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労働組合として当たり前のことをやっているんじゃないか…『労組と弾圧』伊佐治整監督と内田樹さんを迎え舞台挨拶開催!

2025年3月28日

TBSテレビやTBS系列の各局の記者やディレクターたちが、歴史的事件やいま起きている出来事、市井の人々の日常を追い続け、記録し続け、熱い思いとともにドキュメンタリー映画として世の中に発信し続けるために立ち上げられたブランド「TBS DOCS」。「TBSドキュメンタリー映画祭」は、TBS DOCSが手がけた至極の作品を集めた映画祭。テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として、2021年より開催し、今回で第5回を迎える。関西では、3月28日(金)より大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で開催。3月28日(金)には、テアトル梅田で『労働と弾圧』が上映され、伊佐治整監督と哲学者の内田樹さんを迎え、舞台挨拶が開催された。

 

映画『労働と弾圧』…

ストしたら逮捕された、労働組合活動を犯罪にする国・・日本です
労働組合員が“ストライキして逮捕”された。ミキサー運転手の労働組合「連帯労組関西地区生コン支部」、通称「関生(カンナマ)」を狙った事件だ。滋賀、大阪、京都、和歌山、各府県警が連携するかのように次々逮捕してゆく。労働三権は憲法が保障する基本的人権であるが、メディアは殆ど報じようとしない、「ストとはいえ過激すぎ」「幹部が反社会勢力とつながっている」・・知られざる戦後最大規模の「労働事件」の真相に迫る。

 

今回、上映後にMBSの西靖アナウンサーによる司会にて、伊佐治整監督と哲学者の内田樹さんが登壇。伊佐治監督は、お客様を前にして「我々TV局は、放送した後はそのまま。実際、視聴者の方がどうやって見ているのかな、と実感する経験がないものですから、こうやって来ていただくのは初めての機会です」と御挨拶。本作の題材に関わるきっかけとして、内田さんの存在は重要で「元々、”関生事件”は、私が外勤記者で警察や司法に関わりデスクにいた頃から度々耳にするんだけれども、あまり触れない方がいい雰囲気が醸成されていた。気になりながらもスルーしていた。2年前に内田先生のSNSを見ていましたら、この問題をずっと取り上げている竹信(三恵子)先生がデモクラシータイムスで発信しているのをRTされており、”非常に大変怖い話です”と紹介されていたので、見てみますと…ほっとけない問題であり、”関生”にコンタクトをとった」と本作を手掛けるきっかけを話す。内田さんは竹信さんが『賃金破壊 労働運動を「犯罪」にする国』というルポルタージュ本を出版するにあたって、ゲラを読み内容に驚愕しながら帯にコメントを書いた経緯がある。

 

現場で取材をしながら、伊佐治監督は「”関生”が行動すれば、大阪中の工事が止まってしまう」といったことも聞いていた。だけれども、取材を進めていく中で「だからこそ、労働組合なんだ」と認識していく。そこで「使用者側と労働者側が対等な位置に立てるんだ」と知り「ゼネラルストライキなどの映像を見てみると、見え方が変わってくる。一見すると、トラックを止めて乱暴なことをしているように見えるけれども、そうしないと、労働運動にとけこめない。そういう意味では、労働組合として当たり前のことをやっているんじゃないか」と捉えるようになった。

 

 

本作を観た内田さんは「映像の力は絶妙だと思いました。表情とその人の声で、その人が本当のことを言っているか。体の奥の方から全身をかけて言っている言葉と頭の中で言っている言葉には違いがある」と述べ「理事長の人間としての底の薄さ、”労働者は嫌いなんだ”と言ったこと。グラデーションとして右翼の人が体を張りながら、人間として奥行きがあるような感じがある。それは、伊佐治さんが説得力がある人を中心に据えてやっている」と受けとめている。

 

