様々な出会いや繋がりが生まれていく中で、人付き合いや友達の大切さに改めて気づく…『ただいま、つなかん』風間研一監督に聞く!
東日本大震災で被災した、唐桑御殿つなかんの女将が、学生ボランティアだった移住者らと歩んだ10年間を追ったドキュメンタリー『ただいま、つなかん』が3月3日(金)より関西の劇場でも公開。今回、風間研一監督にインタビューを行った。
映画『ただいま、つなかん』は、宮城県気仙沼市の唐桑半島にある民宿を舞台に、持ち前の明るい性格で多くの人から慕われる女将と仲間たちが積み重ねてきた10年以上の歳月を追ったドキュメンタリー。宮城県気仙沼市、唐桑半島の鮪立(しびたち)で、100年続く牡蠣(かき)の養殖業を営む菅野和享さんと一代さん夫妻は、東日本大震災の津波で被災した自宅を補修し、学生ボランティアの拠点として開放する。半年間で延べ500人を受け入れてきた菅野夫妻の自宅は、「皆がいつでも帰ってこられるように」との夫妻の思いから、2013年に民宿「唐桑御殿つなかん」として生まれ変わる。この地に移り住んだ元ボランティアの若者たちと女将となった一代さんは、復興のその先を見つめ、地域に根ざしたまちづくりに取り組んでいく。10年以上にわたり取材を継続した現役ディレクターの風間研一さんが、ニュースで放送され反響を呼んだ映像に、新たなシーンを加えて一本の作品として再構成。語りを震災直後から菅野夫妻や気仙沼とも深い関わりがある渡辺謙さんが務めた。
2011年の東日本大震災から1年が経とうとしていた頃、河北新報で、津波で被災した自宅を改修して学生ボランティアのために無償で開放し支援している菅野一代さんの記事に出会った風間監督。一般的なボランティアは、被災地に伺い、被災者を応援したり支援したりすることが多い。「つなかん」では、被災者である菅野夫妻がボランティアを支え応援している、という逆の構図になっていることに興味を惹かれ、菅野一代さんに連絡した。震災から1年が経過した中で様々な場所がメディアで紹介されていたが、「つなかん」にはTV取材は受けていなかったので、取材を提案し承諾頂いた。2012年2月25日、かなりの雪が降っている中で津波の被害も残っており独特の緊張感を持ちながら、菅野一代さんに初めて会った時、「こんにちは~!」と元気で明るく声をかけてもらい、驚いてしまう。取材していく中で「精神的に強く、直感的な方。でも、どこかに辛さや寂しさを抱えている」という第一印象があった。
「つなかん」の10年間を追っていく中で、変化を感じてきた風間監督。一代さんについて「新しもの好き。流行りものに敏感に反応している」と受けとめており「”つなかんフェス”を偶に開催している。イベントが好き。裏にはツリーハウスがあるのも、彼女が閃いた。今はサウナの聖地になっている。2,3年後には違う聖地になっているかもしれない」と想像する。取材に伺う際には、お客さんとして訪れており「初めて会うお客さんが毎回いる。つなかんでご飯を共にして、その後は、皆でコタツを囲んで語り合う時間がある。一代さんが入ることで、初対面の相手と仲良くなる。突然、人生相談が始まったり、恋バナや近況報告を自然とプライベートを話し出す。仲良くなって、翌日のチェックアウトでは、Facebookで繋がっていく」と振り返りながら「お客さんも毎回新鮮な気持ちで違う景色を楽しんでいく。様々な出会いや繋がりが生まれていく」と感じていた。改めて思い返し「極力つなかんの変化を見逃さないように一代さんに連絡して、変化があれば取材に向かうようにしてきた10年間です」と感慨深い。
当初は、ニュース番組のコーナーで「つなかん」を紹介してきたが「テレビ局の映像として眠らせておくとそのまま。映画作品として世に出して形に残していきたい」と映画化を決意。「ニュース番組で使わなかった映像は沢山あり、丁寧に取り込んでいきたかった。過去に撮った映像を全て見直し、ワンカットを一番良い状態で使っていくことを意識して、長さを気にしないでおこう」と方針を決め「一番良い素材を一番良い状態で出せるように意識しました。全カットが大事なカット。様々な映像がある中で、印象的だったり記憶に残っていたりするシーンを大事に拾って、当時の僕が感じたことを再現できるように」と考え編集していった。劇中曲については、気仙沼市出身の岡本優子さんが担当しており「岡本さんと一緒につなかんを訪れ、一代さんに会った岡本さんが感じたものを作って頂いた」と感謝しながら「作品を観ながら演奏してもらったものを用いている。話し合ったうえで、何回も録り直している。一切編集していないが、良い効果になっている」と満足している。
なお、『ただいま、つなかん』というタイトルについては「つなかん常連のお客さん、よく知っている人に観てほしい」と思いを込めており「つなかんに訪れると、皆が『ただいま』と言って入っていく。一代さんは『おかえり』と言って迎える。出発では『行ってらっしゃい』と言って送り出す。つなかんに行ったことがある人は、タイトルを見て納得する」と説く。「一代さんのストーリーですが、つなかんを知っている皆と共有したい。渡辺謙さんのナレーションは僕視点。僕もつなかんファンの1人なので、皆と一代さんを共感したい」と思いは強く「タイトル候補はいくつかあった。”おかえり、つなかん”案もあった。このタイトルは直感、ピンときた」と明かす。
昨年10月には「つなかん」での上映会を開催し、一代さんに観てもらった。一代さんは、様々なTV取材を受けているが、出演した映像を一切見ておらず「今回は映画になったので、内容の事実確認も含め観てほしい」と依頼し、はぐらかされながらも、再度依頼し応じて頂いた。「つなかん」のスタッフや家族の方も含め、しっかりと観てもらい「一喜一憂しながら最後には拍手が起こり、良かったなぁ」と感慨深く「『孫が成長した時に見せてあげたい』と仰っており、嬉しかった」と万感の思いにさせてもらった。今回、東日本大震災から12年を経た現在に劇場公開を迎えるにあたり「コロナ禍で人間関係や繋がりや距離感が考えた。本作は一代さんを中心にして人との出会いを描いた作品。映画を通して、人付き合いや友達の大切さに改めて気づくきっかけになったらいいな」と願っている。
映画『ただいま、つなかん』は、関西では、3月3日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、3月4日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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