ホラーというコンテンツを使って新しいことを試したい…!『悪魔がはらわたでいけにえで私』宇賀那健一監督に聞く!
過去の名作ホラー作品のオマージュと、ホラー界の巨匠へのリスペクトを交えて、音信不通のバンドメンバーを訪れた仲間たちが、様子のおかしいメンバーと別世界への扉を見つける『悪魔がはらわたでいけにえで私』が2月23日(金)より全国の劇場で公開される。今回、宇賀那健一監督にインタビューを行った。
映画『悪魔がはらわたでいけにえで私』は、『異物』シリーズなど独自の世界観とユーモアでジャンルにとらわれない作品づくりを続ける宇賀那健一監督が、世界各地の映画祭で注目を集めた自身の短編映画『往訪』に新たな登場人物と展開を加えて長編映画として完成させたバイオレンスホラー。ハルカ、ナナ、タカノリは、突然連絡が取れなくなったバンドメンバーのソウタの家を訪ねる。ソウタの家は窓ガラス一面に新聞紙が貼られており、彼の様子もどこかおかしい。不思議な力に導かれたナナが部屋の奥に貼られている不気味なお札を剥がすと、別の世界への扉が開かれてしまう。数カ月後、音楽プロデューサーのコウスケが目を覚ますと、彼は見覚えのないバーの店内に縛られていた。近くには見知らぬ男レンが横たわっており、コウスケは必死に彼に呼びかけるが…
キャストには『啄む嘴』の詩歩さん、『テン・ストーリーズ』の野村啓介さん、『ある職場』の平井早紀さんのほか、『悪魔の毒々モンスター』等で知られるロイド・カウフマン監督も出演した。
短編映画『往訪』の長編化である本作。既存の作品に関する部分は、多少なりとも編集しているが、ほぼそのままの映像であり、追加撮影は行っていない。宇賀那監督は、『往訪』について「ある種のジェットコースタームービー。振り切ったホラー愛を詰め込んだ作品だった」と捉えており「同じテンションで長編化しても30分程度の作品にしかならない。莫大な予算と長期の撮影期間があり、様々な造形ができたら、事情は違う。現実的にはそういったことはない」と受けとめ、長編化に対して苦悩していく。「ホラー作品の続編制作となると、1作目がおもしろくて評価が良いと、2作目は、過剰な内容になる。3作目以降では、セルフパロディになることが、”ホラーあるある”」といった通例があり「だからこそ、それらを1本の映画の中でやりたい。そして、昔あった作品の単純な焼き直しにはしたくない」と拘った。新しい価値観のホラー映画を生み出すべく「もはやホラーであるかどうかも分からないような映画を作りたい。ホラーというコンテンツを使って新しいことを試したい」とチャレンジすることに。
追加のキャスティングも行っているが、その中でも注目したいのは、トロマ・エンターテインメントの設立者であるロイド・カウフマンだ。『往訪』がトロマ・エンターテインメント主催のトロマダンス映画祭で入選し、上映して頂けると共に、同時期開催のニューヨーク・アジアン映画祭でも上映となり、訪米のタイミングに「出演してくれないか」と交渉。承諾頂き、撮影させてもらった。トロマ・エンターテインメントの社内にある1室を借りて数時間でスムーズに撮り終えている。日本国内での撮影は1週間強で無理のないスケジュールで実施できた。作中には、過酷な雨のシーンがあるが、作り込んでおらず「実際に降っている雨。撮影予備日はなく、雨が止むのを待つか、或いは、雨が酷い時に撮るか…と迷ったが、酷い時に撮った方がおもしろいじゃないか」とあえて大変な状況に臨んだ。なお、『往訪』は関係者等の協力を得て撮影できたが、本作では、ロケでの撮影も行っている。今作のようなジャンル映画に関する撮影の許可取りについて「断られる可能性はあるかもしれない」と身構えていたが「意外とどこも断られず。人がおらず、世紀末感がある時間帯を狙いました」と順調だった。
