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人間、愛、時代の継承、血脈がテーマ、何処の国の人が観ても伝わる映画にしたかった…『北風アウトサイダー』崔哲浩監督に聞く!

2022年2月16日

大阪の生野にあるコミュニティを舞台に、人種差別的な偏見や貧困など、厳しい状況の中でも励まし合って生きる在日朝鮮人の家族の姿を描く『北風アウトサイダー』が関西の劇場でも2月18日(金)から公開。今回、崔哲浩監督にインタビューを行った。

 

映画『北風アウトサイダー』は、大阪の生野にある在日朝鮮人の町で暮らす兄妹の絆を描いた人情ドラマ。劇団野良犬弾の主宰者で俳優の崔哲浩が自身の半生を基に監督・脚本・主演を務め、人種的偏見や貧困といった厳しい状況の中でも笑いと励ましを忘れず困難に立ち向かう家族の姿を描き出す。生野にある在日朝鮮人の町で、みんなの母親のような存在だったオモニの葬儀が行われていた。しかし15年前に失踪した長男ヨンギの姿はそこにはない。ヨンギを除く3兄妹は、オモニが営んでいた店の借金に追われ途方に暮れる。やがてヨンギが帰ってくるが、兄妹たちは変わり果てた彼の姿に困惑してしまう。

 

在日コリアン3世である崔哲浩さん。18歳から役者を始めて25年目を迎えた頃に「30歳頃から映画を作りたかった」と思い返す。とはいえ、プロの役者である自身について「舞台の作・演出までにしていたが、監督業をするのは、監督達に失礼にあたる」と感じ、なかなか重い腰を挙げられなかった。コロナ禍となり、自分と向き合う時間ができた時、崔さんにとって映画の師匠として佐々部清監督が亡くなり「佐々部監督のデビュー作『陽はまた昇る』に出演している。当時の佐々部監督と同い年である41歳を迎えた。いよいよ僕も映画監督をしていいかな」といよいよ思い立つ。

 

2007年に映画監督の入江悠さんと共に設立し、崔さんが主宰する「劇団野良犬弾」の舞台で二度上演している本作。「ファンタジーやラブコメなら日本の監督に勝てるわけがない。どういうテーマなら僕らしい作品になるか」と熟考し「自分の体験談、在日コリアンとして生まれてこれまでの実体験を誰よりもリアルに表現できる」と思いつく。幼少期からの自身や親戚や近所の実体験を8割程度盛り込み、各登場人物に反映させ、映画を盛り上げるためにフィクションの要素を2割程度入れており「この映画だったら世の中と勝負出来る」と確信した。舞台版でも出演している方を数人キャスティングしているが「基本的には、僕のことを知っている俳優達。一致団結したからこそ撮れたから、雰囲気ある映画になれた」と納得している。

 

主演として役作りの為、精神病棟にも伺っており「精神病の患者はどのような仕草をするのか」と調べており「家族にふれていく中で、徐々に正常になっていくプロセスを、目線の合わせ方や体のリズムを役者として拘った」と説く。リハーサルには3ヶ月も時間を重ねており「日本と在日社会の違いから勉強してもらいました。大阪弁は勿論のこと、韓国語や踊りや歌の練習もしている。その上で、クランクインしている」と振り返り、皆の努力には感謝せざるを得ない。作中には、拉致に関することも描いており「映画は、観ていて、良い意味で観客を裏切った方が良い。家族のドラマかと思っていたら、社会情勢が入っている」と細部へも拘りがある作品へと仕上げている。さらには、壮絶なアクションシーンも盛り込まれており「(自らの)血、ですね」と話す。「今まで様々なアクションを見てきた。格好良く撮るのは、僕にとっては格好良くない。俳優が格好良く見えるような殺陣でしかない」と理解しており「本当の喧嘩は、リアルに2発で終わる。自分の中のリアルを撮影監督と相談を重ね表現しました」と拘りを見せた。だからこそ、リアルを追求し続けたことにより「俳優で培ったリアルと実生活のリアルをギュッと詰め込んでいるから、作りものではなく、太い芯のある作品が出来上がった」と完成した作品に納得している。

 

編集作業を経て、2時間半の長尺となった本作。崔さんは「18歳から役者をしているので、分かりやすい映画が良い映画とは思っていない。名作は、10年後も20年後でも名作だと思うので、1回目より2回目のほうがさらにおもしろい。観る側の価値観によって変わるような映画が良い映画じゃないか」と受けとめ「何十回も脚本を書き直した」と明かす。「本来、映画は脚本を羅針盤として俳優とスタッフが作っていく。すると、僕の小さな世界が作り上げた映画になってしまう」と危惧しており「僕の理想は、各パートが立体的にものづくりをした方が、さらに新しい感覚も生まれて良い映画になるんじゃないか。皆の意見を聞いて、時には現場で台詞を全て変えてエチュードで組んだシーンもあります。リハーサルを重ねて3カメで同時に回したシーンもあります。太い映画になれたかな」と自信がある。現代と過去を何度も行き来する構成となっており「普通は分かりやすく作るが、一番良い塩梅に散らしています。飽きさせない工夫もしています。僕が思うリアルは、生きていて、えっと思う出来事。伏線を張って回収することばかりを監督や脚本家はやりがちだけど、僕は図太く、よく分からないけどおもしろかった、という映画が良いんじゃないか」とユニークな施しもしていた。

 

本作について「在日コリアンについて云いたい映画ではない。人間とは…愛とは…時代の継承、血脈の4つをテーマにして脚本を書いている。何処の国の人が観ても伝わる映画にしたかった」と崔監督は訴える。当初は、1ヶ月程度で作るつもりだったが、作り始めると拘りによるものづくりの追求は止まらず「失敗してなるものか。中途半端にしたくなかった。自主映画は、自分が主体者になって作る意味が大きい。納得しなければ撮り続けられることが自主制作の良いところ。キャストでありスタッフでもある。力強い映画になった」と感慨深い。いよいよ全国公開を迎え「1人でも沢山の方に観てほしい。役者で培ってきたことが全て活きています。キャストやスタッフの様々な思いが集結した映画になっています。観る人が自分もその世界にいるかのような錯覚に陥るような映画を作りました」と思いを込め、関西での公開も楽しみにしている。

 

映画『北風アウトサイダー』は、関西では、2月18日(金)より、大阪・難波のなんばパークスシネマ、京都・九条の京都みなみ会館、神戸・三宮の神戸国際松竹、2月19日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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