チェーホフの4つの短編に着想を得た恋愛ドラマに、約25分のシーンの追加と4K修復を施した『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』がいよいよ劇場公開!

© 1987 Excelsior Film-TV. c 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.
結婚し富を得たものの、夫婦仲は冷え切っているイタリア人男性が、あるとき美しいロシア人の女性に恋をする様を描く『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』が5月30日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』は、文豪チェーホフの「犬を連れた奥さん」など4つの短編に着想を得て撮りあげた恋愛ドラマ。アテネを経てイタリアに向かう客船の食堂。窓際の席に座る初老の男ロマーノは、そこへ現れたロシア人の紳士に自らの人生について語りはじめる。イタリアの田舎町で生まれたロマーノは、大銀行家の娘エリザと結婚し富を得たが、夫婦仲は冷え切っていた。銀行が倒産の危機に陥るなか、ロマーノはひとり家を出て湯治場に身を寄せ、そこで出会ったロシア人女性アンナと恋に落ちる。やがてアンナは1通の手紙を残して姿を消し、ロマーノは彼女を追ってロシアへ向かうが…
本作では、ロシアのニキータ・ミハルコフ監督がイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニを主演に迎え、円熟期を迎えた男の悲哀を見事に演じ、1987年の第40回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞。『山猫』などの名脚本家スーゾ・チェッキ・ダミーコが脚本に名を連ね、フランシス・レイが音楽を手がけた。2016年、4K修復を施し約25分のシーンを追加した「4K修復ロングバージョン」が制作され、日本でもいよいよ劇場公開される。
© 1987 Excelsior Film-TV. c 2010 Cristina D’Osualdo. All rights reserved.
映画『黒い瞳 4K修復ロングバージョン』は、5月30日(金)より全国の劇場で公開。関西では、5月30日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、6月21日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館で公開。

2025年に、アントン・チェーホフ の短編にインスパイアされて撮りあげた本作を観ると、1987年製作当時の価値観とは印象を抱くことになるのではないか…いや、根本的には変わらない部分もあるだろうか。それは、イタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニによる渋さを伴った魅力的な演技によって、人生の深みや可笑しみを伝える普遍的な作品を理解していくことに左右される一面もある。大銀行家の娘と結婚し富を得たとしても、それは上辺だけで夫婦仲が冷え切っていたのならば、主人公は将来に希望を見出せなかっただろう。そんな家庭に身を置いていたならば、一輪の花の如く異国の女性に一目惚れしてしまったのならば、どこまでも追いかけてしまうのも、否定しがたい一面もある。そんな哀れながらも愛おしくなってしまう主人公の振る舞いは応援したくなってしまうのかもしれない。だが、実際に異国までも追いかけてしまったら、どのようになってしまうか想像できないだろう。彼の行く末を思えば、幸せであるかどうか、観る者によって捉え方は様々であるかもしれない。されど、それら全てを凌駕するが如く、マルチェロ・マストロヤンニの魅力に酔いしれる作品であった。

- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!