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ひとり暮らしだけど1人じゃない。誰かが助けてくれるから成立している…『104歳、哲代さんのひとり暮らし』山本和宏監督に聞く!

2025年4月14日

『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』をはじめとしたベストセラーの著者である石井哲代さんの生活に密着したドキュメンタリー『104歳、哲代さんのひとり暮らし』が4月18日(金)より関西の劇場でも公開される。今回、山本和宏監督にインタビューを行った。

 

映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』は、広島県尾道市で100歳を超えてひとり暮らしを続ける石井哲代さんの日々を見つめたドキュメンタリー。尾道の自然豊かな山あいの町にある一軒家で、100歳を超えてひとり暮らしをしている石井哲代さん。小学校の教員として働き、退職後は民生委員として地域に尽くしてきた。83歳で夫を見送ってからは、姪や近所の人たちと助けあいながら過ごしている。年齢を重ねて思うようにいかないことが増えても、哲代さんは自分を上手に励まし、自由な心で暮らしをしなやかに変えていく。その前向きでユーモアあふれる言葉の数々を紹介した書籍「102歳、ひとり暮らし。哲代さんの心も体もさびない生き方」「103歳、名言だらけ。なーんちゃって」は累計21万部を超えるベストセラーとなった。そんな哲代さんの101歳から104歳までの日々にカメラを向け、老いて楽しく生きるヒントにあふれた暮らしを映しだしていく。リリー・フランキーさんがナレーションを担当した。

 

本作冒頭で映し出されるシーンにて、山本監督自身も哲代さんに初めてお会いしており「お写真とかでは見ていたんですけども、すごく若いな」と驚いた。カメラを向けられると構えてしまうのではないか、と思っていたが「そんなことは一切なかった。フラットな方ですね。私自身も、初めて会った気がしなかった。近所のおばちゃんみたい」といったように、最初から親近感を以て撮ることができたようだ。哲代さんには、近所の方と同じように接してもらっており「撮影現場に集ったスタッフは20代から40代だったので、孫が遊びに来たぐらいの距離感だったんじゃないかな」と受けとめている。取材は、ワンショットで見せる手法ではなく、カメラを意識しないように日常会話をしながら行っており「自然な会話が撮れるように、ファインダーを見ず、なるべく気配を消して撮っている。なるべく普段されているような土間の会話を撮れればいいな」と心がけた。取材前後には、哲代さんの姪とやり取りをした上で伺っており、哲代さんのひとり暮らしを尊重することが一番の優先事項であり「僕らは、外部の者達。哲代さんの安寧を脅かしてまで取材する必要はない。僕らがいることで、楽しんでくれている。その一方で、哲代さんは疲れているはず。撮れ高を感じたら、なるべく早く帰る。だからこそ、定期的に撮影させていただけた」と考えている。

 

なお、ひとり暮らしをしている哲代さんが、1人で過ごしている姿はなかなか撮れなかったようだ。山本監督としては、100歳過ぎてひとり暮らしされている方がいます、と聞くと、1人でお茶を飲んでいる姿などを撮りたいわけだが、実際は、どなたかが訪れてくる。「ひとり暮らしだけど1人じゃない。誰かが助けてくれるから、104歳のひとり暮らしが成立している」と気づき「実際、100歳でひとり暮らしは難しい。怪我とかしたら大変。人は1人じゃ生きていけない」と改めて感じさせられた。「1人で過ごしているシーンを撮らなくてもいい」と認識し「哲代さんのひとり暮らしは、周りの人達に支えられてもらっていることによる関係性によって成立している。この関係性を撮ることが大事だな」と指針も変化していく。

 

当初、情報番組内の企画から始まった本作。コーナー内では15~20分の映像が放送されていった。土間でお茶を飲む風景やお墓参りといった内容が4回分あれば、1本の番組として出来上がる。特別番組として3回放送された。そして、哲代さんが妹さん(当時95歳)のお見舞いに伺ったシーンを撮影した際に「もしかしたら映画ができるんじゃないかな」と直感。プロデューサーと「映画化を目指して取り組んでいこう」と話し、印象深いシーンも撮影していく。それらを繋いで観ると、100分前後の作品になることが想像できてきた。とはいえ「このままでは駄目だ」と察し「もっと延ばしたいシーンは延ばしたいので、こういうシーンを持ってきて…」と熟考。映画化においては「哲代さんは、何をやっても画になる。カメラが哲代さんの間合いや息遣いを捉えることが大事だ」と受けとめ「TV番組のように過去の資料映像を増やすと解説が多くなってしまう。映画では、登場する人達の顔で語ってもらった方が合うんじゃないか」とTV番組と映画の違いも認識した。ナレーションを担当したリリー・フランキーさんについて「日本で1番うまいナレーターだと思っています。良い声ですよね。抑制が利きながらも、寄り添っている」と感じており「リリーさんは優しいけど寂しそうな雰囲気を醸し出す役柄が多い。哲代さんと似ているなぁ。陽気だけれども、この人にしか分からない寂しさも携えている」といったことから、オファーしている。

 

完成した本作は、まず広島の映画館で先行公開された。山本監督に3月上旬にインタビューした時点で2万人程度の方々が鑑賞しに来ており「哲代さんの魅力に尽きるな」と監督自身も実感。お客さんは家族ら複数人のグループで来ていることが多く「劇場では、哲代さんが笑ったら皆さんが笑う。皆で観ると、グルーブ感が生まれる。本当に、これこそが映画館だなぁ」と感慨深げだ。また、音声ガイド等の支援サービスは設けていないが、目の見えないお客さんもいらっしゃっており「哲代さんの声に力をもらっている。哲代さんの声って良いですよね」としみじみと話し「哲代さんが話すことには、ユルい哲学があるのが良い。だからといって説教臭くはない。あまり難しい映画にはしたくなかったので、伝わってよかったな」と安堵している。なお、今後も「哲代さんの姿はしっかりと撮り続けたい」と考えており「ローカル局からの作品なので、全国の方に見てもらえる作品として様々にチャレンジしていきたい」と将来に目を輝かせていた。

 

映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』は、関西では、4月18日(金)より京都・烏丸の京都シネマや兵庫・丹波のヱビスシネマ、4月19日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場や神戸・元町の元町映画館、5月2日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場、5月9日(金)より兵庫・宝塚のシネ・ピピアで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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