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1962年6月にソビエト連邦南部ノボチェルカッスクで起きた虐殺事件を描いた『親愛なる同志たちへ』がいよいよ劇場公開!

2022年4月5日

(C)Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020

 

市政委員も務める共産党員がソ連社会に見いだしていた、希望が崩れ去る様をモノクロで描く『親愛なる同志たちへ』が4月8日(金)より全国の劇場で公開される。

 

映画『親愛なる同志たちへ』は、冷戦下のソ連で30年間も隠蔽された民衆弾圧事件を題材にした社会派サスペンス。1962年6月1日、ソ連南部ノボチェルカッスクの機関車工場で大規模なストライキが発生した。フルシチョフ政権が目指した豊かな共産主義統治にも陰りが見え始め、生活に困窮した労働者たちが物価高騰や給与カットに抗議の意思を示したのだ。危機感を抱いたフルシチョフ政権は、スト鎮静化と情報遮断のために現地へ高官を派遣。そして翌日、約5000人のデモ隊や市民に対して無差別に銃撃が行われる。広場がすさまじいパニックに陥る中、熱心な共産党員として長らく国家に忠誠を誓ってきたリューダは、18歳の愛娘スヴェッカの行方を捜して奔走する。

 

本作は、『暴走機関車』などで知られるロシアの巨匠アンドレイ・コンチャロフスキーが撮りあげた。リューダを演じるのは、コンチャロフスキー監督作『パラダイス』でも主演を務めたユリア・ビソツカヤ。2020年の第77回ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。

 

(C)Produced by Production Center of Andrei Konchalovsky and Andrei Konchalovsky Foundation for support of cinema, scenic and visual arts commissioned by VGTRK, 2020

 

映画『親愛なる同志たちへ』は、4月8日(金)より全国の劇場で公開。関西では、4月8日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田、4月15日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都と神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。

春の暖かさを感じる昨今、テレビでロシアを見かけない日はない。もちろん最悪な戦争とともに。そのような世相でアンドレイ・コンチャロフスキー監督『親愛なる同志たちへ』が封切りとなる。嘗て存在したプロパガンダのような強烈なオープニングから始まる本作は、フルシチョフ時代のソビエト連邦のノボチェルカッスクで実際に起こった虐殺事件の3日間を描く。近年のロシア愛国映画は色彩が強すぎる中で、本作は全編モノクロなのが印象的だ。まるで、映画の出来事は過ぎ去った思い出であり、現代ロシアと断絶した世界を表しているように思える。もしかしたら、監督は本作で描かれる世界と今のロシアと切り離したいのかもしれない。

 

モノクロ映像と静的な音楽に包まれた表現の下、同じ時代を生きる「親愛なる同志たち」が、官僚的事なかれ主義とソビエト的テロルと個人的悲劇を演じていた。しかし、彼らは誰も未来を生きていない。彼らは今日の物価高騰に怒り、今日の事件を何もなかったことにし、過去の思い出に浸る。ある人はスターリン時代を崇拝し、ある人は帝政時代のコサックの軍服に身を包む。党官僚とプロパガンダだけが輝かしい未来をむなしく騒ぎ立てる。どこか既視感のある社会的虚無のむき出しにぞっとしてしまう。

 

本作が描くフルシチョフ時代は、停滞的なオーラをまとっていた。レーニン、スターリンのソ連とは明らかに異なる。ここには、ナラティブがない。レーニンが創造し、スターリンが完成を謳ったソ連型社会主義の建設には、膨大な数の死者を出しながら、ソ連に生きる同志たちに前進する強い社会というナラティブをもたらした。しかしながら、フルシチョフ時代は先人のナラティブを壊さないことだけが全てである。そして、ずるずると停滞を続けた赤い帝国は自壊した。ナラティブだけが神話としてロシアに残っていく。だからこそ、監督が本作で描いているヒューマンドラマを理解しようとするには、親愛なる同志たちが生きる社会的虚無に目を向けなくてはならないだろう。

 

コンチャロフスキー監督がプーチン・ロシアにどのような目を向けているのか不明だ。それが社会的虚無の帰結であるのか、それともそれを打破する前進する存在なのか。願うべくは前者であってほしい。

fromにしの

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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