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訳の分からないアイデアでも、それだっ!となる関係性がある…『宮松と山下』監督集団「5月」の関友太郎監督と平瀬謙太朗監督と佐藤雅彦監督に聞く!

2022年11月14日

あるエキストラ専門の俳優が、日々作品の中でさまざまな方法で殺される姿を描く『宮松と山下』が11月18日(金)より全国の劇場で公開。今回、監督集団「5月」の関友太郎監督と平瀬謙太朗監督と佐藤雅彦監督にインタビューを行った。

 

映画『宮松と山下』は、教育番組「ピタゴラスイッチ」などの企画と制作で知られるクリエイティブディレクターの佐藤雅彦さん、NHKでドラマ演出に携わってきた関友太郎さん、『百花』の共同脚本を務めた平瀬謙太朗さんの3人からなる監督集団「5月」の長編デビュー作。エキストラ俳優の宮松は、時代劇で弓に射られたり、大勢のヤクザの1人として路上で撃たれたり、ヒットマンの凶弾に倒れたりと、名もなき殺され役を演じてばかりいる。生活面では、慎ましく静かな日々を送る宮松だったが、実は彼は過去の記憶をすべて失っていた。自分について何も思い出せないまま、毎日数ページだけ渡される「主人公ではない人生」を演じ続ける彼のもとに、ある日男が訪ねてきて…
主人公の宮松を香川照之さんが演じ、津田寛治さん、尾美としのりさん、中越典子さんらが共演を果たした。

 

監督集団「5月」の3人の映画監督によって制作された興味深い本作。普段から多くの時間を共に過ごしており、4~5時間を要する打ち合わせを最低でも週1回実施している。平瀬監督は「何千時間も一緒に過ごしていると、不思議とお互いが考えていることを分かるんです。説明などの面倒なプロセスがあるわけではないですが、会話の中で自然とピンときます」と説く。合意形成にあたり、佐藤監督は「初めの頃、企画の打合せで皆が沢山の案を出しても、ほとんど誰も応じない。ところが、あるアイデアがポロッと出た時に皆が一斉にこれだ!ってなりました。その刹那に起こった気持ちが一つになる体験はとても貴重でした。合意形成は手間のかかる大変な手順ですが、この人達とならそれが一瞬で出来る。訳が分からないけど、良いアイデアが出た時は、説明が不要で、それっ!となる3人」と信頼しており「ストレスがなくエネルギーを要しない。「5月」が成立している大きな意味が、そこにある。仲良しではなく同志に近い」と、この3人ならではの関係性があった。

 

エキストラ俳優を主役にした本作。これは、関監督が東京藝術大学大学院映像研究科修了後、NHKに入局しドラマ班に配属された時の経験に基づくインスピレーションによって始まった。入局したての頃の現場では、京都にある松竹撮影所での時代劇ドラマ撮影で、助監督としてエキストラの方々を担当。「エキストラの人々は、午前中は江戸の町人だったのに午後からは衣装替えして侍になっていたりする。1日の中で様々な人間を演じているのはおもしろいと思いました」と興味津々。「斬り合いのシーンでは、侍が大勢いるように見せるために、一度斬られて倒れても、起ち上がって別の侍として画面に入っていき、また斬り捨てられる。(そんなエキストラの振る舞いを)ピンポイントで切り取って見せたら、独特な映像表現になるのでは」と気づき「映画にするなら、エキストラとして様々な役を演じることと本人の生活を全く同じトーンで並べていけば、おもしろい映画体験になるんじゃないかな」とアイデアが思い浮かんだという。また、時代劇の現場では、昼休憩になると武士の衣装のまま飲食店に入っていく姿を目の当たりにして「『なんだろう、この光景は…』とずっとそのイメージが残っていたので、映画にするなら、現代劇の中だけで演じる役が変わっていくのではなく、時代劇を入れると映像的なギャップも生まれて面白くなると思った」と様々なエピソードを入れ込んでいった。

 

