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古くからの華僑が経験したことは現代の子ども達に向けた教訓につながる…『華のスミカ』林隆太監督に聞く!

2021年11月12日

横浜中華街を舞台に、華僑四世の林隆太監督が、偶然出会った父親の写真をきっかけに、それまでかえりみることのなかった自分のルーツを探る姿を映しだす『華のスミカ』が11月13日(土)より関西の劇場でも公開。今回、林隆太監督にインタビューを行った。

 

映画『華のスミカ』は、華僑四世の林隆太監督が自身のルーツをたどり、横浜中華街の知られざる歴史を描いたドキュメンタリー。横浜中華街にある日本最大規模の中国人コミュニティ。その歴史は約160年前にまで遡り、彼らは団結することで中華街を発展させ、幾多の困難を乗り越えながら日本社会で独自の地位を築いてきた。しかし1952年、横浜中華学校で毛沢東を支持する教育が行われているとして教師が学校から追放された「学校事件」をきっかけに、大陸系と台湾系に学校と華僑総会が分裂し、長きにわたって対立が続いた。かつて紅衛兵だった父の写真との出会いをきっかけに家族の過去と向き合うことを決意した林監督が、日中台の政治に翻弄されてきた華僑の苦難と葛藤の歴史、そして共生の時代を歩む現在の姿を映し出す。

 

本作に出演頂いた華僑の皆さんと出会うきっかけとなったのは、横浜福建同郷会。中国の福建省系華僑の家系である林監督は、魏倫慶(ウェイ・ルンチン)会長と出会い、新年会に参加すると、父親の同級生と偶然にも隣の席になった。さらに同窓会に誘われ伺ってみると、父親の恩師である費龍禄(フェイ・ロンルゥ)さんと出会う。林監督自身は横浜中華街の外側で育っており、華僑社会の実態を良く知らなかったため「分からないことは何でも費先生に教えて頂いた」と感謝している。とはいえ、最初から快く取材を受けてもらったわけではない。カメラが回っていない時は様々なことを話して頂いたが「僕等がやっていることが最終的に華僑全体の問題として公にされる。承諾してよいか迷いがあった」と感じ取っていく。本作が抱える課題に相談しながら少しずつ協力しもらい「一度だけならインタビューに応えてもいいかな」と応じてもらい、結果的に長い付き合いとなる。

 

さらに、大陸系だけではなく台湾系の華僑の方にも取材に伺っていくうちに「街や歴史、学校も含めた対立があったことを知れば知るほど、彼等は表に出したくない。華僑は日本社会に対して波風を立てないようにやったほうが角が立たない」と受けとめ「自分が行っていることが正しいかどうか」と深く悩み、撮影を止めようとした時もあった。そんな時にも費先生には会っており、心の内を吐露したが「自身の過去や古くからの華僑の経験が将来的に、今の子たちに向けた教訓につながる」と励ましてもらい「ゴールに辿り着いた」と感慨深い。また、本作では様々な意見を積極的に取り入れている。「少なくとも大陸派の方と台湾派の方を両方の意見を入れないといけない。お互いの主張は全然立場が違うので、平行線を辿る」と最初から認識しており「僕自身は、華僑社会で育った人間でもなく、横浜中華街を基盤にして生活してきた身でもない。彼等の歴史を辿ることで、彼等の気持ちに寄り添いたいと思っても同じ感覚にはなれない。本当の意味で、自分の目で見てきたわけではないので、どちらが正しいか判断する立場ではない」と冷静だ。「僕が見たそののままを今の人達に届けることが、僕がやるべきことだ」と覚り「立場が2つあるので事実が2つあってよい。片方に寄らずバランスをとりたい。両方の側面を捉えて、しっかりと2グループの話を聞きたい」と取り組んでいく。

 

とはいえ「あの街で彼等に迷惑をかけるようなことをしてしまうかもれない。場合によっては父が築き上げてきた街での関係もめちゃくちゃにしかねない」と常に心のどこかで引っかかっていた。「皆がすんなりと受け入れてくれるのか」と気がかりだったが「受け入れてくれる方が多くいたが、警戒する人もいました」と告白。「あの街に行くと、中華学校に通っておらず中華街での変遷を知らない日本人と同じような立場の人間になる」と心境を明かし「人間関係を構築していくことが、僕の中では心労になりました」と吐露する。自身のアイデンティティは確立されてきたが「あの街では華僑アイデンティティがあり、対峙した時には自分自身の中で負い目を感じる」と小さなアイデンティティ・クライシスを抱えながら、最後まで取材を続けた。編集にあたり「中華街の人達には大陸系と台湾系の考え方がある。歴史の捉え方には違いがあり、理解することが難しかった」と時間を要していく。鑑賞する人の認識も様々であり「どのレベルで伝えれば分かりやすいか」と話し合い、最終的に「詳しくない人が見てもある程度は分かるようにしたい。僕の目線を通して知っていく過程を疑似体験できたら理解しやすい」と感じ、本作を仕上げていった。

 

劇場での公開を迎えたが「未だに達成感はない」と林監督は話し「まだ僕は日本の華僑については福建系の視点で捉えている。それぞれの地方で足跡は違う。華僑は多様化している。僕はある一面しか描けていない」と実感している。「日本には、華僑も含め様々な日本人がいるんだよ」と伝えることを視野に入れており「仁川と横浜・神戸の中華街をつなぐストーリーを手掛けたい。ワールドワイドな視野で華僑を捉える。政治を入れこまない。中華料理の視点から移民を見せるのもありかな」と模索中だ。

 

映画『華のスミカ』は、関西では、11月13日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォと神戸・元町の元町映画館、11月19日(金)より京都・九条の京都みなみ会館で公開。なお、11月13日(土)にはシネ・ヌーヴォと元町映画館で上映後に林隆太監督の舞台挨拶、11月23日(火)には京都みなみ会館で林隆太監督と洪相鉉さんによる(全州国際映画祭・富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー)トークイベントを開催予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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