「人の人生で遊ばないでよ」という台詞を大切にした作品にしていきたい…『東京ランドマーク』舞台挨拶開催!
コンビニエンスストアのアルバイトで生計を立てる青年が、なかなか帰ろうとしない家出した高校生の少女を、なんとか家に帰そうと友人たちと奮闘する姿を描く『東京ランドマーク』が7月6日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場でも公開。初日には、藤原季節さん、大西信満さん、石原滉也さん、林知亜季 監督、毎熊克哉プロデューサーを迎え、舞台挨拶が開催された。
映画『東京ランドマーク』は、2008年に柾賢志さん、毎熊克哉さん、佐藤考哲さん、林知亜季さんの4人で結成された映像製作ユニットEngawa Films Projectが手がけた初長編作品。現代の東京に生きる若者たちが、ある出来事をきっかけに、知らずに抱いていた閉塞感から解放されていく様子を、静謐で透明感のある映像で描き出す。コンビニのアルバイトで生活をする稔の家にいつものように遊びにきたタケは、桜子という名の家出少女を稔が匿っていることを知る。未成年である桜子を早く家に帰そうとするタケだが、桜子はどうしても帰ろうとしない。そこでタケは稔とともに桜子を匿うことを決め、そこから3人の不思議な関係が始まるが…
監督・脚本はEngawa Films Projectメンバーの林さんが務めた。主演は『his』『くれなずめ』『わたし達はおとな』等で活躍する藤原季節さん。撮影は2018年に行われており、当時25歳だった藤原さんにとって初の主演作となった。
今回、上映後に藤原季節さん、大西信満さん、石原滉也さん、林知亜季 監督、毎熊克哉プロデューサーが登壇。時間をかけて手掛けてきた作品への思いが伝わってくる舞台挨拶が繰り広げられた。
藤原さんが19歳の頃、毎熊さんと義山真司さんに小劇場で出会って以来の縁がある皆さん。本作では、自身の実体験や当時に家族や友人との関係で悩んでいたことを林監督が当て書きで盛り込んでいる。藤原さんが当時住んでいた家や実家の近くが劇中には登場しており、思い出深い作品だ。石原さんにとっては初めての撮影現場だった。本作について「様々なものを超越し、素敵なものが出来上がることに気づかせてくれた。本作を撮る1,2年前に季節君と出会い、悩んでいた時でも様々に与えてもらい、今立たせてもらっているのは関係性の先にあるもの」と受けとめている。
毎熊さんも本作における関係性の変化を興味深くしていくことがおもしろい。大西さんは「何か大きなことが起きるわけではない。起承転結がある類の作品ではない。等身大の若者のまんまである藤原季節の顔や、悩んでいる先輩の顔がしっかりと映っている。林監督は映画監督としての拘りが一切なく、状況だけを設定してカメラを投じている。撮影している時は、どういう作品になるか全く分かっていなかった。時間を経て理解してきた。僕自身もビックリしました」と振り返る。林監督としては「物語をなぞるより、映画の余白を十分に考えた。役者の演技にある深みが映画の余白として映っていたので、それらを一つに合わせていった」と説く。
ラッシュの状態では3時間半程度あり、編集作業で少しずつ削っていきながら、削り切れない部分について議論していき、劇場での公開日が決まった際に仕上げていった。なお、本作冒頭には石原さん演じる先輩の髭剃りシーンから始まっており、毎熊さんとしては「寧ろ滉也のシーンはカットされず増えている。作品全体では数分だけれども、重要な役であることが分かった。僕がバイトをしていた頃、彼のような存在に絶対に出会う」と説明する。
撮影当時を思い返し、大西さんは「(父親に関して)細かい話をした覚えがない」と明かし「映画は理屈で作るものではない。どういったシーンがあってもいい。シチュエーションだけを決め、その中で放し飼いされていたような感覚があり、いつの間にか撮られていた」といった印象が大きい。藤原さんもシーン毎に漂う空気感の違いを察しており「林さんが信満さんを撮る時は違うなぁ。信満さんが演じた桜子の父親は、大人ではなく、大人になれない子どもとして撮ろうとしているのかな」と受けとめている。
短編作品を林監督と共に手掛けてきた毎熊さんは「林さんが段取りを組んで撮らないことは知っていた。(藤原)季節や(義山)真司と撮るシーンは分かっていたけども、信満さんとのシーンは違っており、言葉に迷い悩んでいるようだった。信満さんもどのようなシーンになるか話していた」と思い返す。林監督の撮り方について、大西さんは「シーンに込めれた思いを気にし過ぎないでいい。起きたことを受けて次にどのようにつなげるか」と大切にしていた。
林監督との撮影について、藤原さんは「決定的なことは言われない。皆で年越しそばを食べたこと等、断片的な映像が思い浮かんでくる。林さんを自分の父親のように感じながら安心感に包まれながら撮影していた」と記憶している。物心がついていないような状態での撮影のように感じており「最近の林さんの言葉をよく覚えている。本作に対する様々な意見がある中で、林さんは『桜子の人生で遊びたくないかな』という言葉は一生覚えている。林さんの中ではどのキャラクターもまだ生きている。この映画をおもしろおかしくイジってしまったら、桜子の『人の人生で遊ばないでよ』という言葉を裏切ってしまう。この映画は、映画であって映画でない。その感情は大切にしていきたい」と真摯に受けとめていた。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
- 最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!