技術が発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描写する『本心』がいよいよ劇場公開!
©2024 映画『本心』製作委員会
急逝した母の本心を知るために、仮想空間に母をよみがえらせた息子が、自分を見失っていく様を描く『本心』が11月8日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『本心』は、デジタル化社会の功罪を鋭く描写したヒューマンミステリー。工場で働く石川朔也は、同居する母の秋子から「大切な話をしたい」という電話を受けて帰宅を急ぐが、豪雨で氾濫する川べりに立つ母を助けようと川に飛び込んで昏睡状態に陥ってしまう。1年後に目を覚ました彼は、母が“自由死”を選択して他界したことを知る。勤務先の工場はロボット化の影響で閉鎖しており、朔也は激変した世界に戸惑いながらも、カメラを搭載したゴーグルを装着して遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」の仕事に就く。ある日、仮想空間上に任意の“人間”をつくる技術「VF(バーチャル・フィギュア)」の存在を知った朔也は、母の本心を知るため、開発者の野崎に母を作ってほしいと依頼。その一方で、母の親友だったという三好が台風被害で避難所生活を送っていると知り、母のVFも交えて一緒に暮らすことになるが…
本作では、『月』『舟を編む』の石井裕也監督が池松壮亮さんを主演に迎え、平野啓一郎さんの小説を原作に、田中裕子さんが朔也の母役で生身とVFの2役に挑み、三吉彩花さん、妻夫木聡さん、綾野剛さん、田中泯さん、水上恒司さん、仲野太賀さんと実力派キャストが共演した。
©2024 映画『本心』製作委員会
映画『本心』は、11月8日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田や心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋、難波のTOHOシネマズなんばやなんばパークスシネマ、京都・二条のTOHOシネマズ二条や三条のMOVIX京都や七条のT・ジョイ京都、神戸・三宮のOSシネマズミント神戸等で公開。
一作毎に変化する多彩なスタイルによって数々の作品を発表してきた平野啓一郎さんの小説を映画化した本作。急逝した母の本心を探ろうとすることが本題であるが、そう遠くない未来の日本を舞台にしたことで、現在とリンクしそうなキーワードが散りばめられており、ディストピアSFの要素があるヒューマンドラマとして見応えある作品に仕上がっている。
突如として”自由死”を選んで亡くなった母親の本心を探るため、主人公は、AIやARの技術を組み合わせながら仮想空間上に外見だけでなく会話もできるように再現されたVF(ヴァーチャル・フィギュア)の母親と対峙することになる。SF小説だけではなく、映画として表現された時、もはや、映画の中における現実や仮想空間の境目が無くなったように感じられ、現実以上の”現実”が表現されているようにも捉えてしまう程に興味深い世界観に惹き込まれた。だが、これは近未来に実現しそうな技術でありながら、倫理観を超越したような技術であり、議論したいものだ。あくまで人間が作り出したAIの延長線上にある技術であり、不具合が絶対に起きないとは限らない。負の側面もしっかりと描いている。
そして、AIに仕事を奪われた人間達が新たに取り組んだのが、”リアル・アバター”と呼ばれる仕事。自身のカメラ付きゴーグルと依頼者のヘッドセットを繋ぎ、依頼者の体として擬似体験をする職業だ。これも近い将来に登場しても不思議ではないと考えられる仕事だ。外の世界に出られなくなってしまった人間の代わりに最新機器を使って疑似体験できるのだから、重宝しそうである。小説自体は、2019年9月から2020年7月にかけて新聞で連載されていたことを考慮すると、コロナ禍前後に世の中で起きていたことを反映したとは思わずにはいられない。人間の悪意やAIに対する信憑性まですら取り入れたストーリーテリングには脱帽するばかりだ。
原作の舞台は、個人が自分の「死」の時期を選ぶことのできる〝自由死〟が合法化された2040年代の日本である。本作も同じような設定だろう。安楽死や尊厳死とも違い、人間の自由意志に基づいたものであり、現実化するとは思えないが、もし実現してしまったら、本人の意思を確認することすらままならない状態で亡くなってしまうのだろうか。ならば、VFが登場するのは必然かもしれない。そんな状況下、主人公が亡くなった母親の本心を知ってしまった時に何を感じるだろうか。スクリーンを見つめ、しかと最後まで見届けたい一作である。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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