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映画館で映画を観ることこそが、”箱男”のようなもの…『箱男』石井岳龍監督に聞く!

2024年8月21日

一方的に世界をのぞき見る”箱男”が試練と危険に襲われる姿を描く『箱男』が8月23日(金)より全国の劇場で公開される。今回、石井岳龍監督にインタビューを行った。

 

映画『箱男』は、作家の安部公房さんが1973年に発表した長編小説を『狂い咲きサンダーロード』『蜜のあわれ』等を手掛けた石井岳龍監督が映画化。ダンボールを頭からすっぽりと被った姿で都市をさまよい、覗き窓から世界を覗いて妄想をノートに記述する”箱男”。それは人間が望む最終形態であり、すべてから完全に解き放たれた存在だった。カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われ、自らもダンボールを被って箱男として生きることに。そんな彼に、数々の試練と危険が襲いかかる。1997年に映画の製作が決定したもののクランクイン直前に撮影が頓挫してしまった幻の企画が、27年の時を経て実現に至った。27年前の企画でも主演予定だった永瀬正敏さんが“わたし”を演じ、“わたし”をつけ狙って箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者役で浅野忠信さん、箱男を完全犯罪に利用しようともくろむ軍医役で佐藤浩市さん、“わたし”を誘惑する謎の女である葉子役で白本彩奈さんが共演した。

 

32年前、原作小説の映画化権を頂いた本作。石井監督は、まず”箱男”のキャラクターに惹かれ「段ボール箱を被り、覗き窓開けてみると、”わたし”は普通の人でありながら、優位に立っている。とてもおもしろいキャラクターであり、世界一チープな怪人だ」と印象深かった。そして「安部公房さんは、匿名の危険性や自由の本質、人間の優位性といったものを問題として捉えていた」と説き「箱を被ることで人間ではない別の生命体として不思議なものに変わったのか。彼は、危険や誘惑、現実であるかも分からない事件に遭遇しながら、最終的にラブストーリーとなるのが不思議で、様々な謎が多かった」と原作の感想を話す。安部さんの現代社会に対する捉え方について、監督自身の考えと互換しながら興味深く受けとめており「『箱男』の映画化にチャレンジすることで、作品が放つ魅力や得も言われぬ危険な毒を映し出したい」と取り組んだ。だが、27年前、ロケ地となったドイツでのクランクイン前日に突如頓挫し、幻の企画となってしまう。

 

今回、ようやく撮影できるようになり「時代が追いついたんじゃないですかね」と監督は率直に話す。現代社会に合わせたストーリーとしてブラッシュアップもしており「非常に難しかったが、原作により近い構成になっている。情報化社会が進んだことにより、現代の僕らは箱を被っていないが”箱男”なんじゃないか。そういった時代になってしまったからこそ実現した、といったことが大きいんじゃないか」と考察していた。いながききよたかさんと共に作り上げた脚本について「原作は、箱男が書いている手記として始まり、その後に主体が次々に変化していく。途中で、読者も箱男が陥っている迷宮に誘われ、アクセスしてしまう。これをそのまま映画で表現するのは非常に難しい。この形を継承しつつ、映画として再構成するにふさわしい構造にしよう」と検討。「箱男の殺人事件・完全犯罪殺人事件という形を成した自殺報助・箱男を利用した殺人事件があり、”箱男”になった”わたし”が巻き込まれ、ラブストーリーもある。この3つを柱にする」と方針を決め「全体を整理した上で、最後にもう一度見直していった。勿論、泣く泣く落とした箇所も沢山あります」と話す。

 

キャスティングに関して「”わたし”役だった永瀬正敏さんは外せなかった。それに合わせて微調整していった。佐藤浩市さんは、当初のキャスティングでは偽医者役だった。今回、軍医も肝になる。佐藤さんが偽医者を演じると、軍医はどうすればよいか…」と悩んだ。そこで、申し訳ないながらも、軍医役は佐藤さんに依頼し、浅野忠信さんに偽医者役を担ってもらった。そして、謎の女である葉子役のキャスティングは難しかったが「今回は、既視感のない新鮮な女優の方に演じて頂きたい」と定め、オーディションを経て、白本彩奈さんが起用されている。

 

撮影にあたり、箱男のデザインには拘った。原作では、かなりの大きさを呈していたが「その大きさでは、現代の社会においては東京で存在できない。相応の大きさに変える必要がある」と分かり、十分に検討している。内装に関しては「彼の家であり、この中でずっと暮らしている。生活が可能な設備があり、コックピットでもある。少し狭い宇宙船のようなもの」と、美術の林田裕至さんにイメージしてもらった。林田さんとは『爆裂都市 BURST CITY』の頃から仕事をしており「非常に優秀で天才的な方。当初の『箱男』でもデザインを担ってくれた。今回のシナリオに合わせてデザインし直して頂いた。非常にミニマルだけど、宇宙を感じさせてくれる」とコンセプトを具現化してもらっている。「箱男は主観の中で生きている」といった設定もあり「これは魔法の箱である。時には少しだけ大きく感じることがあっていいように、伸び縮みしてもいい」と仕掛けも施してもらった。ロケ地に関して「原作小説が書かれた当時の昭和、1973年の頃の匂いを残しつつ、現代の匿名の街である必要がある」と定め、制作部が東京都近郊でかなり探した。近年、群馬県高崎市が映画撮影に協力的で「物凄く良くして頂いた。昼間は閑散な夜の街があり、撮影に相応しかった。此処がベストだな」と直感。都内から毎日通いながら撮影するのは大変ではあったが、充実した日々であった。

 

完成した本作は、第74回ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・スペシャル部門に出品され、関係者向けの試写が行われており、様々な異なった意見を頂いている。この反応を快く受け入れており「あなたはどう感じますか、と問うている映画だと思う。或る種の決まったルートの答えをなぞるような映画ではない。アマゾン地帯に迷い込むような映画なので、楽しみ方は人それぞれ」と冷静だ。監督自身は、本作を特殊な映画だと思っておらず「ベルリンでは、今年一番クレイジーな映画だ、と言われたが、私はクレイジーだと思っていない。世の中の方がクレイジーだから、クレイジーに見えるんじゃないかな」と指摘。「王様は裸だ、と言っているだけなんです。箱を被っているけど、王様は箱男だ、と言っているようなもの。純粋な気持ちで、まともなことを言っている」と真摯に話す。

 

劇場公開を目前にした現在、石井監督は改めて「現代人は見えない箱を被っている」という認識があり「『箱男』は、私達の、或いは、安部公房さんの自画像じゃないか」と言及。企画した27年前から分からなかったことではあったが、今では「私達のことをデフォルメした物語だったんだ」と実感している。また「映画館のスクリーンを通して作品を体験的に観ることも、箱男のようなもの。それを良きことにするか、悪しきことにするかは本人次第。それも含めて『箱男』じゃないかな」と考察し「一番大事なのは、自覚すること。関係ない、と思ったら、その時点で終了」と説く。

 

映画『箱男』は、8月23日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋や難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都や九条のT・ジョイ京都、神戸・岩屋の109シネマズHAT神戸や三宮のkino cinema 神戸国際等で公開。なお、8月29日には、大阪・梅田の梅田Lateralで石井岳龍監督を迎えトークライブが開催される。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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