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国葬の日を撮ることで、グラデーションがある日本人のメンタリティーを表現したい…『国葬の日』大島新監督に聞く!

2023年9月13日

安倍晋三元首相の国葬が行われた日の日本各地を収めたドキュメンタリー『国葬の日』が関西の劇場でも9月23日(土)より公開される。今回、大島新監督にインタビューを行った。

 

映画『国葬の日』は、『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』等の大島新監督が、安倍晋三元首相の国葬当日の人々の姿を記録したドキュメンタリー。世論調査では国葬に反対する声が増えていく中、2022年9月27日に東京・日本武道館で執り行われた安倍晋三元首相の国葬。その当日に東京・下関・京都・福島・沖縄・札幌・奈良・広島・静岡・長崎の10都市で取材を敢行し、国葬や安倍元首相という人物について、人々のリアルな思いを映し出す。

 

国葬を撮ることについてずっと考えていた大島監督。だが「独自性を生み出せないと、うまくいかないな」と熟考。そこで「”の日”なんですね。この2文字が重要だ」と気づき「国葬そのものじゃなく、国葬の日を撮ることで、日本人のメンタリティーを描けないかな。東京だけじゃなく、全国に出ることによって、描けるんじゃないかな」と着想。「やってみなければわからない」と不安はあったが「可能性はあるかもしれない」と思い、本作の制作を決意した。

 

10ヶ所で撮る、と定め最初に5ヶ所がすぐに決定。東京、下関、奈良の銃撃現場、沖縄、福島を挙げ「沖縄と福島は、安倍さんに限らず、時の政権に翻弄されてきた。これは行った方が良いだろう」と判断。「この映画を外国でも観てもらいたい」と構想しており「海外に知られた都市として、広島、長崎、京都。地図を見たところで、沖縄と長崎が決まっている状態で、北が、福島だったので、バランスが悪いなと思い、北海道の札幌に決めました」と明かす。最後の1つとして清水を挙げており「四国や北陸もなく、どうしようかな、と思っていた。当時、直近に清水で豪雨災害が起こっていた。災害は忘れられてしまう。近くない地域の被害は忘れられてしまう。その地域は今きっと国葬どころじゃない。『どうなってんだよ』という思いがある。そこで最後に決めました」と振り返る。

 

とはいえ、10ヶ所で撮るため、大島監督は知り合いのフリーディレクターやカメラマンにお願いしていく。声をかけてもスケジュールの都合が合わない人や、はっきりと言わないが賛同していないと感じ取れる人も実際にいた。自社には自身含め3人がおり「あと7班分を探さなきゃいけない。知り合いは沢山いる。結果的に、ドキュメンタリーの経験が豊富なスタッフが集まってくれたので、信頼して任せるしかないな」と決断。1日だけの撮影は運不運もあるので「絶対良いものを撮ってきてくれ、とは言わない。今できることをして、無事に帰ってきてくれればいいから」と無理のない依頼を行った。

 

そして、9月27日、国葬の日を迎え「13時に日比谷でデモがある。14時から渋谷で『REVOLUTION+1』の足立正生監督のイベントがある。この2つは絶対に撮ろう」と予定。午前中は日常パートを撮る予定で、新宿駅西口の喫煙所で必ず撮ると決めており「僕が時々行っているんですよ。人が凄くいるんです」と話す。また「朝10時までにパチンコ屋に並ぶ人々を必ず撮ろう」と決めていた。「10時に開店するパチンコ屋さんはどこでも見る。僕はパチンコをやらないが、すごく気になる。いつも並んでいるな、みたいな。なので、国葬の日もそうだろうと。どこの街にするかは決めてなかったけど、必ず10時のパチンコ屋さんは撮ろう」と定め「その方々を撮ってみると、別に国葬だろうがなんだろうが、パチンコ屋にいるんだろうな。だから撮りたかった。渋谷から浅草に至る途中で、上野で降りて、パチンコ店の開店を撮ろう」と行動していく。その後に訪れた浅草について「東京では、一番知られた観光地。浅草には、多くの観光客が訪れるという日常があるので、それを撮りたいな」と巡っていった。

 

