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こんな作品を皆でおもしろがって作れるような土壌が今の日本映画界にもっとあったら良いのにな…『餓鬼が笑う』平波亘監督に聞く!

2023年2月3日

黄泉の国に迷いこんでしまった骨董屋を目指す主人公が、あの世とこの世を行き来する姿を描く『餓鬼が笑う』が2月3日(金)より関西の劇場でも公開。今回、平波亘監督にインタビューを行った。

 

映画『餓鬼が笑う』は、骨董屋になることを夢見る青年が地獄めぐりに迷い込む姿を描いた幻想奇譚。骨董屋になりたい大貫大は、四畳半のアパートに暮らしながら路上で古物を売って生活している。ある日、先輩商人の国男に誘われて山奥の競市場に参加した彼は、その帰り道に黄泉の国へと迷い込んでしまう。そこで大は、人間の膵臓を食らう異形の餓鬼や、黄泉と常世の関所を司る如意輪(にょいりん)の女らに遭遇。大はあの世とこの世を行き来しながら、自身の人生を生き直していく。主人公の大を『デッドエンドの思い出』の田中俊介さん、大の運命の女性である佳奈を『まともじゃないのは君も一緒』の山谷花純さんが演じ、世界的ダンサーの田中泯さんが特別出演。『the believers ビリーバーズ』の平波亘さんが監督・脚本、古美術商の大江戸康さんが企画・原案・共同脚本を手がけた。

 

古美術商である大江戸康さんが平波監督に声をかけたことがきっかけとなった本作。主人公である大貫大のように路上で物売りをしていた若かりし頃について書いた自伝的な脚本を読ませてもらい「監督してくれないか」と依頼された。そこには、主人公の青年が骨董屋を目指し、山奥にある競り市場に連れていってもらい、そこで挫折して上手くいかず、山からの帰り道で酷い目に遭遇した、という荒唐無稽で破天荒なストーリーが書かれており「どうやって、こんな話を考えたのだろう」と監督自身も驚愕。そのまま映画化することが出来ない内容であり「自分なりにかみ砕いていくことが必要だ」と察し、脚本を預けてもらうことに。予算度外視の内容でもあり「自分なり脚本を書き変えさせてください」とお願いし、監督の視点で要素を足したり膨らませたりしていった。なお、黄泉の国に関する要素は最初からあり「どうやって撮ればいいんだ」と現実的に考える思考が働き「これを、どう見せるか。現実的に撮れる内容として自分の中に落とし込んでいった。膨らまして結合した要素も大きい」と説く。黄泉の国を彷徨っているだけだと脚本として有機的にならず「川で遭遇するおじさんを父親に設定した。青年が辿っていく道のりで、主人公の少年時代に関する記憶について、彼の精神世界のように捉えてもいいのかな」と着想し、加えていった。

 

キャスティングにあたり、平波監督が助監督をした現場でBOYS AND MENに所属した頃の田中俊介さんと出会った際に「アイドル活動をしながら、映画俳優になりたい。アイドルについて誇りを持っているが、自分の殻を破りたい」という強い意志を感じ取ると共にナイーブな一面も垣間見て「とにかく彼は映画が好きで、映画の為ならなんでもやる。本当に素晴らしい男」だと受けとめ「主人公はこの世でもあの世でもひたすら様々な人にもみくちゃされる。田中俊介なら最後まで走り切れる」と確信。ヒロインの佳奈について「主人公が運命的に恋に落ちる設定もある。僕もある意味で主人公と同化して、このヒロインに惚れなきゃいけない」と意識し「ならば、初めて仕事をする方が良いかな」とオーディションで決めることに。山谷花純さんとは初対面だったが「山谷さんは瞳が印象的な方。強い意志を込められる方だ」と気づき「作品に対する解釈がおもしろかった。この人とだったら、解釈を巡って必要以上のディスカッションをしなくて済む。制約の多い現場の中で、言葉が少なくとも分かり合える」と直感できた。

 

本作に対し「挑戦的な題材でとても変な作品だ」と自身も思いながらも「こういう映画を皆でおもしろがって作れるような土壌が今の日本映画界にもっとあったら良いのにな」と望んでいる。周囲を固めるキャストについては、小規模な作品でありながらベテラン俳優が揃っており「自分に近過ぎない方達が、こういう物語をおもしろがって賛同してくれたら、おもしろいことになるんじゃないかな」と期待。「映画づくり自体を祭りにしたい」という気持ちがあり「祭りを欲している人達を巻き込んでいく。参加してくれる人達が田中泯さんや萩原聖人さんならおもしろいだろうな」とワクワクし、初対面だったが「勇気を出して脚本を送ったら、意外とおもしろがってくれた。メジャーな俳優さんでも、こういう企画をおもしろがってくれるんだ」と希望を持てた。特に疑問を持たず応じてもらい「物語の中で如何に遊ぶか、暴れるか。作品の解釈含めて信頼できる方達でした」と安堵している。

