同性愛者が差別によって引き裂かれていく『蟻の王』がいよいよ劇場公開!
©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
ファシスト政権下のイタリアを舞台に、実在の詩人アルド・ブライバンティと教え子の恋を描き出す『蟻の王』が11月10日(金)より全国の劇場で公開される。
映画『蟻の王』は、同性愛の許されない時代に恋に落ちた詩人と青年をめぐる「ブライバンティ事件」の実話をもとに描いたヒューマンドラマ。1960年代のイタリア。ポー川南部の街ピアチェンツァに住む詩人・劇作家で蟻の生態研究者でもあるアルド・ブライバンティは、教え子の青年エットレと恋に落ち、ローマで一緒に暮らしはじめる。しかし2人はエットレの家族によって引き離され、アルドは教唆罪で逮捕、エットレは同性愛の「治療」と称した電気ショックを受けるため矯正施設へ送られてしまう。世間の好奇の目にさらされる中で裁判が始まり、新聞記者エンニオは熱心に取材を重ね、不寛容な社会に一石を投じようとするが…
本作では、『ナポリの隣人』『家の鍵』等で知られるイタリアの名匠ジャンニ・アメリオが手掛け、『輝ける青春』のルイジ・ロ・カーショがアルド役で主演を務め、エットレ役には本作が映画デビューとなる新星レオナルド・マルテーゼが抜てきされた。2022年の第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品である。
©Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
映画『蟻の王』は、11月10日(金)より全国の劇場で公開。関西では、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や京都・烏丸の京都シネマや神戸・三宮のシネ・リーブル神戸で公開。
指導者アルトゥーロ・ミケリーニの影響が強かった1960年代、ファシスト政権下のイタリアは、同性愛の許されない時代だった。性的指向について司法が罰するとは、どれだけばかげたことであるか、現代ならどれだけ愚かなことであろうか。だが、当時は、教唆罪として一方が罰せられてしまう。冷静になってしまえば、本当の”罪人”はどこにいるのだろうか。勝手に恐怖を抱き、罪にして封じてしまえばよい、と考えている人が存在しているからこそ、このような事件が起こったのではないか。アルド・ブライバンティが教え子であるエットレと出会い、親交を深め、自然な流れでお互いが愛情を抱いていったことを本作は伝えていく。イノセントな感情があるだけなのに、2人を引き離し、1人は拘置所に、1人は精神病院で電気ショックによる治療を受けることに。裁判では、ただただ呆れるしかない証人の発言を聞かされ、ボロボロになってしまったエットレの揺るぎない思いを受けとめるしかできないブライバンティの姿が映し出される。こういった結果しか残らないのか、と憤りしかなかったが、2人の思いだけはブレなかった。多様性を慮るようになった今こそ観るべき作品である。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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