近年、SNS上で映像の一部を切り取られて拡散されることもあり、取材を進めていく立場としては大変だ。伊佐治監督は「右翼の方などに直撃する場合、相手にとっても、撮られる危機感はリスクとしてある、と思っている。交渉をしっかりして、礼を失さないように心掛けて取材した。許諾を得て撮っています。その後、覆すようなことを仰られることもあります」と話す。内田さんとしては、ドキュメンタリーとして報道される映像の許諾に関する課題に関心がある。そこで、伊佐治監督は「報道することについては電話或いはメールでお知らせします。編集したものを事前には見せることは報道倫理に反するので、絶対にしません。過去にしたメディアがあるので、大きな声で言います、絶対にしません。」と語り「礼を失しない。こちらが追求する言葉に不適切な人権侵害やそういった要素がないようにする姿勢があります」と添えた。とはいえ「相手に対して好意的な質問だけを投げかけるわけにはいかない」という認識もしている内田さん。伊佐治監督は「緊張する局面はあります。今回の取材では、それが集約されていました」と話す。内田さんは、今作で特に緊張した取材について伺いながら「あぁいう時は、人間の本性が出ちゃいますね。表情を見ながら、嘘ついているね、と…」と察していた。

 

 

2年前の春から取材の依頼をしていた伊佐治監督。最高裁から差戻しを受けた頃から半年間をかけてTVドキュメンタリー番組に至っている。最初は「破棄されちゃった…」と疑問に思いながらも、自身としても「裁判所だって間違えるよね」という視点を持ってみることにした。これまで取材してきた中で「意見が分かれるイシューに対して、裁判で勝てるのか、と取材するにあたって判断する」といった経験がありながらも「ただし、最高裁の差戻し理由を読んでも、どこまでいっても理解できない」と憤ってしまう。一方で「高裁の逆転無罪判決文を読んでいると非常にクリアでごもっとも」だと感じ「裁判所の無謬性から一旦身を置いて取材を始めようか」と行きついた。「ゼネストの全てを見ていると、どう考えても有罪判決が出るようなものには見えなかった。それでも、トントンと有罪が確定してしまった」と驚きながらも、冷静になって取材を始めることに。今回、各地の事件についてスルーしていたことから撮影素材が何もない状態から取材を始めており「連帯労組からの視点を以って描いた、土田トカチ監督の『ここから-「関西生コン事件」と私たち』があり、連帯労組にお願いして御快諾をいただき、使わせていただいた」と明かした。

 

なお、作中におけるナレーションは、西靖さんが担当している。内田さんは「この手のドキュメンタリーは、低くて『仁義なき戦い』のナレーションみたいなものが多い。西さんの声は明るい。普通に喋っているけれども、声の底に灯がある。希望が持てる声。明るいレイヤーがあって、ドキュメンタリーとして新鮮な感じがしました」と伝えていく。伊佐治監督は「普段の作品では、いかにも的なナレーションによるドキュメンタリーを作ることの方が多い」と踏まえた上で「この作品に関しては、一定の客観性や距離感を適度に保ちつつ、問題点を滲ませられるナレーターにお願いしたい。この問題の背景を全て理解した上で、声に落とす込んでいただけるナレーターは外部の方ではなく、社内にいるじゃないか、と…」と行きついた。西さんは「僕の中にも、伊佐治さんが今回の取材をすると聞いた時に、”関生”をやるの!?と思いがありました。世間からどう見られているか。労働の現場の中で起こったこととはいえ、実力行使がどんな風に世間に映っているか、を意識し、どんな声のトーンで読むか、凄く迷った」と打ち明けながら、ナレーションを担う前に、当事者達とのラジオ番組が企画され、当時の出来事について聞いた上で納得し自身で咀嚼した上で臨む、といった他のドキュメンタリーとは違ったアプローチでナレーションしたことも明かした。

 

TBSドキュメンタリー映画祭2025」は、関西では、4月10日(木)まで大阪・梅田のテアトル梅田と京都・烏丸御池のアップリンク京都で開催。また、映画『労働と弾圧』は、3月31日(月)12:30よりアップリンク京都、4月6日(日)12:15よりテアトル梅田、4月9日(水)12:15よりテアトル梅田でも公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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