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自分にとって信じられる揺るぎない普遍的なモチーフを描きたい…『LOVE LIFE』深田晃司監督に聞く!

2022年9月8日

悲劇に見舞われ問題を抱えながらも、愛する家族と暮らしていく夫婦がそれぞれに“人生”と“愛”を選択していく様を描きだす『LOVE LIFE』が9月9日(金)より全国の劇場で公開される。今回、深田晃司監督にインタビューを行った。

 

映画『LOVE LIFE』は、『淵に立つ』でカンヌ国際映画祭ある視点部門の審査員賞を受賞するなど、国際的に高い評価を得ている深田晃司監督が、木村文乃さんを主演に迎えて描く人間ドラマ。ミュージシャンの矢野顕子さんが1991年に発表したアルバム「LOVE LIFE」に収録された同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う夫婦の物語を描いた。
再婚した夫である二郎と愛する息子の敬太と、日々の小さな問題を抱えながらも、かけがえのない時間を過ごしていた妙子。しかし、再婚して1年が経とうとしたある日、夫婦は悲しい出来事に襲われる。そして、悲しみに沈む妙子の前に、失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパクが戻ってくる。再会を機に、ろう者であるパクの身の回りの世話をするようになる妙子。一方の二郎も、以前つきあっていた女性の山崎と会っていた。悲しみの先で妙子は、ある選択をする。
幸せを手にしたはずが、突然の悲しい出来事によって本当の気持ちや人生の選択に揺れる妙子を、木村さんが体現。夫の二郎役を永山絢斗さん、元夫のパク役をろう者の俳優で手話表現モデルとしても活躍する砂田アトムさんが演じた。

 

少年時代は、光GENJI等の音楽を聞いていた深田監督。だが、思春期を迎えるにつれて、日本の流行歌等はあまり聞かないようになっていた。しかし、20歳の頃、ある時に映画学校の友人から勧められ、矢野顕子さんの楽曲に出会った。「歌詞はとてもシンプルなのに、聞き手によって様々な捉え方が出来る」と興味深く感じ、特に「LOVE LIFE」を気に入り、映画化しようと模索していく。シノプシスの段階では「男女による三角関係がある中で、悲しい出来事が起こってしまう」という流れまでは思いついたが、以降のストーリーが思いつかず、事あるごとに検討していた。2014年頃、本作のプロデューサーである亀田裕子さんと出会い、シノプシスを見てもらい「是非映画にしましょう」と意気投合。本格的に映画製作へ向けて動き出した。

 

そんな中で、2017年より隔年開催されている「東京国際ろう映画祭」の主催者である牧原依里さんから依頼があり、映画祭で開催されるワークショップの講師として招かれる。深田監督自身は、映画ワークショップを何度も開催しているが「ろう者の方々と話すことで、私自身が大きな体験をさせてもらった」と印象に残っており「今まで、ろう者について十分に理解していなかった」と実感。「手話もひとつの言語である」と改めて認識し「手話は、相手をよく見て行うコミュニケーション。相手の手話や表情が重要」だと気づかされていく。翻って「私達は、相手の目を見て話さなくなっている」と意識せざるをえなかった。このワークショップでの経験によって、今作に三角関係となる人物の中に手話を使用するろう者の方を登場させるアイデアが思い浮かんび、脚本に取り入れていく。なお、「東京国際ろう映画祭」スタッフの方々は、ろう者の方や手話に関する表現を重要視しており、深田監督は、ろう者の方に何度も入念に取材を重ねていき「ろう者を演じてもらうには、ろう者が演じるのが一番良い。聴者にろう者を演じてもらうのには相当な練習の手間隙がかかる上に成果が期待できない」と判断し、ろう者に向けたオーディションも実施した。

 

ろう者であるパクを演じた砂田アトムについて、深田監督は「彼の持つ自由さ。非常に明るい性格。現場にいると、雰囲気を明るくして笑わせてくれるタイプ」だと受けとめており「舞台の俳優として活躍していますが、コメディアンではなくとも、コント的な舞台を多く演じている。その雰囲気が、夫婦の下に元夫として現れて三角関係となり、現在の真面目な夫と良い対比になるな」と察し、起用している。とはいえ、木村文乃さんや永山絢斗さんらと共演するにあたり、入念な準備が必要だ。忙しい方達ではあるが「台本を読み合わせ、リハーサルを行ってきたが、3人の関係性を構築していくことに重点を置いていった。三角関係を基にした繋がりを作り上げた上で、演技を摺り合わせてきました」と短期間で密度の濃い準備期間となった。なお、主人公の妙子とパクによる会話は全て韓国手話を用いており、かつての夫婦関係を濃密に表現している。

