『不思議惑星キン・ザ・ザ』をゲオルギー・ダネリヤ監督が自らアニメ化した『クー!キン・ザ・ザ』が関西の劇場でもいよいよ公開!
(C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm
カルト映画の傑作として世界的に人気を博した、ゲオルギー・ダネリヤ監督によるSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』を、監督自らが劇場アニメ化した『クー!キン・ザ・ザ』が5月21日(金)より関西の劇場でも公開される。
映画『クー!キン・ザ・ザ』は、ソビエト連邦時代のジョージア(グルジア)で1986年に製作され世界中でカルト的人気を集めたSFコメディ「不思議惑星キン・ザ・ザ」を、ゲオルギー・ダネリア監督が自らの手でアニメ映画化。社会主義体制の中で製作された実写版を、レトロ感が漂いつつも未来を感じさせるアニメに再構築。大きな変革の波にある現代ロシアを戯画化して描き出す。有名チェリストのチジョフとDJ志望の青年トリクは、雪に覆われたモスクワの大通りでパジャマ姿の異星人と遭遇し、キン・ザ・ザ星雲の惑星プリュクにワープしてしまう。そこは見渡す限りの砂漠が広がり、身に着けるズボンの色によって階級が分かれる場所だった。「クー!」という言葉で会話する異星人たちを相手に、地球に帰るべく奮闘を続ける2人だったが…
2019年に逝去したダネリア監督の遺作となった。
(C)CTB Film Company、Ugra-Film Company、PKTRM Rhythm
映画『クー!キン・ザ・ザ』は、関西では5月21日(金)より京都・烏丸御池のアップリンク京都で公開。また、大阪・梅田のシネ・リーブル梅田と神戸・元町の元町映画館で近日公開。
本作は、続編ではなくリメイクだ。物語の大筋はオリジナル版と同じ、元々の面白さは全く損なわれずに、2時間越えだった尺が約90分に凝縮されている。『不思議惑星キン・ザ・ザ』の雰囲気はそのままに、1980年代の特撮が現代のアニメーションに生まれ変わり、世界観のビジュアル化に制限がなくなった。独特のデザインの宇宙船や異星人たち、荒涼として広がる砂漠、キン・ザ・ザ星雲の世界はアニメ化向きでもあったのだ、と新鮮な楽しさを感じる。
主役2人の設定は一新されて別の人物たちになったが、役回りや名セリフの数々は実写版のままなのが嬉しい。一方で、オリジナル版ではとても示唆的だったセリフが、今回は設定ごと無くなっていることに驚いた。監督がこの改変を望んだのはどういった心境なのか、非常に興味深い実写版が公開された1986年のソ連時代から今作が製作された2013年のロシアの世までの間で違ってしまったものは何だろうか。監督がこの世を去ってしまった今、彼の母国「ジョージア(昔の呼び方はグルジア)」というキーワードを意識して、両作品を見比べてみても面白い。
なお、この物語の舞台となる惑星の名前は「プリュク」、プリュクが位置するのが「キン・ザ・ザ星雲」。オリジナル版のタイトル『不思議惑星キン・ザ・ザ』は変じゃないの?(原題は「キン・ザ・ザ」)という日本のファンの間では定番だったネタが、30年以上を経て「クー!キン・ザ・ザ」というブレないタイトルに統一されたのも感慨深い。今回も「伝説のカルト映画」と公式サイトが自ら称している実写版作品は、根強いファンの多い人気作品である。直近5年間では日本のどこかで毎年上映されていた。現在はソフトが大手レンタル店にも並んでおり、昨年はブルーレイの廉価版も発売されいる。実写版を観賞するハードルは高くない。観る順番もどちらが先でも大丈夫なので、実写版を未見の方も、是非劇場へ足を運んでいただきたい。
fromNZ2.0@エヌゼット
1986年に公開され、カルト的な人気を博した『不思議惑星キン・ザ・ザ』(日本公開は1991年)。本作は、監督自らが2013年にアニメ化したセルフリメイク作品。実写版は、制作当時のソビエト連邦に対する社会風刺だという見方をされているが、今回のアニメ版でも(細部の設定は違えど)大筋のストーリーは変わらない。しかし現代における『不思議惑星キン・ザ・ザ』の立ち位置は、当時とは少し違っているように思える。作中で描かれる階級社会や差別思想は、決して社会主義国家に限ったことではないからだ。むしろ今では資本主義(という名の拝金主義)が世界を覆い尽くしていることへの皮肉とも捉えられるだろう。さらに云えば、主義など関係なく、人間の本質的な部分に対する問いかけかもしれない。ソ連が崩壊しておよそ20年が経ってから”アニメーションで”作り直した背景には、監督が幅広い世代に対しイデオロギー以上に伝えたいことが込められているように思える。
……なんて小難しい話を抜きにしても、本作のユニークで”少し不思議”な世界観は観ているだけで楽しい。例えば、惑星プリュクには時折地球と同じような建造物が出てくるが、ここは未来の地球なのか?と勘ぐったり、20世紀風の暮らしの中にある恐ろしく進んだ科学技術や文明の仕組みが気になったり。惑星の謎について想像を膨らませずにはいられない。なお、本作公開を記念して、実写版(デジタル・リマスター版)も同時上映される。本作を機に両作品を観比べてみるのも良い。表現の違いや、変更点の意図について考えてみるのも面白そうだ。外出が制限される昨今、現実からしばし抜け出し、不思議惑星へ旅してみてはいかがだろうか。
fromマエダミアン
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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