が出来上がった。なお、エミリーの夫であるクレイグについて、服装などの外見からも不釣り合いな関係性を表現しており「エミリーが如何に自分のイメージが大事な人間なのか、見せたかった。そのためのイメージをどんな風に作ってきたのか。それによって如何にクレイグが離れていってしまったのか、と示唆している」と解説する。

 

そして、全編ワンショットで撮影された本作。「一瞬たりとも観客に一息もつかせたくない」という気持ちがあり「映画が進むにつれて、緊張感が増していくようにしたかった。一瞬でもそうじゃないカットが入っていると、テンションが緩んでしまう。緊張感が続く戦争映画のように作りたかった」と明かす。また、野外で自然の中で撮影しているシーンもあり「人間の力ではコントロールできない。風や水が荒かった。安全面でも心配だった。カメラはワンテイクでずっと撮っているので、後ろ向きに水の中に入っていって、誰かがカメラを一旦預かり、別の船に乗り換えてからカメラを返してもらう。コンビネーションが大変でした」と振り返った。

 

次々にショッキングな出来事が起こっていく本作であるが「自分だったら、彼女達は自分にどんなことをするだろう、私の人生からどんなものを取り上げるだろう」と考えながら脚本を書いており「この物語自体は地に足が付いたリアリティーあるものだ、と思っている。気持ちが落ちてしまった日にこそ思い出してほしい大事な作品になっている」と思いを込めている。

 

映画『ソフト/クワイエット』は、5月19日(金)より全国の劇場で公開。関西では、5月19日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都や和歌山のイオンシネマ和歌山、5月26日(金)より神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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