 

撮影にあたり、登場人物やロケ地が多く、物理的な撮影の大変さがあったが「百戦錬磨のスタッフ達がフォローしてくれた。俳優部も頼もしい方達ばかりだった」と信頼できる現場で、精神的な苦痛はなかった。とはいえ、スケジュールの都合によって、寒い真夜中での撮影は睡眠を確保するのが大変な日があったのも事実だ。黄泉の国に関する描写については、撮影時から色を付けており「CGはあるが、後処理をほとんどしていない。あの世とこの世の境界線にある世界のイメージとして捉えている。あの世に行き過ぎたら、さらに違う表現になっていたかもしれない」と考察。「物理的にどのように撮っているか。後処理しているのではないか」と思われがちである、と認識しており「カメラマンと話して試していく中で、カメラが備えている赤外線フィルターを外すと作中のような色合いになる。赤い血は透明になってしまう。色が反転するので最初は難しかったが、調節していった」と説明し、カメラテストを行った上で、自身が求める表現を作り上げていった。

 

制作していく中で「骨董屋を志す青年の成長譚、地獄めぐり幻想奇譚、というだけでも映画になる」と考えていたが「そこに或る種の現代的なテーマ、今の時代に描くべきことをどのようにすれば携えられるか」と苦悩していく。その際に「記憶というテーマと人生を生き直す展開を生み出した時、これなら今の時代に自分が作る意味がある映画になる」と気づき「フィクションとファンタジー要素が強い映画ですが、お客さんにどのようにして信じさせるか、難しい。この構成にしたことにより、お客さんに突きつけるものがある。何かしら持ち帰ってもらえる。かつ、不思議な爽快感を残せられる」と自信を持てた。

 

なお、本作の元々のタイトルは『弱い光』。「文学性を感じつつ、主人公の状態を表しているが、映画としてはキャッチーなものにしたい」と再考し「元々の脚本にも妖怪変化として餓鬼は登場していた。餓鬼があの世の象徴として描かれていたが、それだけでは納得いかない。結局、主人公が餓鬼と揶揄される骨董屋達の競り市場で参加して、その後に黄泉の国のような場所に迷い込んで餓鬼と遭遇する。その後に現実に戻ってから大が接する人間達がより恐ろしく見えた方が良いな」と構想。「人間の中で誰もが餓鬼の部分を持っている。どんな小さな欲望でも肥大化したら餓鬼になる。現実世界の人間の方が餓鬼なのではないか」と気づき、ZAZEN BOYSの「自問自答」という楽曲に「ガキが笑う」というフレーズから本作のタイトルを付けた。「笑う」という感情表現については「こんな酷い時代に生きている俺達だけど、楽しくて笑うことがあったら、辛すぎて笑ってしまうこともある。様々な辛いことを乗り越えて生まれる笑い等も含めている」と述べ「『餓鬼が笑う』というタイトルを付けることで人間のタフさや表現できるんじゃないか」と命名している。また「AMNESIAC LOVE」という英題もあり「巷の映画でも邦題と英題が違うのは多々ある。英題の意味をあえて邦題と変えることで物語の持つ多面性を提示したい。記憶を辿る人達のラブストーリーとしての側面を出したい」と考え、RADIOHEADの楽曲「AMNESIAC」に「LOVE」をつなげた。また、各キャプターのタイトルにも全て英題を付けている。

 

既に東京の劇場では公開されており「爽やかな気持ちになるなんて…」という方や「訳が分からない…」という方もおり、お客さん其々に受けとめ方が違う。競りのシーンをおもしろがる方がいたり、主人公に共感できない方もいたりして「映画は様々な見方があって良い。こういう映画に触れて頂くことで、映画の楽しみ方が広がれば最高だなぁ」と願っている。現在は「歳を重ねていく中で、自分の周りの大切な人に伝えたい作品も作っていきたいな」という気持ちが強いと同時に「全く違うジャンル、ホラーも含め、映画が好きなのでチャレンジしていきたい」と今後を楽しみにしていた。

 

映画『餓鬼が笑う』は、関西では、2月3日(金)より京都・九条の京都みなみ会館、2月4日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォや神戸・元町の元町映画館で公開。なお、元町映画館では2月17日(金)19:00~回上映後に企画・原案・共同脚本の大江戸康さんと平波亘監督、京都みなみ会館では2月18日(土)10:00~回上映後に平波亘監督、シネ・ヌーヴォでは2月18日(土)18:00~回上映後に萩原聖人さんと平波亘監督を迎え舞台挨拶開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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