なお、マスコミが撮るようなエリアは撮っていない。「見慣れた景色になってしまうので、頑張って狙わなくてもいいかな。ある程度は撮っているんですけど、別にいいかな」とバッサリ。また、奈良に関しては、統一教会の現場には訪れておらず「統一協会に関しては、撮りだすときりがない。中途半端な状態で始めても1日だけで撮れるものじゃない。この企画に相応しくない。インタビューしている人の中から自然に言葉として出てくる分には全然構わない。だけれど、統一協会自体にカメラを向けることは考えなかったですね。時間があれば違ったのかもしれない」と思い「銃撃現場を中心に、献花や現場周辺の様子を撮ってきてほしい」と伝えている。沖縄に関しては、辺野古の座り込みにカメラを向けることは決めていた。福島は向かう場所を決めており、嘗て取材したことがあり大島監督自身も面識がある方だ。ドキュメンタリーは様々な撮影手法があるが、各地に向かう担当者には、基本的にオーダーの内容を細かく決めておらず「様々な声を拾ってほしい。スケッチであり日常の記録であることを意識してほしい。引いた視点で撮りましょう」と依頼していた。

 

各地から集まった撮影素材には、大島監督が「おもしろいな」と気に入った映像が多くあり「時間と場所をどう組み合わせていくか。時間を巻き戻すことはしないようにする。構成し編集していくことが楽しかったな」と思い返しながら「編集はスムーズに進められた。悩むことはなかった」と満足している。だが、本作には「完成版を観てたいへん困惑しています。」というキャッチコピーが付けられていた。本当に監督自身の本音であり「全ての撮影素材を見た時も、完成版の前段階でも同じように困惑したんです」と告白。「日本人のグラデーションみたいなものを撮りたい」と企画し「国葬に対しての賛成や反対の言葉。安倍さんをどのように思っているか。確固たる思いを持っている人は、どちらも、実は少数。その間で数字が6:4で分かれていたとしても、中間層は、どちらにでも転ぶような方々かな」と想定していた。実際に素材を見ていると「本当にその通りでした。日本人には或る種の個の弱さがあり、周りの空気を読んでいる。そもそも関心がない方もいました。そうした現実が非常によく見えてしまったことが、結構大きかったですよね」と実感しながらも「これで日本大丈夫かな。いや、大丈夫じゃないな、とずっと思っている…やっぱり、改めて、大丈夫かな…」と困惑している。また、自身も含め「リベラル派と呼ばれる人達の言葉が届いてないな」と目の当たりして「自分達は論理的な正論を言っている、と思っていたとしても、それが届いていない」と困惑した。つまり「社会はなかなか変わっていかないんじゃないか。日本社会は保守性というより同調圧力による影響が大きい。周りの顔色を伺い空気を読む社会は、なかなか変わっていかないのかな」と思わざるを得ない。だが、撮影素材の内容や日本社会に対する困惑があるとしても「映画としては、或る種のおもしろい作品ができそうだな」と期待できた。監督の視点においても「驚愕するような発言をする方がおり『日本、大丈夫か』と心配するが、おもしろい映画になりそうだ。当初想定していた日本人のグラデーションを表現できそうだな」と期待できる作品として仕上げられた。

 

関係者向けの試写を行っており「困っている」という素直な感想を聞きながらも「自分があの時何を思っていたんだろう、と考えながら観ていた」という反応があることを喜んでいる。「忘れちゃうじゃないですか、みんな。私も含めて、こういう作品があることがきっかけで、何かを思い出してもらえる。改めて『国葬ってなんだったんだろう』と振り返ることがあるといいな」と願っており「国葬の日から1年後の公開だけど、5年後、10年後にまた違う価値が出てくるんじゃないか」という声を聞き「本作を制作した甲斐があった」と満足していた。

 

これから映画を観るお客さんに向けて「国葬に反対していた人も、賛成していた人も、安倍さんを指示していた人も、指示していなかった人も、どなたが見ても、モヤモヤする作品だと思います。スッキリしない作品だと思いです。だからこそ、何かしらの意味はあるんじゃないかな。自分とは違う考え方の人がいることを知る意味もある、と感じています」と述べ「本当に今回の作品は観た人の感想によって完成する、と思っています。ぜひご覧になって、感想をSNS等でつぶやいていただけたら嬉しいです」とメッセージを頂いている。

 

映画『国葬の日』は、関西では、9月23日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場と神戸・元町の元町映画館、9月29日(金)より京都・烏丸の京都シネマで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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