とはいえ、企画が出て直ぐには制作にむけて動かず、5,6年もペンディング状態に。平瀬監督は「主人公の宮松は映画として物語を引っ張っていく存在の強さが必要ですが、作中ではエキストラとして存在感の無さが必要。この矛盾する二面性を持てる人は誰だろうと悩みました」と最適な俳優が見つけられずにいたそう。議論を続けていく中で、長編映画を作るにあたり、香川照之さんの名前が挙がり、その瞬間に「この企画が成立する」と分かり、ようやく映画化に向けて動き出した。なお、香川さんからは、衣装合わせの際に「脚本を読んでみて、この衝撃は『ゆれる』以来」と好反応を得られた。撮影現場での香川さんは非常に真面目な方で、佐藤監督は「脚本を読み込んだ上で現場に来ており、その香川さんを中心に、映画の中の宮松像がどういうものか、4人で作り上げていきました」と振り返る。香川さんから「この現場には映画がある。TVドラマは段取り良く撮っていく。ここは皆で主人公がどういう気持ちで、どういう表情をしているのか考える時間がふんだんにある」と言われ「長編映画は初めてなので、通常は、どういう空気が現場に流れているか分からないので嬉しかった」と感激した。

 

香川さん以外のキャスティングについて、最初に決まったのは尾美としのりさんだそうで、平瀬監督は「ある日、宮松を訪ねてくる谷という役として直ぐに名前が挙がった。第一声、印象的な台詞がありますが、この台詞は誰にピッタリかと考えたときに尾美さんだと」と語る。佐藤監督は、外国の映画祭で「欧米人は日本人の区別が難しい」と感じていた中で「香川さんの髪色と違った白髪の人で、演技が良い俳優さんとして尾美さんが挙がった」と補足する。また、平瀬監督は、女優に関するキャスティングについて「劇中劇のドラマを撮っているので、誰にどんなキャラクターを演じてもらいたいか議論していた。カットが掛かった瞬間に役がパッと抜けて現場を立ち去る振る舞いが似合う女優さんに演じてほしい」と考え、皆で話し合いながら決めていった。佐藤監督は「野波麻帆さんは派手な雰囲気がありながら性格が良く、屈託がない。そういう方の佇まいが必要だった」と述べると共に「共演の大鶴義丹さんは二枚目俳優として活躍しながら、芯には様々なものが入っている方として思い浮かんだ」と挙げていく。中越典子さんについて、平瀬監督は「世の中のイメージは、元気で周りを明るくしてくれる方ですが、今回は異なる印象の役。演じて頂けるか悩みながら話し合った。衣装合わせでお会いして、新しい中越典子像を作っていきたいとご相談して組み立てていった」と話すと、関監督は「中越さんも、新しい姿を作ることに興味があった。周りには一見明るく振舞うけど、どこか影が漂っている、というキャラクターについて話し合い、役作りをしていきました」と添える。佐藤監督は、当時を振り返り中越さんについて「撮影初日には悩んでいましたが、次の撮影日の終わりにはすっかり山下の妹像を作り上げていました、見事でした」と手応えを感じている。

 

撮影を終えた後には、編集に関しても苦労を重ねていく。今作は虚構と現実が入り混じるようにシーンを並べる構成にしており、観客に新しい映像体験をしてもらう試みがあった。佐藤監督は「自分が信じていた世界が劇なんだ、という映像体験をさせたかった。どういう風に編集したら一番効果的なのか」と熟考し、沢山のバージョンを作ることに。つまり、撮影現場だけでは完成しない作品となり「現場が一番大事なのは間違いない。でも、現場で良いテイクが撮れても、心の中では『編集でどうなるんだろうな、どのように伝えたら、今回自分達がやろうとしている、エキストラと現実の違いが分からなくなる演出が出来るんだろう』と編集の段階にならないと探れない部分がありました」と関監督は振り返る。「現場で様々なパターンを撮らないと、完全に納得できない。安心できないので辛かった」と吐露しながらも「どれだけ良い表情が撮れたとしても、実現させようとしている映像表現に合っているのか、繋いでみないと分からない。だからこそ違うテイクを撮ってみる。試行錯誤は時間が許す限り粘っていた」と最後まで拘り続け、完成に至っている。

 

映画『宮松と山下』は、11月18日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・烏丸御池のアップリンク京都、神戸・三宮のシネ・リーブル神戸等で公開。

普段あまり馴染みのないエキストラの仕事模様を描いたシーンが満載。『エキストロ』のように、演者が真面目であればある程、映像からは奇妙な面白さが滲み出ているように感じてしまう。宮松を演じた香川照之さんの呆けた顔が人生の悲哀を物語るかのようだ。説明せずとも表情1つで宮松の現在のシーンと、過去のシーンの区別がつくのだから凄い。映像表現も見事。『ファーザー』のように、現実の出来事なのか、撮影現場での出来事なのか、境目を壊す演出は、とても引き込まれてしまう。本には本にしかできないことの強みがあり、映像には映像にしかできない強みがあることを改めて感じさせられた。”映画”を楽しみたい人には、うってつけの作品だ。

fromねむひら

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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