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ミックスルーツでもある私だからこそ、表現できることがあるんじゃないか…『マイスモールランド』川和田恵真監督に聞く!

2022年5月10日

幼い頃から日本で暮らしてきたクルド人の女子高校生が、在留資格を失い、ある少年との出会いを通して悩みながらも成長していく姿を描く『マイスモールランド』が5月6日(金)より全国の劇場で公開中。今回、川和田恵真監督にインタビューを行った。

 

映画『マイスモールランド』は、在日クルド人の少女が、在留資格を失ったことをきっかけに自身の居場所に葛藤する姿を描いた社会派ドラマ。是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の若手監督である川和田恵真さんが商業映画デビューを果たし、自ら書き上げた脚本を基に映画化した。クルド人の家族とともに故郷を逃れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。現在は埼玉県の高校に通い、同世代の日本人と変わらない生活を送っている。大学進学資金を貯めるためアルバイトを始めた彼女は、東京の高校に通う聡太と出会い、親交を深めていく。そんなある日、難民申請が不認定となり、一家が在留資格を失ったことでサーリャの日常は一変する。自身も5ヶ国のマルチルーツを持つモデルの嵐莉菜さんが映画初出演にして主演を務め、『MOTHER マザー』の奥平大兼さんが共演。2022年の第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に出品され、アムネスティ国際映画賞スペシャルメンションを贈られた。

 

学生時代、自主制作映画を作り人にも観てもらった経験があった川和田さん。就職活動もしたが、思うようにいかない中で「映画を作りたい思いは消えていない。自分がやっていきたい仕事かもしれない」と卒業後の進路を考えていた。当時、是枝裕和監督による映像制作集団「分福」の募集を見つけ、是枝監督の作品にはリスペクトがあり「あくまで、試しに」という気持ちで応募。「絶対に入れる」とは思っておらず、面談を受け制作した作品を観て頂いた上で、助手に選んでもらった。是枝監督の作品については「登場する人間に血が通っている」と感じており、自身が観てきた映画とは大きく違っており「当時、まだ学生だったので、どうしたらこんな風に演出が出来るんだろう」と驚愕。「是枝監督の近くで制作する姿を見たい」という思いが一番の動機だった。

 

2015年ごろ、クルド人に興味を持ち、難民申請に関する問題を知り、時間をかけて取材を行っていく。本作でクルド監修に入って頂いたワッカス・チョーラクさんからも、ご自身の親類や知り合いの方を紹介して頂いた。御家に訪問させてもらい、家族との生活に関することや難民申請の状況などを聞き、川和田さんが共感するところがあり「特に、若い世代の2世や1.5世と云われる子達の話を聞くと、自分がミックスルーツでもあることもあり、共感するところがあった。自分だから感じるようなことがあるんじゃないか」と気づき、フィクションとして物語を考えていく。

 

キャスティングにあたり、オーディションを実施し、まずはサーリャ役の嵐莉菜さんが決定。その後、サーリャの家族についてもオーディションを行い、嵐さんの家族の皆さんがそれぞれ応募していた。父親役の候補は沢山いたが、10人程度に絞ってから、嵐さんと実際に共演してもらい、その中で嵐さん自身の演技を一番引き出せるものがある方を選考。「嵐さんのお父さんが圧倒的だった。面談室のシーンを演じてもらい、嵐さんの涙が止まらなくなっていた」と目の当たりにし、嵐さんの父親に決まった。その後、サーリャの妹や弟の役も同様にオーディションを実施し、嵐さんの妹や弟に決まっていく。以降、ワークショップを開催し、リハーサルを中心にして、コミュニケーションを確立しようと試みる。本番でしっかり演じてもらうためにも「スタッフが見ている前で演じてみる経験をいきなり現場で実践するのではなく、演じる感覚を理解してもらいたかった。また、クルドについて理解してもらうことも大切なことでしたので、クルド人の女子高生の方と一緒に話したり、お家に伺い食事を共にして時間を過ごしてもらったりしました」と準備に余念がないようにしていった。

 

役作りにあたり、本人達の境遇と異なるようにはしておらず「寧ろ、夫々を見た印象を大事にして、脚本を作り直した。現場でキャラクターを変えなくてもよいように」と、プロの俳優ではないため、脚本を合わせていく。弟のロビン役を演じたリオンさんには、いわゆる是枝メソッド(細かく台詞を用意せず、現場で状況を説明して自由に演じてもらう)を取り入れたが「ワークショップでも同じシーンを何度もやっていたので、頭に入っていて、現場でも無理なく出来るように」と配慮している。なお、サーリャの母親は数年前に亡くなっている設定となっており「主人公はまだ高校生だけど、子供でいられなくなっている。様々なクルドについて知っていく中で、背負っているもの大きさについて、ヤングケアラーのような部分が大きい」と感じ、映画の限られた時間の中で、サーリャの背景を描いていった。

 

クルドについて描いている本作。クルドの方に出演してもらってもいるが、メインの登場人物としては出演していない。「暮らしやその内容についてどう作っていくか」と悩み、クルド監修に入って頂いたワッカス・チョーラクさんと十分に話し合っている。クルドの料理を現場で作って頂いているが、難民申請中の方は役としては映さないようにした。「映していない中で、どう存在してもらうか」と熟考しており「難民申請をしていることが、出身国に知られてしまうこと自体がどうなのか。万が一、送還されてしまったら、映画が持つフィクションとしてのメッセージ性を本人に背負わせてしまうことが危険」と十分に配慮している。

 

本作が、劇場長編映画デビューとなる川和田監督。是枝監督の助手を務めた頃は「是枝さんは、エネルギッシュで、考えることを辞めない方。現場に入っても脚本を直していたり、『このままでいいだろうか』とずっと考えていたりする姿を見てきた。作品を良くするために、あらゆることに対して、貪欲であり続けている」と監督のあるべき姿を目の当たりにして「自分も考えることやめないようにしよう」と心に決めた。今作においては「様々なスタッフから頂く言葉を大事にしたい」と受けとめ「初めてで、どれだけ出来ただろう、と思いますが、心の中では、ずっとそうありたい」と真摯に取り組んだ。とはいえ、本作が出来上がるまで、映画が完成したという実感が分からなかった。フランスでカラーコレクション等の調整を終えて、最後にエンドロールで関わってくれた方全ての名前を見た段階で初めて「これだけの方が関わってくれたから、今この形になったんだ。これは映画になった」と確信を持っている。

 

劇場での公開を迎え「伝わっているんじゃないか。届いている人には届いているんじゃないかな」と実感。「日本に暮らしている難民申請者や移民や様々な外国にルーツを持つ方とどのように共に暮らしたらいいんだろう、と思いを巡らせている方が多い。難民申請者の方に対して何が出来るのか、と考えている方もいた」と真摯なコメントを受け取り「こういったことにすら気づけていないままでいる状態とは全く違うので、スタート地点に立つことにつながっているんじゃないかな」と願っている。今後も、社会の状況等を鑑みながら、その都度、自分が疑問に感じたことを反映した作品を撮りたいと考えており「様々なマイノリティの方が当たり前に登場する映画。問題として描くのではなく、当たり前に登場できる。主役ではなく、様々な役で登場する映画を作れたらいいな」と自身の夢を語ってもらった。

 

映画『マイスモールランド』は、5月6日(金)より全国の劇場で公開中。関西では、大阪・梅田の大阪ステーションシティシネマや難波のなんばパークスシネマ、京都・三条のMOVIX京都、神戸・三宮のkino cinema神戸国際で公開中。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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