eスポーツ出身のリアルレーサーは世界中に多数存在し、チャンピオンが誕生している…『ALIVEHOON アライブフーン』下山天監督に聞く!
eスポーツで日本一のレーサーがリアルドリフトの世界で頂点を目指す姿を描く『ALIVEHOON アライブフーン』が6月10日(金)より全国の劇場で公開される。今回、下山天監督にインタビューを行った。
映画『ALIVEHOON アライブフーン』は、『ちはやふる』シリーズの野村周平さんが主演を務め、日本発祥のドリフトレースの世界を、CGに頼らない実車を用いた撮影によるリアルな映像で描いたカーアクション。内向的な性格で人付き合いは苦手だが驚異的なゲームの才能を持つ大羽紘一は、解散の危機に陥ったドリフトチームにスカウトされる。eスポーツの世界で日本一のレーサーになった紘一は、実車でもその才能を発揮して活躍するが、そんな彼の前に、生死を懸けてレースに挑む者たちが立ちはだかる。共演は『ハニーレモンソーダ』の吉川愛さん、『jam』の青柳翔さん、『ブレイブ 群青戦記』の福山翔大さん。『SHINOBI』の下山天監督がメガホンをとり、「ドリフトキング」の異名を持つの土屋圭市さんが監修を手がけた。
日本発祥であるドリフト競技は、現在では世界的なモータースポーツの競技になっている。アメリカでは『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』、香港では『頭文字D』といった映画で表現された。「ドリフト・キング」の異名で知られた土屋圭市さんから「何故ドリフトの映画を日本で作って世界に発信できないんだ」「ゲーム『グランツーリスモ』シリーズは日本のゲームとして世界No.1。日本のコンテンツが世界中と結びついているのに、どうして日本発の映画が作られないんだ」とオファーを受けた下山監督は「eスポーツとドリフトを融合させた単なる自動車映画は要らない。自動車もゲームも進化している。ドッキングさせて作れないものか」と本作のストーリーを熟考した。
eスポーツで日本一のレーサーがリアルドリフトの世界で頂点を目指す、というストーリーは、ファンタジーのようにも感じられるが「実際は、現実の方が先に進んでいます。既にゲーマー出身のリアルレーサーは世界中にいっぱいいます。チャンピオンが生まれている。撮影中にも、スーパーGTでeスポーツ出身のレーサーが2名以上いました」と説く。現実のレーサーは、マシンのテストや走行練習に関しては、サーキット場で実施し燃料も使い、かなりのコストがかかるが「今やリアルレーサーがシミュレータとしてeスポーツを活用し、車のセッティングも細かく出来る。ピットに入ってもPCを使い、プログラムもコンピュータ上で実施する。リアルの方がeスポーツ」とパラダイムシフトが起こっている。本来のレーシングチームは、レーサーが存在し、メカニックマンがつき、各種部品が用意されているが、現在のゲーマーについては「自分でハンドルを握り車のセッティングも全て自身で行っている。凄まじく細かい角度や路面の温度やタイヤの硬度まで設定できる」と格段に発展しており「eスポーツからレーサーになった人間は、レーサーをやっていながらメカニックの技術も備えて走っている。これがリアルの人達と大きく違う。自分でコントロールしているだけでない」と説明。レーサーは自身のコックピットの中に独自の世界を構築しているが、ゲーマーは「自分がサーキットのどの角度でいる等、客観的な視点がある。頭の使い方が今までのレーサーと全く異なる走り方をしている」と違いを表す。なお、リアルなレースは事故と隣り合わせだが、eスポーツの世界では、ある程度までは恐怖感がなく「ゲームの中で事故を起こしてもリセットできる。本当なら何回も死んでいるが、ゲーム上で経験して、ある領域まで極めている」と意識を高めており「実際に事故に遭遇すると、体だけでなく心も傷つき、恐怖との戦いになる。ゲーマーは現実を飛ばしてさらに先に行きついている」と危険に対する概念さえ変化していた。
