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東日本大震災を背景に、家族ドラマを軸にした釜石が舞台のコミカルな人情劇を作ろう…『釜石ラーメン物語』今関あきよし監督に聞く!

2023年8月18日

©『釜石ラーメン物語』製作委員会

 

東日本大震災で行方不明になった妻のラーメン屋を守る夫と、娘達が最高の一杯を目指す『釜石ラーメン物語』が8月19日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。今回、今関あきよし監督にインタビューを行った。

 

映画『釜石ラーメン物語』は、「仮面ライダーゼロワン」刃唯阿 / 仮面ライダーバルキリー役を皮切りにドラマやバラエティ番組でも活躍するモデル・俳優の井桁弘恵さんを主演に迎え、岩手県釜石市を舞台に、家族の再生と人々の人情を描いたドラマ。山と海に囲まれた岩手県釜石市のラーメン店「小川食堂」。東日本大震災で店を切り盛りしていた正恵が行方不明になってから、残された夫の剛志と次女の仲良が店を守ってきたが、客足はいまいちだった。そんなある日、3年前に家を飛び出したきり音信不通だった長女の正美が突然帰ってくる。厨房に立つ仲良に「お前にお母ちゃんの味は出せない」とダメ出しし、店を畳もうとまで言い出す正美。姉妹はぶつかりながらも、かつての母の味に迫ろうと、街の人々を巻き込み奮闘する。正美役を井桁さん、妹の仲良を『17歳は止まらない』『20歳のソウル』の池田朱那さんが演じ、2人の父親である剛志役の利重剛さんをはじめ、藤田弓子さん、村上弘明さん、佐伯日菜子さん、大島葉子さんらベテラン勢が脇を固める。『ライカ』『恋恋豆花』の今関あきよし監督がメガホンをとった。

 

2014年、東日本大震災からまだ3年しか経っていない頃に「釜石市で元気になれる作品を撮れないか」と現地の方からお声がけ頂いた今関監督。当時、復興を目的にした花巻から釜石までを走る「SL銀河」と呼ばれるSL列車に乗って街を見てみたが、作品作りに結び付くものがなかった。終点である釜石市は沿岸部の街であり、東日本大震災では津波の被害が大きかった街。その惨状を見ていく中で、お会いする方が明るく感じる機会が多く「この街で映画を撮れないか」と自身の中でスイッチが入った。以来、8年間ずっと釜石市に通い続け、ラーメンに辿り着く。「今回は、完全に釜石市に寄り添って作ろう」と意気込み「『男はつらいよ』シリーズも好きなので、ラーメン屋を舞台にした人情物語が出来るんじゃないか」と着想。釜石市に通う中で「狭い街の中にラーメン屋さんが33軒以上ある」と分かり「喫茶店や飲食店、お蕎麦屋でも出している。そのぐらいソウルフード。実は、全国区では知られていない。メニューで”釜石ラーメン”と書かれ始めたのは、3.11以降かもしれない」と気づかされた。なお、今関さんが幼稚園に通っていた頃、お隣に『男はつらいよ』シリーズのプロデューサーであり企画者だった高島幸夫さんが住んでいたことを明かし「当時、渥美清さんに何度もお会いしています。私の親父とも仲良くなりました。僕と同じ歳の息子さんもいて、よく遊んでいた」と思い返す。脚本を執筆するにあたり、漠然と『男はつらいよ』のイメージが頭の中にあり「被災地だからといって、悲惨で悲しい物語は嫌だな。『男はつらいよ』のような喜劇調、コメディーにしよう」と構想。だが「寅さんみたいなキャラクターの造形は難しい。近くに居たら鬱陶しく嫌だと思う」と冷静に考え「親近感がある寅さんを作ろうと思い、主人公は女性にしてみた。背景に東日本大震災があり、家族のドラマをストーリーの軸にして、釜石を舞台にしたコミカルかつ人情劇を映画化したい」と物語を作っていった。

 

