史上最もクィアな映画であり、同時に最もクィアではない映画!『レズビアン・スペース・プリンセス』エマ・ハフ・ホブス監督に聞く!
レズビアンが治める星の王家に生まれた姫が元恋人を助けるために奮闘する『レズビアン・スペース・プリンセス』が10月2日(金)より全国の劇場で公開される。今回、エマ・ハフ・ホブス監督にメールインタビューを行った。
映画『レズビアン・スペース・プリンセス』は、キュートでカオスな宇宙を舞台に繰り広げられるクィアな物語を、ブラックユーモア満載で描いたSFアドベンチャーアニメ。レズビアンが治める惑星クリトポリス。この星は数千年にわたり、伝説の武器ラブリュスを呼び出す力をもつクリトピアンの一族によって統治されてきたが、内気なプリンセス・サイラだけはその力を使うことができない。23歳の誕生日、サイラは賞金稼ぎのガールフレンド・キキから、「愛が重すぎる」とフラれてしまう。ショックのあまり部屋に閉じこもって泣きじゃくるサイラのもとに、かつて宇宙最強を誇ったストレート・ホワイト・メイリエンズから、キキを救いたければ宇宙一危険な惑星までラブリュスを持って来いと脅迫の電話がかかってくる。サイラはネット掲示板の情報を頼りに、自分の内に眠るラブリュスを解放するべく、パリピの惑星・Sクラブ17を目指すことになる。壊れかけの宇宙船に乗り込んだ彼女は、道中で出会ったミュージシャン志望のウィローと共に、銀河を巡る大冒険を繰り広げる。監督・脚本は、クィアな物語と文化的多様性をユーモラスに描いてきたリーラ・バーギースと、プロダクションデザイナーでアニメーターのエマ・ハフ・ホブス。テレビドラマ「ザ・ピット ピッツバーグ救急医療室」のシャバナ・アゼースがサイラ役、脚本家・ソングライター・俳優・ラッパーなど多方面で活躍するバーニー・バン・ティエルがキキ役で声の出演をしている。
☆センセーショナルな題材に興味を持ち作品を拝見しましたが若き女性の成長譚だと受けとめております。どのようにして、この題材を思いついたのでしょうか。
…ありがとうございます。私たちはこの映画を、「史上最もクィアな映画であり、同時に最もクィアではない映画」だと言っています(笑)。私(エマ)がシャワーを浴びていたとき、霧の中から「Lesbian Space Princess」という3つの言葉が、ふと頭に浮かびました。すぐにリーラへ提案し、その晩は一晩中このアイデアについて話し合い、翌週には南オーストラリア映画公社へ企画を持ち込みました。

☆あらゆる現代カルチャーや社会問題の要素を取り入れた上で、“クィア”なSF・アドベンチャーの脚本だと感じました。盛り沢山の要素をどのように整理した上で、一作の脚本として書き上げたのでしょうか。
…私たちが何より重視したのは、レズビアンのための、笑えるヒーローズ・ジャーニーを描くことでした。その物語の骨格が固まってからは、その枠組みの中で自由に遊びながら、できる限り大胆な表現に挑戦しました。

☆キャラクターのデザインは、様々な時代を彩ったアニメーションの要素が詰め込まれている、と感じました。そして、“クィア”で驚いてしまうキャラクターも登場しています。どのようにして、キャラクターのデザインを作り上げたのでしょうか。それらのキャラクターに対して、アニメーター達はどのような反応を表したでしょうか。
…みんなウィローが大好きでした。アニメーションから背景まで、チームみんなが描くのが好きなキャラクターだったと思います。実際、リードのマディは、すべての下絵にとてもかわいいウィローのスケッチを描き込んでいました。私にとってサイラ、キキ、ウィローの三人は、いわばクィア・ファッションの聖なる三位一体を表しています。冴えないレズビアンのサイラは、とにかく快適さを重視するスタイル。キキは、自信に満ちた大胆でセクシーなスタイル。そしてウィローは、BTGG(“Big Tiddy Goth Girlfriend”の略で、「巨乳のゴス系彼女」を意味するネットミーム)のノンバイナリー版、といったところです。

