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世界を楽しみながら変えていきましょう…『燃えあがる女性記者たち』リントゥ・トーマス 監督とスシュミト・ゴーシュ 監督を迎えトークイベント開催!

2023年9月12日

被差別カーストの女性たちが新聞社を立ち上げ、偏見などに左右されることなくニュースを伝える様を映し出す『燃えあがる女性記者たち』が関西の劇場でも9月30日(土)より公開。9月12日(火)には大阪・十三の第七藝術劇場で大阪特別先行上映が行われ、リントゥ・トーマス 監督とスシュミト・ゴーシュ 監督を迎えトークイベントが開催された。

 

映画『燃えあがる女性記者たち』は、インドで被差別カーストの女性たちが立ちあげた新聞社「カバル・ラハリヤ」を追ったドキュメンタリー。インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、カースト外の「不可触民」として差別を受けるダリトの女性たちによって設立された新聞社カバル・ラハリヤ(「ニュースの波」の意)は、紙媒体からSNSやYouTubeでの発信を中心とするデジタルメディアとして新たな挑戦を開始する。ペンをスマートフォンに持ちかえた女性記者たちは、貧困や階層、ジェンダーという多重の差別や偏見にさらされ、夫や家族からの抵抗に遭いながらも、粘り強く取材して独自のニュースを伝え続ける。彼女たちが起こした波は、やがて大きなうねりとなって広がっていく。2022年の第94回アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたほか、2021年サンダンス映画祭ワールドシネマドキュメンタリー部門で審査員特別賞&観客賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門で市民賞を受賞するなど高く評価された。

 

今回、上映後にリントゥ・トーマス 監督とスシュミト・ゴーシュ 監督が登壇。お客様からの質問に応じ、カバル・ラハリヤやインド社会を知る良き時間となった。

 

まずは、第七藝術劇場の支配人よりカバル・ラハリヤとの出会いについて聞かれ、2009年から女性に焦点を当てて映画を作ってきたスシュミト監督は「農村で働く女性、保険の分野、あるいは気候変動の影響を受けている女性等の映画を撮っています。 facebookでカバル・ラハリヤについてのストーリーを見た時に関心を持ちました」と思い返す。アポイントメントをとり、取材に伺うと、本作冒頭で映し出すデジタルへの移行を掲げた時であり、以降は4年もかけて共に本作を製作していった。

 

今回は、東京からオンラインで参加しているメディアの方々からの質問も受けており、リントゥ監督は、取材のプロセスについても語っていく。カバル・ラハリヤに対しては外部の人間であることを意識し、最小限の人数でコンパクトな機材を用いて撮影しており「彼女達から許可を頂いたものしか撮っていない。そして、撮りたいものを伝えてもいない。だからこそ、本作が出来上がっている」と示す。警察や政治家、選挙活動の前でカメラを向けた時も「私達は、彼女達の画を撮っているんです」と意図を明らかにしていく。本作は、4年かけて撮影しており、毎年10~15日間かけて撮ることを3,4回行っており、周囲にいる方にも覚えてもらい、リスクが高く緊張を強いられる状況下でも私達を守ってくれたようなこともあった。

 

本作が上映されたことによるインドでのマスコミの変化について聞かれ、スシュミト監督は「非常に好意的に受け止められました。特に、保守系メディアが、独立系メディアの重要性を伝えていました。このポジティブな反応は有機的に上映につながっていきました」と振り返り「インドではドキュメンタリーは、ミニシアターや文化施設、NGOや大学で上映されますが、様々な場所で上映されるようになりました」と喜んでいる。

 

 

さらに、カバル・ラハリヤのスタッフ数に注目し、財政基盤についても聞かれ、スシュミト監督は「設立当時、慈善団体からの寄付、あるいは補助金、 クラウドファンディングに、資金源を頼っていたんです。最小限の資源で最大限のインパクトを与えようとしていた」と明かす。だが、デジタルメディアへの移行が戦略的で賢い選択となった。新聞紙というメディアでは、印刷コストがかかると共に、読者は男性だけだったことが分かると共に「デジタルに移行後、男女同様に受信されているということが分かった。文字だけではなくてデータも 出せることに気がついた彼女達は、その内容に合わせて、できるだけ広いいろんな人たちに届くような内容に変えている」と分析。現在では、女性の健康についてのポッドキャストを開始し、女性の生理に関するレポートを伝え、リスナーも増加している。また、googleニュース等への掲載に関する手数料の収益を中心にした財政基盤への移行も計画中だ。

