Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

Now Loading...

関西の映画シーンを伝えるサイト
キネ坊主

  • facebook

仕事に熱中している時こそ良い映像が撮られる…『東京自転車節』青柳拓監督に聞く!

2021年7月23日

山梨県出身の青柳拓監督が、自ら自転車配達員として働きながら“コロナ渦”の東京を映したドキュメンタリー『東京自転車節』が7月24日(土)より関西の劇場でも公開。今回、青柳拓監督にインタビューを行った。

 

映画『東京自転車節』は、『ひいくんのあるく町』の青柳拓監督が、2020年緊急事態宣言下の東京で自らの自転車配達員としての活動を記録したドキュメント。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため緊急事態宣言が発出された2020年の東京。自転車配達員として働くことになった青柳は、スマートフォンとGo Proで自身の活動を記録していく。セルフドキュメンタリーを踏襲しながら、SNS動画の感覚でまとめあげた日常を記録した映像を通し、コロナ禍によって生まれた「新しい日常」とは何かを問いかけていく。

 

本作のプロデューサーである大澤一生さんは、2020年3月末頃に渋谷の街を歩きながら「昼間でも人がいない。聞こえてくるのは都知事によるアナウンス映像の音…」と衝撃を受けながら「こんな渋谷の状況を映像として残せないか。だからといって、風景だけの映像やリモート映画を作るのとは違う」と考えていた。同時に、自転車配達員の人達を頻繁に見かけており「これを撮ればいいじゃないか。外に出るのが憚られる状況でも、人がいない状況を堂々と撮れる」とアイデアが浮かんだ。そこで「誰に撮ってもらうか」と検討していく中で、青柳監督が思い浮かぶ。以前から面識があり「彼は、奨学金返済のためにマグロ漁に1年間行くドキュメンタリーを撮ろうとしていたが、コロナ禍で頓挫していた。働きながら撮る必然性があるハングリーな若者は青柳君だ」と気づき、電話してみると「おもしろそうですね、やりましょう」と即答を受けるに至った。

 

提案を受けた青柳監督は「なるほどなぁ。良いアイデアだなぁ」と喜んだ。自転車配達員の姿を外側から見ながら「誰もいない街を縦横無尽に走り回っている。人と人を繋いでいるヒーローみたいだ」と良いイメージが最初に浮かぶ。友達が実際にやっているのを知っており、電話してみると「1万5千円から2万円は稼げるよ」と聞き「なるほど、稼いで奨学金を返せるんじゃないか」と前向きに決断。まずは、地元の山梨から東京・新宿に向かって120Kmをシティサイクルで山を越えながら2日かけて移動する。まずは様々な友人の自宅に泊まりながら「同じ場所に長くいない方が良いな」と遠慮し、転々としながらも最終的にはマンガ喫茶等に落ち着く。自転車は、電動自転車を用いたシェアサイクルは1日利用のサービスを活用したこともあったが、乗り放題の法人会員向けサービスを利用するには出費がかかるため「ロードバイクを貸してもらったことは大きな意味がありますね」と実感。

 

当初は、お金を稼ぐことを目的にしていたが「大きな稼ぎにはならず、お金が貯まっていかない」と気づく。「これでは奨学金を返せない」と分かり、お金を貯めることは諦めてしまう。だが「ここで続けなきゃいけない」ということも分かっている。東京滞在中には誕生日を迎え「自身を祝いたかった。人肌恋しい気分にもある」と夜のお仕事のお世話になろうとしていたこともあった。賛否が分かれるシーンではあるが、「当時、夜のお仕事に向かっていく方が増えるのは容易に想像できる。僕が働いている環境の延長線上にあり、共感を以てお話しできるんじゃないか。リアルな状況を作品で描けるならつながりたかった」と本作の監督として、敢えて作品に収めている。

 

