一言で表せられない複雑な感情が沸き起こるのが映像の力…『けったいな町医者』毛利安孝監督に聞く!
兵庫県の下町である尼崎で患者のために奔走し、およそ2500人を看取った在宅医の長尾和宏さんを捉えたドキュメンタリー『けったいな町医者』が関西での劇場でも2月26日(金)より公開。今回、毛利安孝監督にインタビューを行った。
映画『けったいな町医者』は、兵庫県尼崎市の在宅医である長尾和宏さんが携わる命の駆け引きとなる現場を記録したドキュメンタリー。かつて病院勤務医として働いていた長尾は「家に帰りたい」と言っていた患者が自殺したことをきっかけに病院を辞め、尼崎の商店街で開業し町医者となった。病院勤務医時代に1000人、在宅医となってから1500人を看取った彼は、その経験をもとに、多剤処方や終末期患者への過剰な延命治療に異議を唱える。365日24時間いつでも患者のもとへ駆けつける長尾の日常に密着し、昼夜を問わず街中を駆け巡るその姿を追い、「幸せな最期とは何か」「現代医療が見失ったものとは何か」を問う。長尾のベストセラーを映画化した「痛くない死に方」で主演を務めた俳優の柄本佑さんがナレーションを担当している。
元々、長尾和宏さんがモデルの映画『痛くない死に方』がDVDとなった際の特典映像として企画された本作。『痛くない死に方』のチーフ助監督である毛利監督に声がかかり「納得がいくまで撮りたい。2時間程度の作品になる可能性がある」と応え、本作の制作が決定。撮影にあたり、長尾先生と話し合い「映画スタッフが長尾先生を撮りに来たのでは宜しくない。患者さんに対して第三者として威圧的になってしまう」と鑑み「長尾クリニックの記録班として携わる。いずれ撮り終えた時、1つの作品にしたいことについて、患者さんや家族に許可をお願いする」と取り決めた。患者さんのご自宅に入って撮ることが多く、生活空間を変えることはしないようにしており「常に長尾先生から3歩下がった状態で、医療行為を邪魔しない」と心がけていく。初めてのドキュメンタリー制作に携わるため「常々疑問に思ったことをしていない。インタビューは構えてしまうので行わない」と自身に枷もかけていた。
編集にあたり、どのシーンを入れていくか、情報の開示方法は考えており、まず許可頂いた方の中で、時系列に並べ4時間半に及んでいく。「長尾和宏という医師が尼崎で立ち振る舞っている姿、長尾先生が仰っている尊厳死、平穏死、多剤処方、癌に対してのスタンス、長尾先生の人となり、どういう経緯を以て町医者となったのか」と情報の整理を考え「患者さんを診察していく中で、どのタイミングでどの情報を提示していくか全体のバランスや構成を考えてつなぎ合わせたら、3時間程度になった」と振り返る。この時点で長尾先生に見せ、さらに削っていったが「一括りに出来ない複雑な感情が沸き起こるのが映像の力。感情は一言で表せられない」と実感。ドキュメンタリーのリアリティから乖離しないように仕上げていき「沢山の情報が提示される中で、様々な感情が沸き起こる。”けったい”という言葉に様々な意味を含め、総じて『けったいな町医者』というタイトルにした」と明かす。なお、ナレーションは『痛くない死に方』で主演を務める柄本佑さんであり「プロデューサーとも意見が一致。異論はない。快く引き受けて頂いた」と感謝せざるを得ない。とはいえ、ナレーションを多くは挿れておらず「聞きやすいように文字による情報開示をしているシーンもあります。声にしたほうがお客さんの気分として心地良い役割を担ってもらう意味でのナレーション」と説明する。
本作の制作を通じて「ドキュメンタリーのおもしろさ、自分なりのこうすべき道筋がみえたので、目標値が出来ました」と表し「次に違う題材の方を撮る時、自身のスタイル、自分なりのカラーとして、突き詰めていきたい」と展望を話す。あくまで「ホームグラウンドは劇映画」と認識しており「日々コツコツと撮るほうが僕の性格には合っているのかな。ドキュメンタリーは一人スタイルが正しく、大変さを知った上で、合理化することも一考かな」と今後もコツコツと取り組んでいく。
映画『けったいな町医者』は、関西では2月26日(金)より大阪・難波のなんばパークスシネマ、堺のMOVIX堺、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮の神戸国際松竹で公開。また、3月5日(金)より兵庫・尼崎の塚口サンサン劇場、3月20日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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