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個人の感情は丸く収まっていないので、拾い上げていきたい…『Love Will Tear Us Apart』宇賀那健一監督を迎え舞台挨拶開催!

2023年8月20日

とある出来事以降、関わった人々が次々と殺されていく主人公と、犯人の目的に隠された真実を描く『Love Will Tear Us Apart』が全国の劇場で公開中。8月20日(日)には、京都・九条の京都みなみ会館に宇賀那健一監督を迎え舞台挨拶が開催された。

 

映画『Love Will Tear Us Apart』は、『転がるビー玉』『異物 -完全版-』『渇いた鉢』など様々なジャンルの映画を発表し続ける宇賀那健一監督が、『サヨナラまでの30分』『藍に響け』などで注目された久保田紗友さんを主演に迎えて描いた、サスペンスホラー&ラブロマンス作品。真下わかばは小学生のころ、いじめられていたクラスメイトの小林幸喜を助ける。しかし、それ以降、彼女と関わりをもった人たちが次々と殺されていくようになる。犯人も目的もわからないまま時は過ぎるが、やがて犯人が判明したとき、わかばは本当の愛を知ることとなる。主人公のわかば役を務める久保田さんに加え、友人役で『はだかのゆめ』などの青木柚さん、『女子高生に殺されたい』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』の莉子さんが出演。そのほか、吹越満さん、麿赤兒さん、前田敦子さん、高橋ひとみさんら実力派の俳優達も多数出演した。

 

上映後に宇賀那健一監督が登壇。来月で閉館する京都みなみ会館への思いを携えて舞台挨拶が繰り広げられた。

 

2021年初頭に本作を企画し始めた宇賀那監督。本作のプロデューサーである當間咲耶香さんから依頼を受け、自身の中にある思いを実現すべく動き出した。まず、近年の作品では不条理をテーマにする傾向があり「頑張ったら報われる、という感覚がある中で、『異物-完全版-』という”不条理を愛でろ”をテーマにしている」と説く。『異物-完全版-』は外国で数多くの映画祭で評価されていったが「日本では、ジャンルが固定され短絡的にされている。人生は様々な要素が入り混じっているのになぁ」と感じていた。当時、カンヌ国際映画祭では『TITANE チタン』や『パラサイト 半地下の家族』がパルムドールを受賞し評価されている状況を鑑み「そもそもジャンルというものはない。一方で、映画が誕生して100年以上が経ち、皆さんが映画としてのリテラシーを高く持っている状態にいる。さらにジャンルを超えていくのか。或いは、ジャンルが固定されているから遊べるのか。一つの節目が来ているんじゃないか」と映画祭を訪れながら実感していく。そんな状況下でコロナ禍となり「社会と個人が分離しているな」と個人的に思い「真下わかば、という主人公が不憫な状況として、周りで殺人事件が起こっていく。実はその裏に様々な思惑がある。世の中は不条理な出来事が表裏一体で起こっている、と常々考えていかないといけない」と着想を得て、本作の企画が動き出した。また、映画『天気の子』を気に入っており「セカイ系と言われてしまうけれども、隣人を愛せない人は社会を愛することが出来ない、という私の考えにおいて、大作でありながら一つの覚悟を持った映画」と説明し「SNSが発展して、言葉狩りが起こっている。個人の感情は丸く収まっていないところがある。そういったところを拾い上げていきたいな」と話す。同時に、映画『悪魔のいけにえ』を挙げ「殺人鬼の映画、スラッシャームービーではあるんですが、レザーフェイスがうろたえる姿は、人間っぽい。物事は切り取り方によって変わってくるんじゃないか」と指摘する。なお、コロナ禍によって、画を時間をかけて撮れなかったり、ロケーションが狭まったりしたことがあり「制約があった中で、感染症対策をしっかりしながら、様々なシーンで画として映し残していきたい。普通に撮ってもおもしろくないので、殺人鬼を追いかけられ続けるか、追いかけ続けるか、しながら様々な場所を回り、様々な画を切り取ることが出来る作品が撮れたら」と考え、実現したいことの中身と外身が合致する作品として纏まっていった。

 

