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本当はかまってほしいけど、おとなしくて言えない子が多くいる…『かば』川本貴弘監督に聞く!

2021年8月11日

1980年代の大阪を舞台に過酷な環境の中で生きる生徒達に真正面から向き合う教師の蒲益男を描く『かば』が8月13日(金)より関西の劇場でも公開。今回、川本貴弘監督にインタビューを行った。

 

映画『かば』は、差別と偏見、貧困などさまざまな問題を抱えた環境の中で生徒たちに正面から向き合った、実在した中学生教師たちの生き方を描いたドラマ。1985年夏、被差別部落が隣接する大阪市西成区北部の中学校。荒んだ学校生活を送っている生徒たちに、蒲先生ら教師たちは手を焼いていた。臨時教員として赴任してきた加藤先生が生徒に受け入れてもらえず自信喪失する姿に、蒲先生は得意の野球で生徒と向き合うことを提案する。登校拒否になった転校生、家庭を顧みない母親、酒浸りで在日朝鮮人の父と暮らす女生徒、出身地を恋人に告白することができない卒業生、服役中の父親に代わって家庭を支える野球部主将など、さまざまな事情を抱えた生徒たち。蒲先生ら教師たちは、彼らと向き合い、時には生徒の家庭へ強引に入り込んでまで、彼らの生き方を模索する。主人公の蒲先生役を大阪出身の山中アラタさんが演じる。

 

京都出身の川本監督。蒲先生自身が京都の大学出身であり、最初は京都の高校で臨時講師だったと知り、大学のゼミの友達や同級生、高校の同僚達から「蒲先生という方がいたんだが、映画として残してくれないか」と依頼受けた。調べていくうちに、本教員になったのが西成の中学校だったと知る。当時の同僚である先生方と出会い、本作の製作委員会を発足。本作のタイトルは『かば』であるが、蒲先生をきっかけにしながら、この先生達の物語にしており「他の先生がしたことを蒲先生に背負わせている。蒲先生がしたことも一部はリアルに描いている」と話す。

 

約3年かけて取材を行い、様々な”やんちゃ”な子のエピソードを沢山聞いたが「やんちゃな子達は自分達で主張出来る。だけど、同じような立場でも主張出来ない”おとなしい”子達のことを見逃しがちになる。真面目だから良いのではない。この土地で暮らし、差別される」と捉え「やんちゃな子ほど可愛くて手がかかって注目するのは分かる。だけど、本当はかまってほしいけどおとなしくて言えない子の方が多くいる。今回は西成=ヤンキーではなく、真面目な子にスポットをあてよう」と本作の脚本を執筆していく。

 

キャスティングにあたり、大人の出演者は昔から知っている人や紹介を通じて決定。子ども役は、大きいプロダクションに伺いながら大阪在住の14,5歳から20歳までの子達を集めており「オーディションはしていないけど、面接をしてやる気を伺った」と振り返る。西成が舞台の物語であるが、出演する子ども達は本作の意図をあまり理解しておらず「今は学校でもあまり教えていない。撮影前に半年程度リハーサルして、リハーサルの中で調べてもらった。自分の親御さんに聞いたりインターネットで調べてもらったりして皆で勉強しました」と説く。同時にリハーサルを半年かけて週3回程度行い、本番では文句なしの演技となった。25日間で撮影しており「子供が出演しているので、集中力が切れそうな時がある。また、子供は成長していくので連続で撮っていった」と振り返る。

 

1985年が舞台となる作品のため、携帯電話が存在しない。現場では許可を得て撮影しているが「携帯電話を見かけたら、撮影を止めていた」と明かす。本作の前にパイロット版の制作があり、西成の方達と仲良くなっていたので、西成での今作の撮影は問題が発生することはなかった。なお、パイロット版とはストーリーや台詞は同じであり、脚本の抜粋版をパイロット版として撮影。蒲先生は山中アラタさんが演じたが、キャストほとんど全部変わっている。パイロット版の完成後、本作の資金集めを目的に東京から沖縄まで営業に回った。人権教育に携わっている方や様々な団体に伺い、次第に理解を得られならカンパを集めており「集めたからには、もう辞められない執念があった。宣伝費も尽きると考えていたので、宣伝しながらカンパを集めていた。『出来なければ本当にマズいな』と思いながら、2年程度は毎日眠れなかった」と告白する。

 

なお、編集にあたり、監督自身の思い入れが強く、映像を切り難く、田中健詞さんに客観的にやってもらった。脚本には自信があり「自分で編集すると長い作品になってしまう。脚本をしっかり書いているから、脚本通りに繋げてもらった」と語る。主題歌は、京都のベテランバンドである騒音寺が担う。騒音寺とは20年来の付き合いであり、2本目の映画で主題歌を歌ってもらっており、以降、MVを撮影。今回は「一緒にやらないか」と声をかけたら応じてもらい「Long line」を提供して頂いた。

 

現在、東京の劇場で公開中だが「最初は、大阪から始めるつもりだった」と打ち明ける。本作が初めての劇場公開作品となり、周囲から東京から劇場公開を始めることを勧められた。偶々紹介してもらった東京・新宿 K’s cinemaに気に入ってもらったが「大阪の部落差別に関することは分かるかな。ウケないかな」と当初は心配。だが、東京での試写会を3回開催してみると、最後は満席となり、盛り上がりを感じた。「大阪での普遍的な物語なら場所は関係ない。生徒の暴れっぷりにコントに見えたようだ。これ本当の話なの?とか。泣けるシーンは大阪も東京も同じ」と感じつつ、笑いの感覚が違うことも踏まえても「結果的におもしろがってくれた。関西の物語だからこそウケた」と納得。今回、多くの方に出資して頂いており「出して頂いたお金を返すまでは上映活動は続ける。DVDや配信はしばらくは行わない。こういう問題やテーマについて観ながら質疑応答やディスカッションをしながら時間をかけて全国を回っていきたい!」と果敢に意気込んでいる。

 

映画『かば』は、関西では、8月13日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都、8月14日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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