本作には様々なホラー映画へのオマージュが込められている。それらを楽しみながら観ることが出来るが、さらには、とある体制批判の意味が込められたディストピアコメディー・SF映画へのオマージュも。「言語を超越した映画にしたい」という意図があり「御時世的には、性別とか国籍とか宗教とかに対してどんどん寛容になってきている世の中。それ自体はすごく良いこと。だが、果たして、お前らは本当に寛容になっているか」と訴求。「自分の中で、セーフティーラインを決めて寛容なふりをしているだけじゃないのか。極端にいえば、人間かどうかもわからない姿になっても、果たしてそれは言えるだろうか」と疑問に思い「この映画では、言語が無くても伝わる」と参考にした。ノン・バーバルな作品であるため、演じる身になってみれば大変そうだが「ノリノリで演じてくれていた。言葉になっている台詞の掛け合いについては役者次第。役者同士がシンパシーで演じていたからこそ、エモーショナルなシーンが生み出された」と俳優を信頼している。クライマックスには、とある叙事詩的SF映画へのオマージュまであり「『往訪』の洋題は『Visitors』。誰かが去って新しい人がやってくることこそが一つの人生。友人が来るとこからスタートし、モンスターまで登場しながら、最後に皆が去った後に何がやってくるだろう」と熟考。「最後に大きい何かがないと、絶対ダメな気がしていた。それがいまいち出てこなくて…」と悩みに悩んで「撮影日はもうすでに決まって近づいていく中で、クランクインの1週間前に思いついてギリギリで脚本を変えた。アレが出てきて良かった」と感慨深い。長編化にあたり、当初から60分の作品を想定しており「60分は、長編ではありながらも見やすい。予算に対して、どれぐらいの熱量をその時間に対して詰め込めるか、ギリギリのラインだった。特に、今作では、とにかくネタを詰め込みまくっている。これ以上の長さは難しかったが、良い作品が出来上がった」と手応えがある。
劇場公開を目前にしている現在、数多くのコメントが寄せられており、その中でも、宇賀那監督作品の助監督を担ったこともある平波亘監督による「ライミからフーパー、フリードキン、カーペンター、ライト、キタノからロブ・ゾンビ(まだいろいろある)、映画正史への愛を高らかに謳いながら、この八方塞がりの時代に中指を突き立てて、映画のデスロードを突き進む。ただの狂騒のでは終わらないラストに、宇賀那健一という作家の孤独な詩情が流れていた。それがとても心地よかった。」というコメントについて「僕の思っていることを色々汲み取ってくれている。僕のやりたいことを全部まとめてくれた」とお気に入りだ。
なお、今作は、宇賀那監督の劇場公開作品としては前作の『Love Will Tear Us Apart』に続いて、エクストリームが配給している。宇賀那監督作品は、今までは自社配給作品が多かったが「自社配給だけでは手が足りない中で、エクストリームさんは劇場とのつながりがあるので有難い」と感謝しており「ホラーは、エクストリームさんの得意なジャンルである。こういう劇場の客層に見てもらえると良い、といったノウハウにも詳しい」と、作品に対する助けになっているようだ。
近年は、特に多くの作品を手掛けている宇賀那監督。『みーんな、宇宙人。』の公開を年内に控え、それ以外にも既に長編作品を1本撮り終え、来年には公開予定だ。短編作品に関しても1本撮り終わっているが、長編化の予定はない。さらに今後も制作予定があるが「短編の連作は、1区切りかな。やはりコロナ禍の影響を受けて生み出された方法でもある。長編作品の撮影中にコロナ罹患者が出てしまったら撮影が止まることはリスキーであったことから生み出された作品でもある。勿論、お話を頂ければ、短編作品も撮ります。ただしばらくは、長編で撮っていく予定です」と話す。また、昨年に限定上映された『やぶからぼうに笑え』については「1年に1回の限定上映作品として、大きく劇場公開するわけではないけど、長く上映を続けていきたい」と計画している。
映画『悪魔がはらわたでいけにえで私』は、2月23日(金)より全国の劇場で公開。関西では、2月23日(金)より大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や心斎橋のシネマート心斎橋、京都・烏丸御池のアップリンク京都や桂川のイオンシネマ京都桂川、3月16日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
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- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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