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被災者としての姿はほんの一部、皆さんそれぞれに別の人生がある…『きこえなかったあの日』今村彩子監督にインタビューを聞く!

2021年4月7日

災害に遭い、苦境に立たされたろう者たちと、彼らを支援する福祉避難所や災害ボランティアの様子を映し出す『きこえなかったあの日』が関西の劇場でも4月16日(金)より公開。今回、今村彩子監督にインタビューを行った。

 

映画『きこえなかったあの日』は、東日本大震災時の被災ろう者の姿を捉えた『架け橋 きこえなかった3.11』の今村彩子監督が、ろう者と災害の10年間を記録したドキュメンタリー。東日本大震災発生直後に宮城県を訪れ、「耳のきこえない人たちが置かれている状況を知ってほしい」と痛感した今村監督。その後、日本各地で発生した様々な災害現場で、手話で会話できる福祉避難所や、絵や文字による情報保障、ろう・難聴者による災害ボランティアといった新たな動きが生まれている。震災から10年を経ても宮城県に通い続ける今村監督が、その一方で熊本地震や西日本豪雨、そして新型コロナウイルスの流行と、相次ぐ災害の中で困難に直面している耳のきこえない人たちを取材した。

 

東日本大震災発生後は宮城県の聴覚障害者協会、2016年の熊本地震では熊本の福祉避難所、2018年の西日本豪雨では「西日本豪雨災害ろう者対策本部災害ボランティアセンター」を訪れ、取材に応じて頂ける方を紹介して頂いた今村監督。現場での取材では、どうしても拒否される方もいたが、基本的には快く受け入れてもらい「状況を伝えてほしい」と困難の渦中にいる耳の聞こえない方々の声を真摯に受けとめていった。本作において、特に印象に残るのは、宮城県に在住だった加藤褜男さん。ろう学校で手話が禁じられていた時代に学ぶ機会や時間を十分に与えられておらず、数字だけは監督とも通じた。手話通訳士であり友人の岡崎佐枝子さんも最初は理解できなかったが、何度も顔を合わせコミュニケーションを図っていき、どうにか加藤さんを支えられる存在に。今村監督は、岡崎さんを通して「加藤さんはカメラを通してではなく、人間としてのコミュニケーションがしたかった」という思いを伝えられ、今も胸に残っている。各被災地をまわりながら「東日本大震災の時にはなかったが、2013年に鳥取県で日本で初めて手話言語条例が成立して以降は各地で理解が深まり、熊本地震の際には、耳の聞こえない方に向けた案内があった」と変化が少しずつ起きていることも伝わってきた。

 

10年間のあゆみを編集したものについて、最初にとある映画作家に見てみらった時、「あなたは加藤さんや(菊地)信子さんを被災者としてしか見ていない」と言われてしまう。被災者の姿だけを集めた84分の作品だったが、凄くショックを受けながら「加藤さんや信子さんの人生は、被災者としてだけではなく、別の人生があり、その中に被災した経験はほんの一部」だと云われ「そうだなぁ。私はほんの一部しか見ていなかった」と納得。以前ならは不要だと思っていた映像を改めて見直し「信子さんは旦那さんとは性格も正反対。信子さんだけ喋って、旦那さんはいつもニコニコしている雰囲気がいいなぁ」や「加藤さんは自転車の話をいつも以上に話している場面もあった」と気づき「彼らの個性に惹かれている」とハッとした。最終的に完成した映画は116分となり、当初の予定より長くなったが「映画を見た人達は当初は被災者として見ている。だけど、次第に変化していき、見終わったころには、名前で呼びたくなるような親しみを感じてくれたらいいな」と願っている。

 

なお、当初は、本作を作ろうとして撮影しているものではいなかった。2015年、豊橋手話ネットワークの方から、「10年目の3月11日、10年目を迎えるから、『架け橋 きこえなかった3.11』の上映と10年目の宮城の様子を教えてほしい」と依頼を受け、「上映会で観てもらえる機会があるなら、『架け橋 きこえなかった3.11』ではなく、10年間をまとめた新しい映画を作ろう」と健闘したことがきっかけ。本作が出来上がったのは「『架け橋 きこえなかった3.11』の公開後も、毎年継続的に宮城へ伺い撮り貯めてきた映像があったから出来た。最初から映画をイメージして撮影してきたわけではない」と謙遜しながら話す。既に関東や東北の劇場では本作が公開され、キャンペーンや舞台挨拶などで多忙な日々が続いているが「落ち着いたら、4月に宮城に行って岡崎さんと一緒に加藤さんがいつも花見していたところに行って花見をしようかな」と検討中だ。

 

現在、今村監督は”マジョリティ”という数が生み出す立場について注目しており「今までは、LGBT、発達障害、数が少ない立場、マイノリティにカメラを向けてきました」と振り返る。今後は、”マジョリティ”という正反対の立場にカメラを向け「どんなことを私は思うのかな」と興味津々であり「私自身も様々な思い込みがあると思います。それを撮りながら変わっていけたらいいな。誰を撮るかまた絞り切れていないのでまだ分からないですが」と絶えず真摯な姿勢で世の中を捉えていく。

 

映画『きこえなかったあの日』は、4月16日(金)より京都・出町柳の出町座、4月17日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場と神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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