言葉がなく気持ちが入っていける踊りを通して、結子になろうと試み続けました…『空蝉の森』酒井法子さんに聞く!
過去に深い傷を持つ、多くの謎を抱えた人妻と、彼女を取り巻く人々の愛憎関係をスリリングに描き出す『空蝉の森』が関西の劇場でも11月5日(金)より公開中。今回、主演の酒井法子さんにインタビューを行った。
映画『空蝉の森』は、酒井法子さんがトラウマを抱えたミステリアスな女性に扮した主演作。失踪した後に戻ってきた妻と、そんな彼女を偽物だと言い張る夫の食い違いから、二転三転する物語が紡がれる。3ヶ月の失踪後、突如帰宅した妻の結子を、夫の昭彦は別人だと主張。失踪事件を担当する退職直前の假屋警部は、新人刑事に「あの家の防犯カメラは、外ではなく内側に向いていた」と指摘する。昭彦の担当精神カウンセラーの山井に「夫は祖父の遺産をもらえなくなるから、私が戻ってきたら困るはず」と相談する結子。そして、そんな彼女の前に夫の愛人である香織も現れ…
監督・脚本は『私の奴隷になりなさい』などを手がける亀井亨さん。共演に斎藤歩さん、柄本明さん、西岡徳馬さんらベテラン俳優が顔をそろえる。
ミステリアスな女性である主人公の結子役へのオファーを受け、酒井さんは「体当たりな役だなぁ。奥が深い」と感じ取り「おぉ、なるほど…是非やらせて頂こう」とチャレンジ。台本を読み込み「様々に謎めいている」と受けとめ「全くクリアではないですけど、謎解きとしておもしろい。演じたことのないタイプのストーリーだけど、是非やってみよう」と取り組んだ。
結子について「過去の自分自身ではどうすることもできなかったトラウマを抱えたまま大人になりつつ、心のどこかに空いてしまい、女性としても人間としても機能していない。でも生きてきて、愛してもらいたい。変な自身の人生や運命に翻弄されてしまう。流されてしまった女性だな」という印象を受け「時間や空間に混乱しました。”この役は何処の誰?”」と戸惑いがあったことも告白。手探り探りながらもじっくりと考えた上で演じていった。もし、結子が実在したら、と考えてみると「本当のことはそんなに喋らないんだろうな。様子を見ていると、大人しいし喋らない。けど、なにか抱えてそうなので」と想像。自身について「基本的に、私は呑みニケーションを通して友達になります。一緒に呑んで心を開いてもらって楽しく笑っていてほしいので」と述べ「結子は一筋縄ではいかない何かを持っているな、と感じています。笑わせてあげたいですね」と思いを巡らせた。
撮影は、夏の終わりや森の中でのシーンが多く「ひとつひとつが重たく感じるシーンが多かったので…」とじっくり考えこんだ上で「これが映像になったらどうなるのかなぁ、と当時は思っていました。ひとつひとつがハードだったなぁ、体力的にも撮影的にも。」と現場を思い返す酒井さん。出来上がった映像を見て「とても透明感があり、凄く奇麗な画。こんな風になったんだぁ」と驚き「もっとドロっとしたサスペンスっぽくなっていくのかなぁ、と思ったら、世界観が凄く深く、小説を読んでいるような雰囲気に自分が持っていかれる。凄く素敵だなぁ」と感心。小説を読んでいる時の感覚に準えて「頭の中で物語が進む。考えたものが画になると、こうなっていたら綺麗だなぁ」と期待し「”あ、綺麗…”というバージョンになったんだ」と喜んだ。
夫の昭彦役を演じた斎藤歩さんとは、演出・脚本を担った舞台「碧空のラプソディ〜お市の方外伝〜」 に酒井さんが主演したことがあり「役者としても演出家としても凄い方」と尊敬している。役者の姿を見て「斎藤さんの凄さは、狂気を持っていらっしゃるところにある。喋ると心優しい方ですけど、黙っていらっしゃると何かを考えているか分からないところが斎藤さんの魅力」と実感。今作では「何を考えているんだろう。無茶苦茶怖い。この人に関わっちゃうと大変なことになっちゃうんじゃないだろうか」と感じ取り「流石だなぁ」と感心せざるを得ない。金山一彦さんとも同じ舞台で共演しており「今は亡き今井雅之さんらと支えてもらった舞台。一つのカンパニーとして援護射撃を沢山して頂いた役者さん達なので、安心した」と信頼。今作で金山さんと出くわすシーンはなかったが「金山さんはこういう役が上手だなぁ、と。何とも言えない汗臭さがありますね」と感じ取った。そして、柄本明さんについて「誰がどう見ても、柄本さんという素晴らしい役者なんです」と絶賛。「柄本さんと斎藤さんという懐の下で結子を託して演じさせてもらった」と捉えており「この2人のお芝居がなかったら、結子は、あまりよく分からない役になりそうだった。2人が色彩を与えてくれたので、結子という女性を妖艶に美しくしてもらった」と感謝している。
結子という役を演じてみて、「踊りのシーンが1つのポイント」だと理解し「結子さんは、ずっと踊りが好きでした。結子になろうと試み続けていきました。言葉がないので、気持ちが入っていける」と彼女を表現していった。今後も様々な役を果敢に挑戦しようとしており「私自身、人と作品を作る仕事が大好きなので、オファー頂ければ、喜んで。私に出来るものであれば、全力でやらせて頂きたいです」と意気込みを語る。35年の活動を振り返りながら「今まで関わってきた役者さんらが一緒にやりたいと云ってくれると嬉しいじゃないですか。何が出来るか分からないけど、チャレンジして出来たらおもしろいな」と感謝の気持ちを込めて話した。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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