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ありふれた日常のルーティンに愛おしさがあることを教えられた…『フジヤマコットントン』青柳拓監督に聞く!

2024年4月5日

山梨県の甲府盆地にある、障害福祉サービス事業所みらいファームに集う人々の日常を追ったドキュメンタリー『フジヤマコットントン』が4月6日(土)より関西の劇場で公開される。今回、青柳拓監督にインタビューを行った。

 

映画『フジヤマコットントン』は、富士山が見守る甲府盆地の中心部にある障害福祉サービス事業所「みらいファーム」で働く人々の姿を見つめたドキュメンタリー。山梨県中巨摩郡の「みらいファーム」では、温かい雰囲気の中で、さまざまな障害を持つ人たちが思い思いの時間を過ごしている。彼らの日常に目を凝らし、仕事に取り組む姿を見つめていると、花の世話をしたり、絵を描いたり、布を織ったりする手つきに“その人らしさ”が見えてくる。友情、恋心、喪失とそこからの回復など、他者との関わりの中で醸成されていく感情と言葉を丁寧に記録し、時に人生に思い悩みながら生きる彼らの等身大の姿を魅力的に映し出す。監督はコロナ禍に手がけたドキュメンタリー『東京自転車節』が話題となった青柳拓さん。

 

みらいファームが青柳監督の母親の職場であることから、監督自身も幼い頃から通っていた。勿論、職員の方々にも知られており、映画監督として活動していることも母親が伝えている。初監督作『ひいくんのあるく町』は、福祉施設での上映が多く、みらいファームとの共同主催での上映会も開催され、職員の方、利用者の方、利用者の御家族にもドキュメンタリー映画の監督であることが認識されていた。とはいえ、みらいファームにカメラを入れていくことには緊張したが「母が、カメラを持っている人がいることを認識させてくれていた。『いよいよウチにも来たか』と受け入れてもらえていた」と安堵。今回は、青柳監督含め3人がカメラを持って撮影しており「他の2人は初めての経験だったので、緊張していました。当然、撮られる方も緊張していた。そんな状況で1年もかけて撮影したことで、緊張が解きほぐれていく過程も収まっている」と受けとめ「僕自身が仲介役となり、2人のカメラマンと対象者の人達との関係性を繋いでいった。緊張して撮れないこともありますが、関係性を築いていく中で、撮ることができた」と納得している。作品を観ていると、カメラを意識し過ぎず、自然な振る舞いが収められていることに気づかされていく。「取材用に観察的に撮るというより、ココにいさせてもらい、自分達を受け入れてもらって、皆さんの姿を見せてもらう位置から撮らせて頂いている」と意識しており「3人で撮影していますが、それぞれが主体的に興味のある対象者と関わり、その間にカメラを置かしてもらい撮っていた。監督・録音・撮影による3人のスタイルではなく、3人それぞれが主体的に関わることができたから、自然と出来上がった関係性を撮ることができ、お客さんにも自然な光景として見える」と説く。

 

撮影した3人それぞれが興味を持った利用者さんにカメラを向けており「関わりたい意志があり、相手も同じタイミングで関わりたいと思って下さっている。『自分が関わりながら撮っているか』『興味を持って関わっているか』といった意識を互いに確認し合いながら撮っていった。だからこそ、日常の変化を発見していく姿を凝縮した映画になっている」と語る。登場人物の1人、おおもりくんは、仲の良い職員が退職したことがきっかけで、他人と接することをしなくなった青年。山野目光政さんが撮っており「おおもりくんは返事をしてくれるけど、撮っても良いか悪いか、あまり言ってくれなかった。最初の頃は『居させてもらえないだろうか』という段階で、山野目さんは最初にフィックスで遠くから撮っていった」と振り返り「『ここにいてもいいだろうか』と山野目さんとおおもりくんがお互いに考えていった。最初は、おおもりくんが景色のように佇んでいる姿を撮っていき、次第に近づいていきながら、柔和な表情が次第に見えてきた。2人が分かり合えたことで、一層にカメラを受け入れてくれるようになった過程を撮れている」と言及。青柳監督としては「そういった関係性の変容も映画の中で感じてもらえたら」と願っている。

 

季節が移り変わっていく中で、みらいファームの姿を捉えるためにも、1ヶ月に2週間ずつ伺い、1年をかけて撮影が行われた。「日常を撮っていく中では、ルーティンが存在している。イベントを開催する日もありますが、基本的には、繰り返し行っている仕事に取り組んでいる姿を撮らせてもらう」といった姿勢で臨んでおり、最初から「みらいファームの1年間を撮ろう」と決断。最初にリサーチしていく段階で「この日常をどう撮るか」と考え「とても緩やかで変化を見出しづらい。ルーティンなので、季節の移ろいや具体的な成長を縦軸として、日常の変化を入れ込んでいくことを想定すると、1年間の姿は最適なんじゃないか」と検討。なお、本作の企画段階から、全ての撮影が終わってから編集作業を実施するのではなく、1日毎にそれぞれが育んだ関係性の中から発見したものが撮れていたかどうか確認し、しっかりと記録に残して編集段階では凝縮して纏めている。プロデューサーの大澤一生さんが構成にも関わって作品の骨組みが出来上がり、編集担当の辻井潔さんとは、撮影の段階からラッシュ映像を確認し常に話し合い、最後まで仕上げていった。

