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人間は如何に生きるべきか、大自然と如何にして共生していけるか…『くじらびと』石川梵監督に聞く!

2021年9月2日

インドネシア・ラマレラ村の人々が、自然と共に生き、小舟と銛で日々の糧となるクジラと対峙する姿を描き出すドキュメンタリー『くじらびと』が9月3日(金)より全国の劇場で公開される。今回、石川梵監督にインタビューを行った。

 

映画『くじらびと』は、インドネシア・ラマレラ村で、伝統の捕鯨を400年間続けながら暮らす人々を捉えたドキュメンタリー。インドネシアの小さな島にある人口1500人のラマレラ村。住民たちは互いの和を何よりも大切にし、自然の恵みに感謝の祈りを捧げ、言い伝えを守りながら生きている。その中で、「ラマファ」と呼ばれるクジラの銛打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。彼らは手造りの小さな舟と銛1本で、命を懸けて巨大なマッコウクジラに挑む。2018年、ラマファのひとりであるベンジャミンが捕鯨中に命を落とした。人々が深い悲しみに暮れる中、舟造りの名人である父イグナシウスは家族の結束の象徴として、伝統の舟を作り直すことを決意。1年後、彼らの舟はまだ見ぬクジラを目指して大海へと漕ぎ出す。ライフワークとして30年間ラマレラ村の人々を追い続けてきた写真家であり映像作家の石川梵監督が、2017年から2019年までに撮影した映像を基に制作し、自然とともに生きるラマレラ村の人々の日常を繊細かつ臨場感あふれる映像で描き出す。

 

2017年に初監督作品『世界でいちばん美しい村』を撮った石川監督。「次に何を撮るか」と考えた時に「ずっと追いかけている”くじらびと”がある」と思い出す。「現代において、銛一本でくじらを突くような村があること自体が奇跡」だと驚くと共に「これは残した方が良いんじゃないか」と気づく。写真に残したことがあったが「映像でしっかり残すことに意味があるんじゃないか」と確信。1990年代から取材を続けた結果を書籍として出版したりTV番組を制作したりしている。2009年に本を執筆することになり再訪した際、ラマレラ村では反捕鯨団体が行動している事態になっており、若者達は自らの利益に走っていた。そこで、村に住む老人から「皆が一つになって村の為にくじらを捕っていた時代の姿を若い奴等に見せてやってほしい」と依頼を受ける。石川さんは「日本に珍しい文化を紹介しようと思ってたことが、実はジェネレーションを超えて現地の人達に還元出来る」と喜び「現代におけるくじらびとの生き方を収めることがジェネレーションを超えて現地の人達に貢献出来るんじゃないか」と本作を企画した。

 

だが「昔と同じように撮影しても、撮影意欲が湧かない」と感じ、今作では、ドローンを用いた空撮を導入。「くじらを空から撮りたい」と以前から検討していたが、実際にドローンを使ってみると「潜らないと見られないと思っていた海の中が見える」と驚いた。「くじらが弱っている時、仲間のくじらに元気づけられていた。一緒に逃げるところまで撮れる」と気づき、海の中にもう一つの物語があると分かり「くじらの視点から撮りたい。そして、くじらの心を撮りたい。この2つを撮ることで初めて物語が普遍性を帯びたものになるんじゃないか」と期待する気持ちも湧いた。

 

「劇映画のようなタッチでドキュメンタリーを撮れないか」と思い描いた石川監督。通常のドキュメンタリーと違い、ナレーションがなく人間との距離が近くなる撮り方をしており「長年付き合ってきた人達だから撮れた。簡単に説明出来ることがナレーションがないとどれだけ難しいか」と痛感。現場では3組に分かれ、1つの船に撮影クルー1人が乗船した。くじらが船にぶつかってくる中で、自分の体やカメラを守ることを考える必要があったが「カメラを守っていると撮影出来ない。くじらが来ても撮りながら現場を回せるようにしないといけない」と受けとめ、シミュレーションを何度も実施していく。自身が乗組員の1人であると認識し「くじらが向かってきても撮り続けていると巻き込まれて死んでしまう。誰も危険だということを言ってくれない」と自己責任で撮影していった。

 

インドネシア語をマスターしている石川監督だが「彼等はラマレラ語を話す。僕と会話出来ても、彼等同士で話していることはよく分からない状態」だと明かす。だが、船にはずっと乗っているので全く問題がなかった。くじらがなかなか出てこなかったことが一番の問題になっていく。3年をデッドラインにしていたが、到来してしまい、帰らないといけなかった。しかし、1週間延長し、本当に帰る日の前日にチャンスを手にしており「漁期は限られている。待っている期間は賭けのような長い時間。大変だった」と感慨深い。

 

編集にあたり、膨大な素材を前にして苦労を重ねていく。だが、ベンジャミンの事故をミッドポイントにして展開し、群像劇の時間軸を工夫していった。途中段階からベテラン編集者である熱海鋼一さんが参加して中心軸がしっかりと固まり「くじらびとを夢見る少年であるエーメンが映るシーンを最後に作ることで、彼の意味付けがはっきりした。ラマリアの未来は若者にかかっている。若者の象徴としてエーメンがいることによって、映画が引き締まる」と渾身の一作が出来上がる。完成した本作について「普通のドキュメンタリーと違い、体感型の映画。映像に凝ると同時に、音にも凄くこだわっています」とスペクタクルな効果をアピールし「シネコンの大きなスクリーンと音響によって、船に同乗しているように感じてもらえたら、作った意味があるんじゃないかな」と期待は大きい。

 

石川監督は、本作において「人間は如何に生きるべきか、大自然と如何にして共生していけるか、本質的な深い問題を扱っています」と説く。現在のラマレラ村は高齢化が進み、若者達は皆村を離れて都会で働いており、深刻な人手不足が生じている。「経済的には何十倍も裕福になる」と理解できるが「自分の息子には幸せになってほしいが、くじら漁は続けないといけない」と親御さんの困惑があることも納得せざるを得ない。だが「村が変化している中でくじら漁を如何にして維持していくか。村にくじら漁の伝統を残そうとしていく中でエーメンは試金石になる」と捉えており「エーメンを取り続けることで村の未来が見えて来るんじゃないか。彼が15歳になった時の決断を追いかけてみたい」と未来を見据えている。

 

映画『くじらびと』は、9月3日(金)より全国の劇場で公開。関西では大阪・梅田のシネ・リーブル梅田や難波のなんばパークスシネマ、京都・烏丸の京都シネマ、神戸・三宮の神戸国際松竹で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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