ドキュメンタリーとフィクションを混合させることでグラデーションが豊かな作品に仕上がった…『ロマンチック金銭感覚』緑茶麻悠監督と佐伯龍蔵監督に聞く!
貧乏な映画監督コンビがお金について問われたことをきっかけに、地域通貨と出会い、ロマンチックな経済圏に出会っていく過程を、取材パートとフィクションパートを交えて描く『ロマンチック金銭感覚』が「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて大阪・梅田のテアトル梅田でも公開される。今回、緑茶麻悠監督と佐伯龍蔵監督にインタビューを行った。
映画『ロマンチック金銭感覚』は、俳優の緑茶麻悠さんと映画作家の佐伯龍蔵さんが共同で監督を務め、独自の金銭感覚を持つ人々に取材を重ねてフィクションパートを交えながら描いた異色のドキュメンタリー。映画監督の龍蔵と麻悠は、売れない自主映画を作り続けているため常にお金がなく、ついに生活費も底をついてしまう。映画制作には避けて通れない「お金」について考え始める2人だったが、突然現れた旅人から「お金って何ですか?」と問いかけられても答えることができない。それ以来、龍蔵が黄金虫に変身してしまったり、覚えのない種籾(たねもみ)や蜂の巣が置いてあったり、鉱石ラジオから異次元ラジオを傍受したりと、次々と奇妙な出来事が起こるように。その過程で「地域通貨」という存在に出会った2人はその実践者たちに話を聞き、いつも何気なく使っている法定通貨の外側にロマンチックな経済圏があることを知る。第17回田辺・弁慶映画祭にてフィルミネーション賞、東京ドキュメンタリー映画祭2023にて準グランプリを受賞した。
高校時代に父親から『エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと』を手渡されて読んでみた佐伯さんは、お金に関する概念がガラッと変わってしまった。それ以来「お金をテーマにした映画を作れないかな」と考えていく。だが「お金というテーマが普遍的すぎるために、脚本に落とし込んでも何だかチープな物語になってしまう」となかなか映画化に踏み切ることができずにいた。緑茶さんとの出会いや、文化庁の助成金「ARTS for the future!2」の企画募集、そしてコロナによる緊急事態宣言などを期に、「映画を作るなら今しかない」と決断した。2022年3月からドキュメンタリーとしての共同監督製作に踏み切るが、2人ともドキュメンタリー映画の製作は未経験であったため、撮影時の撮れ高不足による編集の難しさに思い悩むことになる。そこで、「ファンタジーやフィクションの要素も取り入れよう」と毎日のように創作のアイデアを出しながら、フィクションパートとドキュメンタリーパートの撮影を繰り返していき、最終的には1年に及ぶ撮影となった。
フィクションのパートに関して、アドリブの部分もあるが、2人それぞれが書いた脚本をお互いに付け加えながら仕上げていった。緑茶さんは「お互いの価値観を提示しながら、一度アドリブで撮ったこともある。ほとんどは脚本に書いており、アドリブを入れ過ぎると難しくなる。7~8割は脚本通りで、残りはアドリブでゆとりを持たせ緩やかにしている」と説き「作品の中では繋ぎ目があったり方向性を定めたりしながら、妄想シーンを挿入することで足りない要素を補足できる。最終的な着地点を目指すべく、中間地点には必要な出来事が起きている」と構成を練っている。なお、今作では、ドキュメンタリーのパートを撮影後、フィクションのパートについて脚本を執筆して撮影して編集作業をしており、通常の映画制作とは異なったプロセスを選んだ。編集作業では、2人である程度繋げながら大事なポイントは抑えておき、かなりの撮影素材をカットしたものをラッシュとしてスタッフ達に見せていった。「石の存在が意図するものが分からなかった」といった意見を受け「どういったものにするか迷っている」と打ち明けたこともあり、佐伯さんは「当初想定していた内容では、物語上でルール違反が生じてしまう。鉱石ラジオに転じたことで上手く成立している」と納得している。なお、2人が普段から昆虫学者の小松貴さんによるラジオ番組があり、直接オファーして鉱石ラジオから聞こえてくる番組を録音して頂いた。緑茶さんは「石の形を変えるのではなく、捉え方を変えることで違うものに変化する。お金も人によっては使い方が違っている。石が持っている能力を知らなければ宝の持ち腐れだけども、鉱石ラジオになって何かと繋がることが錬金術」と考察しており「石は人間より様々な情報を知っていることが大きく、作品に落とし込むことが出来た」と自負する。
完成した作品は、いくらかの映画祭に出品し現地にも伺った。第17回田辺・弁慶映画祭では、賛否両論でありながらも、クリエイティブな方々からは「何故これほどまでにおもしろいのか」「どうなるか分からないから目が離せなかった」「映画の中で遊んでいる。出来そうで出来るものじゃない」といった反応があり「作り手だからこそ分かることがある。1つ1つの積み重ねがあった上で、 作品が持つ力を感じ取ってくれている」と受けとめている。東京ドキュメンタリー映画祭2023では、長編コンペティションの審査員であり、ドキュメンタリー作家の代島治彦監督からの賞賛を受けた。東京・新宿のテアトル新宿での「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて公開された際には、プロフェッショナルな方である程に有難い意見を頂いており「お客さんによって視点が違い過ぎるのがおもしろい。感性を刺激する映画でもあるので、おもしろさに気づいた人は全てがおもしろくなる」と捉えていた。佐伯さんは、お金をテーマにした作品について「ほとんどが、お金の残酷な部分を描き、スタンダードになっている。問題提示はするけど、解決策が見えなかった」といった印象があり「本作では同様の描き方をしていない。1つの選択肢を提示できた」と様々な反応を受けながら実感している。緑茶さんも「ドキュメンタリーとフィクションを混合させることで、何がリアルであるか気づき鑑賞後には調べたくなる。まっさらな状態になってお金に対するイメージを作ってもらって、アイデア次第で何でも出来る、というメッセージを届けられる」と期待しており、若者のお客さんに届いていることが分かってきた。
映画『ロマンチック金銭感覚』は、関西では「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて大阪・梅田のテアトル梅田で9月20日(金)と9月24日(火)と9月26日(木)に公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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