 

ルーティンを撮ることに関しては、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』から「ありふれた日常のルーティンの中に愛おしさがあることを教えられた」と打ち明け「これは僕の身近にもあり、知っている景色でもあるな」と思い返す。「みらいファームの魅力はこれなんだな」と実感し「背伸びせず、等身大でやっている瞬間が魅力的だ。それを撮れないだろうか」といった意識で本作と向き合った。また「相模原障害者施設殺傷事件に対する思いが映画の根底にある。植松死刑囚の『人間に価値があるかどうか』といった価値観とは関係なく、障害のある人達の本当の姿を描ける」と確信し「『その姿を撮らせてもらえないか』とお願いし、みらいファームに伺いました。撮り始めてみると、社会問題云々が吹き飛ばされる感覚があった。目の前の人達と関わることで得られる喜びを撮っていくことができた」と手応えがあり、映画の宣伝の中では、植松死刑囚の言説に対するアンサーを明確に伝えている。

 

綿に関する活動に取り組んでいる姿をカメラは捉えており、製品を完成させるまでの工程を知ることができ「皆が普段着ている服がこういう工程で作られるんだ」と発見できた。作っている人毎に個性があることも映し出しており「さをり織り、という興味深い織り方の工法で作られていた。均一に織るのではなく、感じるままに好きなように織る」と述べ「この哲学は本作のテーマと通底する。自身が織る仕事だけじゃなく、周りの人との関係性も楽しみながら織ることができるんだな。そこにある関係性の魅力も伝えたい」と思いを込めていく。「皆さんが取り組んでいる仕事の完成こそが本作のクライマックスだ」と考え、全体を通して「一緒に映画を作ることが出来た」という感覚があった。みらいファームの日常を撮ることを目指して取り組んだ映画の一区切りがついた時には「この感覚をどのように共有できるか」とスタッフ全員で話し合い「各々の登場人物が取り組んだものの起承転結があり、季節が巡っていきながら、心の整理が出来た。日常の大切やかけがえのなさを込めた映画が終わるタイミングを確認し合える姿を撮らないか」と着想し、ラストシーンを撮り終えている。

 

なお、本作の音楽には、山梨県を拠点に活動している、みどりの楽曲を起用した。ヴォーカルの森ゆにさんは、中学生時代の青柳監督が山梨県立科学館でのLIVEを見たことがあり「凄く良くて大好きな曲があった」と印象深い思い出となっている。みらいファームとも間接的に御縁がある田辺玄さんは山梨県出身のバンドであるWATER WATER CAMEL(現在活動休止中)のギタリストであり「山梨県を拠点に活動している2つのアーティストが合わさっており、みどりのモチーフは季節の移ろい。緑が生え始めて生い茂るまでが活動期間であり、映画とマッチしている」と気づき、既存曲に加え、主題歌「朝に夕に」を書き下ろして頂いた。

 

劇場公開にあたり、TBSラジオの番組「こねくと」にて町山智浩さんによる本作の紹介や青柳監督によるメッセージが放送されたり、オンラインの政治メディア「ポリタス」で和田静香さんが紹介したりしたことの影響もあり、障害福祉の観点からだけではなく、純粋な気持ちで映画を観に来て下さる方が多く「お客さんに届いている」と実感している。その中では、60代の女性から「障害のある人達にも感情ってあるのねぇ」という感想を受け「びっくりしました。『人間ですから感情がありますよ』と言い返したくなる気持ちも湧きました。でも、それ以上に、その女性がとても笑顔でパンフレットを買って、僕に嬉しそうに話してくれた。『そうだよ、あなたに出会いたかった。あなたに見せるためにこの映画があったんだ』という嬉しさも抱いた」と素直に話す。「そんな考えを持っている人がいることを僕は初めて知ったので、考えさせられました。社会問題になるんだな」と頷くと同時に「お客さんに関わることは大事だ、と分かりました。映画は疑似体験だから、間接的に関わることをしてもらえたのかな」と願うばかりだ。

 

現在の青柳監督は、水道橋博士が挑んだ参議院選挙に挑んだことを伝えるドキュメンタリーを完成させようとしており「2022年の夏、本作と同時期に『東京自転車節』と同じようにカメラを振り回しながら、1ヶ月間の目まぐるしい選挙戦のドキュメンタリーを撮り終えた。当選後はうつ病が発症して休職し辞職に至り、その後の半年は療養期間となり全く表には出られず。映画のお蔵入りを覚悟していた。最近は元気になられました。選挙から復活まで収めたドキュメンタリー映画になりそうです」と報告。そもそもは、『東京自転車節』を観た町山智浩さんは水道橋博士と親友で「選挙に出馬するから、ドキュメンタリー映画作家が撮らないか」と提案され「政治は自分事。芸人ならではのおもしろい選挙戦にする、と伺ったので、撮らない断る理由がない」と引き受けた。「選挙戦だけを映し出すドキュメンタリー映画だったら、お祭り騒ぎの映画になっていたが、その後のあり方までを作品にしている」と説明し「水道橋博士の姿を見ながら『フジヤマコットントン』で向き合った姿勢で撮れたかな」と自負している。

 

映画『フジヤマコットントン』は、4月6日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、4月12日(金)より兵庫・豊岡の豊岡劇場、4月19日(金)より京都・出町柳の出町座、4月20日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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