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武松商事さんの協力があってこそ、今こそ撮るべき作品が出来上がった…!『ゴミ屑と花』大黒友也監督に聞く!

2024年8月13日

家族を養うためにごみ収集の仕事に転職した青年が、指導員との研修を通して、ひたむきさと生き方の美しさに気づく『ゴミ屑と花』が「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて劇場公開される。今回、大黒友也監督にインタビューを行った。

 

映画『ゴミ屑と花』は、日本映画学校映像学科(現・日本映画大学)で映画制作を学び、中田秀夫監督、黒沢清監督、三池崇史監督らの現場に参加してきた新鋭の大黒友也さんが手がけた短編。深夜のゴミ収集作業に従事する主人公の姿を通して描く、誰にも称賛されない影の功労者たちの物語。精神的な理由で自衛隊航空パイロットを辞め、家族を養うためゴミ収集の仕事に就いた尾崎浩一は、研修期間中、指導員の橋本花とともに深夜にゴミを収集してまわることに。200件ものゴミを回収してまわり、重たく、汚く、悪臭にまみれたゴミに圧倒される浩一。そんな彼らを鬱陶しく思うサラリーマンもいれば、感謝の声掛けをしてくれる店員もおり、また何も気にも留めずに通り過ぎる人もいる。さまざまな視線を受けながらも、周囲を汚さず、通行人に配慮しながらひたむきに働く花の姿に、浩一はある種の美しさを感じる。新人監督の登竜門として知られる第17回田辺・弁慶映画祭で映画.com賞を受賞した。

 

以前から、ゴミ収集作業員の仕事を題材にした作品を企画していた大黒監督。企画コンペティションにも応募し最終選考まで残っていたが落選してしまう。だが、ごみの収集・運搬・処理の他、リサイクルの普及活動に取り組んでいる武松商事株式会社の協力を得て現場での取材等もさせてもらい「コロナ禍におけるエッセンシャルワーカーが注目された時期、今こそ撮るべき作品ではないか」と検討。30分の短編作品として自主映画というスタイルで制作に踏み切った。

 

普段は、映画・テレビドラマの撮影現場で助監督を担ってきた大黒さん。当初は、どのような作品になるか明確に定まっていない状態で取材のアポイントメントをとっており、数社からは断られてしまう。だが、武松商事株式会社には企画意図をしっかりと読んでもらい「熱意を以って連絡したことで、好意的に受けとめてもいらい、取材に応じて頂いた」と振り返る。最初は、事業所の会議室での取材を行っていく中で「やっぱり実際に体験した方が分かりますよね」と仰って頂き、実際に夜や深夜帯の時間に体験取材もさせてもらい、収集車の助手席に乗って同行させてもらった。大黒さん自身はゴミ収集の仕事を体験したことがなく「ベテランの方に同乗させてもらいました。勿論、僕がやるよりスピードは圧倒的に早く、ついていくのが精一杯だった。それでも、『手伝いたいな』と思ったので、可能な限り手伝っていました」と打ち明けながらも、どのように感じたか心に留めていく。現場から現場へと移動していく中で会話をする時間もあり「普段、どういうことを考えていますか?」「ラジオ等を聞くこともあるんですか?」等と聞きながら、実体験を物語に反映するようにしていった。取材前から大枠の物語は作っていたが「プラスアルファとして、リアリティをどのように加えればよいか。リアリティが乏しければ、つまらなくなってしまう」と危惧し「実際のごみ収集の仕事ぶりや所作を取材によって補完し、私の実体験を少しずつ取り入れたり、削ぎ落したりしていきました」と説く。

 

キャスティングにあたり、基本的には助監督をしてきた中で一緒に仕事をしていた人に声をかけていった。自主映画として制作していることもあり、オーディションの実施も難しく、広く知られた俳優の起用も大変であり、経験に基づいた上で役柄をイメージできる方をキャスティングしている。とあるシーンに出演している木村友貴さんとは以前からの知りありで親しい間柄であり「ワンシーンで台詞もないシーンだったんですけど『そういった自主映画で撮るんだったら…』と快く引き受けてくれましたね」と明かした。

 

2022年10月に撮影しており、夜や深夜を中心に基本的にはナイターシフトで、終電近くから始めて朝方まで実施するスタイルで取り組んでおり「夜は冷え込んでいき、長袖であっても冬に近い感じの寒さになっていたので大変だった。そして、車輛が伴った撮影でもあるので、事故に気をつけながら安全面も踏まえてやっていったことも大変でした」と思い返す。武松商事株式会社の全面協力もあり、撮影場所との交渉にもサポートを頂いた。実際のゴミ収集ルートで撮影しており、撮影許可のサポートやパッカー車の様々な操作や所作等に関しても監修の立場で協力して頂いている。

 

編集作業では、大黒監督が日本映画学校時代の同期である編集技師にお願いして2人でじっくりと時間をかけて取り組んだ。特に、作中に実景を入れることについては拘っており「空などの地の景色を入れていない。バックショットから走行中のパッカー車を映し出すことで、1つの場面転換のクッションになると同時に実景としても成立するんじゃないか。」と検討。また「ゴミ収集車が走っていく中で街並みが移り変わっていく。統一感を持たせるため、パッカー車のバックショットを以て、物語の世界観をどのように表現できるか」と議論していった。本作が初監督作品であり「この作品は観た方に本当におもしろいと思ってもらえるか」と不安があったが、最終的にオールラッシュの段階でプロジェクターで投影しながら観ていく中で「誰が観ても、2人の物語の行く末を受け取ってもらえる」と手応えを掴んだ。その後、整音作業をすると共に劇伴の音楽をつけていきながら完成に向かっていき「このままちゃんと進めばいけるんじゃないか」と自信を持つことが出来た。

 

完成した作品は、いくらかの映画祭に出品し現地にも伺っており、田辺・弁慶映画祭は「アットホームで映画祭を盛り上げたい気持ちを皆さんが持っていて、スタッフの方達も映画が大好き。映画祭終了後、食事会や交流会の時も話しかけてくれたり、感想を言って頂いたりして頂いた。映画の話をみんなで夜通し語り合ったのはとても幸せだった」と好印象に残っている。特に、上映後の質問コーナーでは好意的に観て頂いたことが分かると共に「ごみ収集の世界をあまり深く見たことがなかったが、知らない世界を描いていたのが良かった」「30分間のドラマとしても、しっかりまとまっている」といった感想を頂いた。

 

現在の大黒さんは、助監督として活動していることが多く「まだ監督デビューをしたとは思っていない。次は長編作品の制作を目指しています。そこで商業デビューをして、もっとたくさんの人に映画を観てもらいたい」という目標がある。そして、本作の制作を経て「しっかりとした予算と制作体制で人間ドラマ・映画表現を突き詰めていきたい」と志を高く持っていた。

 

映画『ゴミ屑と花』は、「田辺・弁慶映画祭セレクション2024」にて9月1日(日)~5日(木)に東京・新宿のテアトル新宿で劇場公開。関西では、9月21日(土)に大阪・梅田のテアトル梅田で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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