自転車配達員として働く前は、人と繋がることが出来ると考えていた。当初は、お店の方やお客さんを撮らせてもらって繋がっていくことを想定していたが、コロナ禍により置き配が始まり「あまりにも置き配が多い。直接受け渡す時もあるが、玄関ドアが10cmしか開かず手だけ出て来て受け取る。相手の顔が見えない」ということが現実だった。お客さんと話すことが出来ず、ロボットのような気分になり、精神的に辛い日々を送っていく。街中の店舗前では配達員が溜まっていることが報道されることもあったが「誰でも溜まっているわけではない。元々の繋がりがあり、僕は、その中には入れなかった」と告白。基本的に配達員は別々に行動するので「配達員同士のつながりを作ることを考えても良かったかな」と回顧する。

 

撮影は、基本的にGoProカメラとスマートフォン2台で撮っており「後ろからのアングルは三脚が必要になり、バッグに取り付け1日かけて丁寧に撮影している。引きのある映像は辻井潔さんにも関わってもらい、撮影用の日を設けて撮っています。前方や動きのある画はGoProで撮り、スマートフォンでは自分を撮っている」と解説。「GoProは歪むので、迫力ある映像や躍動感ある自分の姿を近くで撮る。周囲にいる人達や報告時の自分の姿はスマートフォンで撮っています」と状況に合わせて撮り分けており、配達しながら撮影するにあたっての煩わしさを配慮している。

 

「仕事に熱中している時こそ良い映像が撮られる」と本作では考えており、青柳監督は熱中しきった時の映像を撮ることに集中した。「様々な雑念があり、様々な欲望に負けていく。負ければ負けるほど、勝つという映像を撮らなきゃ締まらない」と自身にプレッシャーを与え「勝つ為には、とにかく没頭して、配達員の青柳としての自分を一生懸命にやる。寧ろ映画を忘れてやることを心がけることが大変でした」と振り返る。挫折を感じたことはなく「挫折した時こそ撮る、と心得ている。本当の挫折は分からないが、ある程度の挫折を経験したとしても『これを撮る』という精神で向かっていった」と述べ「堕落して大変なことになってしまった、という気持ちはあったが『大変だと思った時こそ撮らなきゃ』という気持ちも同時に浮かんだ」と、これまで映画制作の経験を以て心得ていった。

 

昨年4月20日から6月20日までの2ヶ月間で東京に滞在して撮影を終えた後、以前からお世話になっており信頼している辻井潔さんに編集を依頼。「配達するディティールを疾走感を以てリズムよく体感するような編集をしてもらえた」と満足している。「配達員としての目標を達成するという作品の横軸を作ると共に、仕事中に遭遇したおばあちゃんから歴史的な話を伺い、縦軸が加わった」と作品の核となる構成が出来上がり「元々は、山梨に帰るという終わり方をして気持ち良いラストだと思っていた。だが、コロナ渦の状況を鑑み、無事に終わらせてよいとは思えなかった。最終的には、編集時に追撮している。賛否両論ありますが、この違和感は翻って良いことなのかな」と納得できる仕上がりとなった。出来上がった作品は、出演して頂いた方々に観てもらっており「地元の友達が喜んでくれたり、背中を押してくれた人がいたりした」と安堵している。

 

12月には東京に引っ越しており「映画監督としてやっていくため東京にいなきゃいけない。拠点にして仕事があるまでは自転車配達員をしています」と明かし、現在も配達審の仕事はしており「フレキシブルに働ける仕事なので、仕事が入ったらやらなくていいので、続けています」と話す。今作について「『ひいくんのあるく町』と共通するテーマがある」と改めて受けとめている。どちらも、街と人の関係を描いており「街の中で生きる人をカメラが捉えている。1人の人間がどのように人や街に影響し合っているのか」と興味があり、次作についても果敢に取り組んでいく。

 

映画『東京自転車節』は、関西では、7月24日(土)より大阪・十三の第七藝術劇場で公開。また、京都・出町柳の出町座でも公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

Popular Posts