☆日本のアニメーション作品に出演する声優は、オーディションによって選ばれています。本作では、どのようにして出演する声優・俳優を選んでいったでしょうか。また、選ばれた出演者は、本作の内容について、どのような反応や感想があったでしょうか。
…スプレッドシートと夢を持って、私たちがファンだった方々にオーディションをお願いして実際の相性を確かめたり、出演してほしいとキャストの何人かに文字どおり懇願することもありました(笑)。この作品にはクィアやPOC(有色人種)のキャラクターが大勢登場するため、当事者性を大切にしたキャスティングは私たちにとって非常に重要でした。だからこそ、声をかける相手は慎重に選びました。

☆作品の企画~脚本執筆~アニメーション制作~アフレコ~完成までの制作プロセスの中で本作の手ごたえを感じた瞬間はどこにあったでしょうか。
…おそらく最後までありませんでした。最初の映画祭で上映するまで、この映画がリーラと私以外の人にとっても本当に面白いのか、確信できなかったんです。観客が笑い始めたときは……本当にほっとしました。ジョークが全部すべるコメディー映画を作りたい人なんていませんから、制作中はずっと、ものすごく不安でした。

☆完成した作品が公開され、オーストラリアのお客さんからはどのような感想を受け取っているでしょうか。
…オーストラリアの観客だけでなく、映画業界からもたくさんの応援をいただきました。実は私たち、うっかりオーストラリアでの劇場公開と、フィンランドでのアーティスト・イン・レジデンスの時期を重ねてしまったんです。映画がこれほど多くの人の目に触れ、良いものも悪いものも含め、さまざまな反応が寄せられたことには圧倒されました。一方で、距離を置いてすべてを冷静に捉えることもでき、それは私たちのメンタルヘルスにとっても良いことでした。

☆今後、どのような題材の作品を手掛けたいでしょうか。今後の予定や希望をお聞かせください。
リーラは次に、単独で実写映画を作りたいと考えています。私は、二人で手がける次のアニメーション作品の草稿を書いているところです。今度はレズビアンが登場するファンタジー作品に挑戦したいと思っています。
映画『レズビアン・スペース・プリンセス』は、10月2日(金)より全国の劇場で公開。関西では、10月2日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田や京都・烏丸御池のアップリンク京都、10月23日(金)より神戸・岩屋の109シネマズHAT神戸で公開。
レズビアンが治める星のプリンセスが繰り広げるSFアドベンチャー。随所にメタ演出や固有名詞を用いたブラックすぎるブラックユーモアが効いていて、THEアメリカン・カートゥーン感が楽しい。現実世界の立場を逆転させて世界を描くが、結局マジョリティ側はマイノリティ側を意識の脇に追いやるし、マジョリティ内でもパートナーの有無でジャッジし合う様が繰り広げられ、差別や格差はもちろんなくさなければならないけれど、根本的な問題は他にあるというメッセージが受け取れる。
主人公サイラは、派手で民衆から人気の両親と違い、ネガティブで陰キャな自分にコンプレックスを抱いており、劇中ずっと自責の念から来る鬱症状に襲われている。捕らえられた元恋人を救うため人生で初めて自分の星を飛び出し、その先で自身と同類の、愛情不足からくる恋人依存の女性と遭遇し客観視点を手に入れる。その後、元アイドルでバイセクシャルのウィローというこれまで出会ったことのない人種と仲を深めることで視野が広がり、数々の冒険を経て、最終的に「自己認識のチューニングが狂っていたのではないか」と気がつく着地が感動的で、一人の人間が自分の人生を手に入れるまでの物語として完璧な構成だと感じた。
登場キャラクターのチャーミングさも見どころで、特に悪役となる「ストレートの白人男星人」の異性への誤った認識やこじらせた被害者意識は一周回って笑えてくるが、現実世界で中心に属するのが彼らだという事実も突きつけられる。冒険のお供となる、意志をもった「宇宙船」はミソジニーを隠そうとしないしデリカシーも皆無だが、実はホモソーシャルの抑圧に疲弊している。ウィロー以外どのキャラクターも総じて人の話を聞かないし、「人から話を聞いてもらえなかった経験」が心に大きな傷を残している。刺激的な演出の多いコメディながら、最終的には「対話」の重要性を提唱している、今こそ観るべきアツい作品。
fromマスダ
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

















