聾コミュニティについて様々な側面や多様な姿が描かれている…『私たちの話し方』マルコ・ンさんに聞く!
聴覚障害を持つ3人の若者の変化と成長を描いた、瑞々しい青春映画『私たちの話し方』が3月27日(金)より全国の劇場で公開。今回、マルコ・ンさんにインタビューを行った。
映画『私たちの話し方』は、聴覚に障害のある3人の若者たちの変化と成長を瑞々しく描いた香港発の青春映画。20代のソフィーは3歳の時に聴覚を失い、人工内耳を装用することで”聞こえる人”として“普通”の生活を送ろうとしている。一方、ジーソンは生まれながらの聾者として、手話話者であることに誇りを持って生きている。アランは人工内耳装用者で、手話と口話のバイリンガルだ。手話禁止で口話教育を推進する聾学校で出会ったジーソンとアランは、お互いの環境の違いを認識しながらも、親友のまま大人になった。やがて、人工内耳を推奨するアンバサダーとしてアランとソフィーが出会うが、人工内耳の推進イベントでソフィーが語った「科学が発展すれば、この世から聾者はいなくなる」という言葉にジーソンが激怒してしまう。『作詞家志望』『黄昏をぶっ殺せ』のジョン・シュッインがソフィーを演じ、パンサー・チャンによる主題歌「What If」の作詞も担当。The way we dance-狂舞派-』『狂舞派3』で高く評価されたアダム・ウォン監督がメガホンをとった。2024年の第61回金馬奨にて最優秀主演女優賞(ジョン・シュッイン)を受賞。2025年の第20回大阪アジアン映画祭ではスペシャル・メンションを贈られた。
母校の先生による推薦を受け、本作に出演することになったマルコ・ンさん。俳優でもなかったことから、この報せを受け驚くばかり。ある日、アダム・ウォン監督が自身のInstagramをフォローし、その後に「聾コミュニティについての映画に関心があるなら、出演することに関心はないか」とオファーを受けることに。また、アダム監督が本作の為にリサーチしていく中で、マルコさんが通っていた学校の先生に会い、マルコさんを紹介していただいたことを知った。監督は、アランに似た素質を持つ俳優を探していく中で、手話だけではなく口話も出来る人物を見つけるのが困難だった中で、マルコさんを見つけたようだ。
その後、演技未経験であることから、まずは、演技ワークショップを受講することに。パフォーマンスアートを学んだ経験のある2人のベテラン講師に指導してもらっており「まず、脚本をしっかり理解することを求められました。 そして、感情や動きには様々な強度や段階があることを学びました」と振り返る。嬉しさや悲しみには様々な表現があること、自分自身とキャラクターを分けて考えることを学び「これらを学ばないままだったら、脚本をそのまま自分として演じてしまいがちですが、それは間違っています。人物は監督が作り上げた像だからです。脚本を基に、監督の意図や期待にどのように応えるか、を考えながら演じる必要がある」と認識。さらに、自然に演じる方法も学び「ただセリフを言うのではなく、本当に演じることが大事だ」と分かり「相手が台詞を言って次に自分が言う、と機械的に演じるのではない。相手の言葉をしっかり聞いて、理解して、汲み取って、受け取って、反応することを大事にしよう」と心がけるようになった。
そして、本作の台本を読み、撮影が終わるまでに監督と沢山話し合いながら、自身がしっかり理解できているか、を常に確認していく。準備期間は短かったが「考えることと実際に演じることは全然違う」と実感しながら、キャラクターについて全て理解したつもりで撮影現場にクランクインした。だが、現場は、これまで経験したことのない環境であったことから、準備してきたことをそのまま当てはめるのは容易なことではなかったようだ。「準備したことを携えていても、それをどのようにして環境の中で活かすか、は別の課題」だと気づかされながらも、 ジーソン役を演じたネオ・ヤウさんから「その場の環境を使うことが大事なんだ」とアドバイスをもらったことが、印象深く残っていた。また「キャラクターや脚本を準備するだけではなく、環境を生かして自然に見せることも大事なんだ」と学んだ。今作について、とても良い作品だと思っており、これまでの聾をテーマにした映画について「ステレオタイプの聾者だけを描くことが多かった。もしくは、似たような聾のタイプの人達だけが出ていた」と指摘しながら「この作品は違います。 様々なタイプの聾者、難聴者が登場し、コミュニティの中で様々なスペクトラムが広くあり、多様性が描かれています。 だからこそ、観客、特に聴者にとって、聾コミュニティへの理解を深めるきっかけになる作品だ」と言及する。
なお、マルコさんが演じたアランはジーソンから手話を教わった、という設定であり、マルコさんが普段使っている手話とは異なり、ジーソンに近いタイプの手話を用いることになった。手話は、教えてくれた先生のスタイルに影響を受けやすく「私は手話が出来ますが、アランが用いる手話のスタイルとは違いました。 ジーソンは聾の家族の中で育った人達から手話を学んでいて、アランはそんなジーソンから学んでいる。 つまり、ジーソンは、自然な手話スタイルを学んでいます」と説き「一方で、私の手話は、単語を1つ1つ並べるようなスタイルであり、あまり自然ではありません。紙の上にある言葉と、実際に用いる話し言葉は違う」と弁明。故に、ジーソンのような自然な手話ができるように、長い時間をかけて練習をしていった。さらに、香港の聾コミュニティ文化にとって正確な手話になるように、聾文化監修の方からも学び、細かいニュアンスまで確認している。
試行錯誤を経て、撮影中は、「アクション!」の声によって”アラン”に成っていった。そして、「カット!」の声でマルコさんに戻った時には疲れ切った状態になっていく。1ヶ月に及ぶ撮影期間中、最初の1週間はまだ成りきれておらず、環境や現場の雰囲気や仕事の進め方に慣れず、調整が必要だった。そこで、演技コーチによるボイスメモを用いた瞑想ワークにも取り組んだことが、アランになることの一助にもなっており「アランがどのような人生を送ってきたのか。どのような家族で、どういった教育を受け、どんな友人がいるか、を瞑想的に聞く。そして、具体的に想像する、といったエクササイズでした。 瞑想によって、アランに近づくことが出来た感覚がありました。 まるで、アランの人生がそのまま自分の中に入ってきたような感じでした。2週目には、アランに成れ、環境を含めた全てのことに慣れていきました」と振り返る。
完成した本作を鑑賞した際、初めて大画面で自身の姿を観た時は「なんだか気持ち悪い」と変な感覚があったが、二度三度と観ていく中で「聾コミュニティについて様々な側面や多様な姿が描かれている良い映画だ」と受けとめるようになった。なお、マルコさんは、メソッドマーシャルアーツ(MMA)という武術の訓練を10年程度続けており「香港映画といえば、ブルース・リーやジャッキー・チェンのようなアクションキャラクターが有名。私も子供の頃から香港のアクション映画が大好きなので、いつか本格的な武術アクションをする役を演じてみたい」と今後を楽しみにしている。
映画『私たちの話し方』は、3月27日(金)より東京・新宿の新宿武蔵野館ほか全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のテアトル梅田、京都・烏丸の京都シネマ、兵庫・神戸のシネ・リーブル神戸で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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