キャスティングにあたり、若手俳優らを揃えたメインキャストは基本的にオーディションで選んだ。今作について「ロマンス映画だと思っているし、サスペンスでもあると思っている。さらに言えば、コメディだとも思っている。様々な要素を詰め込んでいます」と紹介し、チャップリンの名言より「人生はクローズアップで見ると悲劇だけど、ロングショットで見たら喜劇だ」をピックアップしながら「映画としての”遊び”が出来れたらいいな。様々な角度から多面的にモノを見ていくが出来る」と本作に込められているものを話していく。同時に、愛の物語として構成しているが「僕の作品は、ホラーコメディ的な作り方をしている。ツッコミを入れず皆が真剣に演じるけど、真剣過ぎるからおもしろい。どれだけ真面目に出来るか、が重要。コメディ要素があるから、笑わせようとしたら却ってつまらなくなる」と独自の理論を語った。

 

 

主人公の真下わかば役に関するオーディションは、クライマックスシーンやコメディシーンをやってもらったりとふり幅が大きく「凄く真面目に応じてもらった。久保田さんからは『気持ちを入れ替える時間を下さい』と言われ、一つ一つにしっかりと向き合って下さった」と喜んだ。青木さんが演じた役について「受けて下さった方は皆上手くて素敵な役者さんばかりだった。とはいえ、この役にドンピシャな人は誰なんだろう、と悶々としていた。最後に来たのが彼だった。無茶苦茶良くて満場一致で彼しかいなかった。出演シーンは多いが、顔が出ているシーンが少ないけど楽しんで演じてくれた」とホッとしている。なお、久保田さんと青木さんとは話し合いながら、衣装等も含めて提案頂いており「皆で作った作品だな」と思い入れもある。莉子さんについては「彼女はコメディエンヌとして素晴らしい。とにかく異常に怯えていた。真面目に怯えるほど周りはおもしろい。笑わせようとしないで真面目にやっている。環奈役が莉子だからこそ、この作品にハマった。同時に、この作品がコメディであることを示唆し出すのは環奈のポジションがあったからだな」と受けとめていた。ゆうたろうさんについて「良い意味で胡散臭い役をどうアプローチするか。最初は難しかっただろう。その中で様々なことを常々試してくれた。今までこういう役を演じたことがないから迷っていただろうが、やったことないから、面白がってくれた」と監督自身も楽しめた。田中俊介さんは『異物-完全版-』にも出演してもらっており「とにかく多くの作品を見ているので、映画という共通言語が沢山あった。安心できる人で、引き出しが沢山ある。もう一度出演してほしい」とオファーしている。前田敦子さんについては「沢山のシーンに出演していないが、映画の中で”悪意のない悪意”を体現して下さった。お忙しく、撮影は半日ぐらいしか確保できなかった。責められないけど、お前のせいで起こっている、という良い按排で演じて下さった」と感謝している。吹越満について「最高だったな。この役を楽しんで下さる人として吹越さんが思い浮かんだ。吹越さんは無茶苦茶遊んで下さった。段取りもテストも本番も違うことをして、滅茶苦茶に映画で遊んで下さった」と印象的だった。麿赤兒さんには初めて出演してもらったが「ご高齢の方でもあるので、どれだけ無理を言っていいものだろうか」と困惑。おそるおそる無茶ぶりしてみたら、喜んで応じてもらい「無茶苦茶おもしろかったんですが、”それはやり過ぎです”と依頼しておきながら止めた」と苦笑いする状況だった。高橋ひとみさんは、クランクインの日に撮影したが「こういう作品に出ているイメージがなかった。よくよく考えてみると、寺山修司作品に出ている方なので、爽快に応じて頂き、初日から励まされた」と印象に残っている。

 

撮影は2年前に行われ、仕上げには十分な時間をかけていった。完成した作品はブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でワールドプレミアを行い、その後、ポートランドホラー映画祭ではグランプリを獲得している。現地の様子について、吹越さんのとあるシーンで大爆笑と拍手喝采が起こったことを聞き、印象に残っていた。日本でも劇場公開が始まり「小さい映画ですので、これからどう拡がっていくか。皆さんにかかっています。好き嫌いが絶対に分かれる映画だと思います。そういう映画をあえて作りました。どういった感想でも周りの方々に伝えたりSNSに書いて頂けたら非常に励みになります」と思いを伝え、舞台挨拶は締め括られた。

 

映画『Love Will Tear Us Apart』は、全国の劇場で公開中。関西では、京都・九条の京都みなみ会館で公開中。また、9月16日(土)より神戸・元町の元町映画館、9月23日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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