 

監督達の今後の取り組みについても聞かれ、リントゥ監督は「私達が作ってきた映画は、人生の中で注目していたことを取り上げ、社会をどのように見るか、と取り組んできた。特に、権力がどうなっているのか、と。その力の構造から離れてしまっている周辺にいる人達は代替手段を模索していたり、違う視点を持っている人達について取り上げてきた。そこから希望が見える」とこれまでの活動を振り返る。自身について、非常に懐疑的な人間と表現しながら「国内の状況を見ると、フェイクニュースが出回っており、希望を失うような事態が続いています。民主主義が弱まっているような事態だとも云えます。彼女たちの活動が希望を与え、希望を持たせてくれている。また、 国内にも反カースト運動をしている人もいます。インディペンデントなジャーナリストとして、フェイクニュースに対抗するべく活動している人達もいます。希望を持てるのではないか」と国内情勢を伝えていく。そして、次回作について、本作とは別の手法を以て男性社会について描こうとしていることを明かした。

 

そして、劇場内のお客様からの質問にも答えていく。原題である「Writing with Fire」について聞かれ、リントゥ監督は「このタイトルについては、私達の意見が全く合わなくて、なかなか決まらなかった」と告白。「製作していく中で、”火”が意味を持つようになった。火は情熱であり、エネルギーでもあります。五源素の一つとして重要であり、創造すると共に破壊するものでもある」と説き「映画自体が権力について考察する内容ですが、女性が何世代にも渡って権力から遠ざけられていたが、声を取り戻すことで自分たちの力を取り戻し、違う世界を作ることを描いていったことから、このタイトルにした」と説明した。

 

 

インドでのお客様からの反応について聞かれ、スシュミト監督は「観客にも非常に受け入れられた。インドでは、ダリトが被害者として表現されてきました。この映画はそれをひっくり返しています。女性が非常に知性的で活動的であると示した。ジャーナリズムが危機に曝されている時のニュースルームの話としてこの映画を撮り、ダイレクトに女性の力強さを表現できた。今までとは違ったダリトの女性をインドの観客は見たことが良かったのではないか」と受けとめている。本作が上映されることについて「カースト制について、或いは、民主主義社会における報道の自由や価値について対話が起こるきっかけになっていることが非常に嬉しい。世界中で対話し、より良い将来を作っていく」と期待していた。

 

また、本作によってインドが変化したことについて詳しく聞かれ、リントゥ監督は「デジタル化によってニュースは大きく変わりました。例えば、警察に伺った際の映像がSNSで拡散されることで、公的サービスに対する責任が問われることがある」と挙げ「変化が起これば、報道していく。『彼女達が取材すれば変わるかもしれない』と期待し、信頼を増やしていくということに繋がっていく」と示した。また、記者達の年齢を聞かれ、スシュミト監督は「二十歳前後から50代後半や60代前半まで、40歳ぐらいの年齢差をカバーしている」と答え「実は、ある都会から来たジャーナリストが国連の補助金を得て女性の識字プロジェクトとして始めたのが最初なんです。2002年に州の各地から女性を集め、ニュースレターを自分たちで編集してデザインして作ったことがカバル・ラハリヤに繋がっていきます」とルーツまで語ってもらった。

 

最後に、リントゥ監督は「この世界を変えるということは、非常に責任のある大きな仕事です。でも、楽しくやるということが重要です。 私達の作品は、非常に重たい仕事をウィットと軽さを以てやっている女性たちについての映画でしたので、世界を楽しみながら変えていきましょう」とメッセージを送り、トークイベントは締め括られた。

 

 

映画『燃えあがる女性記者たち』は、関西では、9月30日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場、10月6日(金)より京都・烏丸の京都シネマ、10月13日(金)より大阪・心斎橋のイオンシネマシアタス心斎橋、10月14日(土)より神戸・元町の元町映画館で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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