キャスティングにあたり「実は、井桁弘恵さんは『恋恋豆花』の最終オーディションに残っていた。いつかキャスティングしたい」と心残りだったことを打ち明ける。様々なキャスティングがある中で「主人公には元気で男勝りな女優さんが合うかもしれない。だが、むしろそういう感じに見えない子の方がおもしろいんじゃないか。最初から男勝りなキャラクターではない」と捉え「最初は井桁さんに違和感があるかもしれないけど、やらせてみたらおもしろいんじゃないか」と発想を転換。井桁さんへの思いもあり「これまでの出演作品とは違うので、最初は大変でした。彼女も迷っていました」と打ち明けながらも、彼女にオファーした。父親役を演じた利重剛さんとは、高校生時代からの友達で「彼がまだ成蹊高校に通っていた頃、手塚眞さんや小中和哉さんらと仲間だった。手塚さんと成蹊高校の文化祭で出会い映画を見にいった。その時の映画に出ていたのが、利重さんや小中さん。『恋恋豆花』に出演してもらったが、今回はガッツリ組んでもらった」と信頼を寄せている。妹役については、オープン形式のオーディションをして、様々な方にお会いしたがなかなかハマらず、行き詰っていた中で、井桁さんが所属する事務所に連絡し、今後注目の演技が出来る方として池田朱那さんを紹介してもらい、改めてオーディションを行った上で決定した。母親役を演じた佐伯日菜子さんは、以前から気になっていた女優さんで、初めて自作に出演してもらっており「お母さんは、一番印象に残る重要な役。彼女は、ファンタジーやホラーへの出演が多いですが、可愛らしい綺麗なお母さん役や謎のある女性を演じてほしかった。ニュートラルでナチュラルな方ですね」と気に入っている。

 

コロナ禍の影響を受け、撮影時期は半年程度ずらすことに。「下手するとキャスティングも変わってしまう」とリスクがあったが、各事務所にも相談し、桜が咲く時期に向けて準備していった。例年、4~5月に咲いているが、昨年は、東京と同じ時期に咲いてしまい、焦らされてしまったが、どうにかクランクイン出来ることに。今関監督は、短期間で集中して早撮りできるタイプで「時間の余裕があり、観光したり、10数軒のラーメン屋を周ったりしていた」と振り返る。コロナ禍での撮影になったが、釜石市の方には歓迎してもらい、地元の方から沢山エキストラ出演してもらった。「主演の井桁さんが僕の書いたシナリオ以上に正美という役を理解していたのが一番大きく影響している」と受けとめており「様々な演技をしながら、表情や振る舞いが僕のイメージを上回っていた。映画にとって凄く良いこと」と感心している。キャラクター作りに関しても「中学・高校時代は正義感の強いやんちゃな子にしたかった。友達を虐めていたりカツアゲをしていたりしたら、食ってかかって返り討ちにする、というベースの上がある」と丁寧に仕上げていった。作中では、川越しに姉妹が口喧嘩をするシーンがあり「声が枯れる程に凄く大きな声を出さないと聞こえない。東京でもリハーサルを何度もしていた。とはいえ、リハーサル室は狭いので、もっともっと大声じゃないと届かないと思い、大声でやってもらった」とリハーサルは入念に行ったが「現場に着いたら2人は絶句していました。予想以上に川幅が広かった」と懸念も。だが、周囲からの雑音がなく、声が通ったことでシーンは成立し、映画は完成に向かっていった。

 

本作は、岩手県では最大7週間も上映され「被災地に近いエリアに限定しているので、地元の人にしか分からないネタが沢山入っている。地元の人はビビットに反応する」と伝わってきており「方言では、ラスト辺りで、お父さんが怒って『おだつな!ふたつけっぞ!』と声を挙げるが、現地の方はダイレクトに分かって爆笑する。自分達の映画として捉えられているんじゃないかな」と他にはない釜石をピンポイントで作った映画に手応えを感じている。現在は、新宿や横浜でも公開しており「釜石市に住んでいた、或いは、釜石市に関係がある方が非常に観にきています。まさか釜石を取り上げる映画があるとは思ってもみなかったようで。舞台挨拶が終わった後でお話を聞くと『釜石出身なんです。撮影地のラーメン屋の裏に住んでいました』とか。現在は聖地巡礼をしている方もおり、驚きます。公開後も街で歓迎されている作品は多くない。地方創生映画だけではない」と実感した。そして、9月17日にはロサンゼルスの映画祭での上映も決定し、英語字幕版も完成している。

 

次回作として、鹿児島を舞台にした『青すぎる、青』の公開を今秋に予定している。現在、地方からのオファーを多く受けており「今、地方発信映画は増えています。そもそも、スタートは大林宣彦監督であり、尾道を全国区にした監督です。尾道三部作が作られる前はあんまり知られていなかった。一部では、『東京物語』では有名だったけど、一般的ではなかった。元祖地方創生映画になった。僕も大林監督の門下生というか、継承している部分もあります」と述べ「鹿児島の次も、地方で撮る予定で今動いています。地方映画作りが今の僕のマイブームになるほど、多くなりました。以前は、世界を回っていましたが、今度は国内を色々回っている。日本も様々な文化があり、おもしろい。鹿児島も知られざることが沢山あり、それらを取り入れた青春ファンタジーです」と語った。

 

映画『釜石ラーメン物語』は、8月19日(土)より大阪・十三のシアターセブンで公開。初日には、今関あきよし監督と大島葉子さんとヤマサキタツヤ さん(本作のポスターイラストレーター)を迎え、舞台挨拶を開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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