主人公の大羽紘一は、人とのコミュニケーションが得意ではないキャラクターとして描かれている。下山監督は、ゲーマーの方々に取材しており「客観的に見ると、ずっとコントローラと画面で集中して自分がいる座標が動かないから、悲観してしまうが、実際は違う。ゲーマーの皆さんはゲームの中で自己を確立している。ハンドルを握った瞬間から、ゲームの向こう側で世界中の様々な方とアクティブに行動している」と感じ取り「故に、現実の世界と接する必要がない。現実の方が彼等にとってはフェイクであり、生きるのが辛い場所。ゲームの世界に入った瞬間に彼等は広い世界で伸び伸びと生きている」と受けとめた。そこで「彼等は、熱くなれる世界で時間を過ごしている」と描こうとしており「彼がレースを続けていくことで、ゲームとしての現実を生きて、リアルなレースを勝っていく」と表現している。主人公を演じた野村周平さんは車が大好きな方であり「車が好きで運転スキルが良く夢を抱かせる人間でないとお客さんが満足しない。この映画におけるリアルなゴールが彼そのもの」と大抜擢。演技については「逆算による引き算によって、自身になっていく。スタートは、バーチャルの向こう側に生きていて、外とのコミュニケーションは必要ない」と、誤解を受けるためにわざとキャラクターを作っており「観る側の視点と物差し次第でひっくり返させる。彼と作戦を練りましたが、見事に演じ切ってくれました。演技といえど、最初から最後まで貫いたリアルさは流石だな」と太鼓判を押す。
撮影については、レースに行く感覚で臨んでおり「全てがリアルのレーシングチームであり、リアルなサーキットで毎日撮影していた」とネジが外れたような感覚で楽しく過ごしていった。とはいえ、カメラは10台以上壊れ、ドローンは3台が墜落や激突、といったことになった。事故で壊れたわけではなく、壊すまで撮った結果であり「壊れるまでは、各テイクのデータは取得していたので、ギリギリまで配置していた。激突したら、カットになった後に50mから100m先まで飛んでいったカメラを皆で探し出していった。壊れるだけじゃなく排気ガスやタイヤの熱によってドロドロに溶けていました」とスタッフは大変だった。これまでの作品なら、ハリウッドでもCGで撮影していたレベルだが「今回はリアルで臨みたかったので、カメラは壊れる算段だった。映画の可能性は、デジタル技術の進化。やはり逆張りでアナログならではの人間のテクニックと空気や風を感じさせたい」と果敢にチャレンジしている。土屋さんは「リアルスピードでやらないと煙や音、乗っている人間の表情が違う。Gを感じるか大切だ。映画はリアルを撮らないと駄目だ」と豪語したが、下山監督は「映画を撮ることは、如何にして噓をつくか。表現するためのテクニックがある。安全を担保することを考える必要がある」」と認識済みだ。「エンターテインメントは、リアリティを超えた向こう側の世界を展開するからお客さんがワクワクする」と言及し「今回は、リアルなものがお客さんをワクワクさせるんじゃないか。体を張って、どこまでいけるかチャレンジしよう」と振り切った。様々な視点からの迫力あるカットが映し出される本作の中で、車がカメラの上を飛んでいくカットを一番気に入っており「撮れた時は、奇跡だと感じた。レーサーの皆さんは、自車がどれだけ浮いていて、どうなっているか知らなかった。レーサーの皆さんが試写で観て、飛んでいることに気づいた。当事者も状況を知らなかった。世界で誰も捉えたことがない」と手応えがある。舞台となったエビスサーキットは、ドリフトの聖地、と云われており、世界中の方が観てきた中で、ドリフト好きの方でも初めて観る映像が多くあり「ドリフトをしていた皆さんがこの映画を観て『初めて観た』というサプライズが一般の人以上にあった。命を懸けてレーサーが走っていて、カメラも死ぬ覚悟で撮っている時の掛け算が今間までの映画にない結果を得られた」と感慨深い。
土屋圭市さんは、現場に毎日来ることは出来なかったので、撮れた映像を毎日送っており、最初の頃は「なんだこれは、まだいけるだろ」とレーサーの皆さんに檄を飛ばしていた。レーサーはマシンが壊れる覚悟で追い込まれていたが、下山監督は、ある時から「リアルだけで映像をつなぐには限界があり、そもそも映画的におもしろいかどうか」と葛藤を抱えていく。そこで、映画に嘘をつき始めており「素材は本物ですが、編集によってリアルな映像以上の映画の醍醐味を加えたら、土屋さんが喜んでくれた」と手応えがあった。「監督に任せるから、映画の編集は可能な限りやってくれ」と言ってもらい開眼し「彼等が普段観ているリアルな走りを見せても、レースと同じ。映画になったことで、自分達が驚き手に汗握る状況を作り上げるのが映画の仕事だ」と踏まえ、応援して頂いて以降、気が晴れて一気に出来上がっていく。最終的に完成した作品は土屋さんからOKのお墨付きをもらい、いよいよ劇場公開を迎える。
映画『ALIVEHOON アライブフーン』は、6月10日(金)より全国の劇場で公開。
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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