 

なお、深田監督の作品では、作品ごとに悲しい出来事が描かれていく。「映画を作る時、普遍的なことをモチーフにして描きたい」と考えており「自分にとって普遍的なことは何なのか。自分にとって信じられることが揺るぎない事実だ」と説く。例えば「それは家族ではない。家族は不確かなものだし、普遍的なものではない」と断じた上で「人はいつか死んでしまう。皆がそれぞれの孤独を抱えて生きている。或いは、人生は何が起こるか分からない。生きることの予測不可能性だと言える。次の瞬間に交通事故で死んでしまうかもしれない。地震が起きて建物が潰れてしまうかもしれない。予測不可能性みたいなものこそが、自分にとっての普遍的なこと」だと信じ、作品のモチーフや世界観へと昇華している。『淵に立つ』や『海を駆ける』では「人生が不意に何の目的も理由もなく、いきなりトラブルやアクシデントによって変わっていってしまう」という瞬間を執拗に描いた。「死や災害はときに、突然に何の伏線や意味もなく訪れてくる。皆誰もが抱えていて、将来的に死と向き合う時がある。それは、意味があるから起きるのではなく、本質的には何の意味もない。それが辛いから、何らかの意味を見出そうとする」と悟り「そういったものを映画の中でどうやったら描けるか。まだ、自分は描き切れていない。だからこそ繰り返し描いている」と今後も探求し続ける。

 

撮影にあたり、監督自身の趣向として、ロケ現場に泊まることがあり「ロケ現場でカット割りを考えるのが好きなんです」と告白。今回、明け方の6時頃、リビングで寝ていたら、光が揺れていることを感じ「ベランダに吊るされているCDに朝日が反射して、丸い光が部屋中を漂っていた。良い光だな。映像的に良いアクセントになる」と閃いた。その後、現場に到着した撮影の山本英夫さんに光を見てもらい、繊細なライティングをして頂き、感謝している。また、物語の終盤では、とある行動によって韓国を訪れることになるが「ライティングの色味をグレーディングし、異国の光として変えていこう」と拘った。なお、作中には病院のロビーで夫婦と両親が全員揃って話すシーンがあり「その4人の芝居によるアンサンブルが素晴らしかった。撮影の序盤だったが、この家族を描けたら、この映画はいけるな」と確信。そして、妙子とパクが最初に手話をするという公園でのシーンを取りながら「二人の演技が素晴らしく、二人の緊張感ある表情を見た時、手話からなる演技によって2人の関係が映画になるな」と確固たる自信となった。

 

また、撮影後はフランスで編集作業をしており「フランスから助成金を頂いていることが大きい。フランス国立映画映像センター(CNC)からの[Aide aux cinémas du monde]という助成金があり、フランスではなんと外国映画にも助成金を出してくれる。頂いた助成金は、或る程度の金額をフランスで使用する必要がある」と説明。撮影は日本で日本のスタッフ・キャストで行うので、ポスプロでフランスに向かい、編集作業をすることに。フランスで編集したという経験は興味深く「日本では、監督がしたいことをハイレベルの技術を以て実現させてくれる方が多い印象がある」と述べた上で「対して、フランスでは、デザイナーの立ち位置で、こうした方が良くなる、と次々に提案してくるのが面白くて、自分の中で癖になっている。助成金を頂けると、毎回フランスで編集しています」と明かした。

 

完成した本作について、関係試写で木村さんが観終わった時に「出演できたことを誇りに思える」と言って頂いたことが深田監督も嬉しかった。永山さんからは「普段は出演した映画を何度も観返すことはしないが、この映画は何度か観返したい」と仰って下ったことも嬉しい。そして、砂田アトムさんをはじめ、ろう者の方にも観て頂き「ろう者の皆さんにとっても違和感がない作品だった」と聞くことができ、監督自身にとって重要にしていたことが達成でき、安堵した。今作は、現在開催中である第79回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門へ出品されており、その結果を楽しみにしたい。

 

映画『LOVE LIFE』は、9月9日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のTOHOシネマズなんば、京都・烏丸の京都シネマ、兵庫・西宮のTOHOシネマズ西宮OSや神戸・三宮のシネ・リーブル神戸などで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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