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「悲しみ」から目を背けず人間を描いていきたい…『あの群青の向こうへ』廣賢一郎監督に聞く!

2020年7月31日

未来の自分から手紙が届くようになった世界を舞台に、青年と少女の旅が描かれる『あの群青の向こうへ』が8月1日(土)より関西の劇場でも公開。今回、廣賢一郎監督にZoomを用いたインタビューを行った。

 

映画『あの群青の向こうへ』は、未来の自分から手紙が届くようになった世界を舞台にした青春ロードムービー。未来の自分から1通の手紙「ブルーメール」を受け取るようになった世界。その手紙は希望の知らせなのか、それとも不幸を知らせる便りなのか。ひょんなことから出会った青年カガリと家出少女ユキ。ともに東京を目指すこととなった2人だったが、次第にそれぞれの過去や秘密が浮き彫りとなっていく。ユキ役を『左様なら』『恋するふたり』の芋生悠さん、カガリ役をモデルとして活躍し、俳優としてのキャリアをスタートした新人の中山優輝(現・輝山準)さんがそれぞれ演じる。監督は現在さまざまなミュージックビデオやCMを手がける廣賢一郎さんが務めた。

 

中学生の時から身の回りにあったデジタルカメラで風景や友達を撮影しPCで編集するショートフィルム制作を始めた廣監督。その後、進学にあたり、芸大受験も考えたが、熟慮の末、総合大学である大阪大学に進学。「映画ばかりしか観ていないようでは、良い映画監督になれないぞ」と、とある人に云われたが、他の様々な学問・芸術分野にも興味を持つようになったからであった。

 

とはいえ、本作の撮影当時、芸術大学に進学しなかったことによる障壁が立ちはだかる。映画撮影に必要なスタッフが知り合いにおらず、探し方も分からず困ってしまった。大阪の自主制作団体harakiri filmsという団体の存在を知り、コンタクトを取ると、代表の今井太郎氏は「関西の映画を盛り上げたい」と快く様々なことを教えてもらう。今井氏の主催するパーティーなどに足を運び、少しずつ交流を広げていく。また、本作で必要になりそうなCG・VFXの基礎を学ぶためにデジタルハリウッド大阪校に通い、勉強をした。結果的に、各方面十分なスタッフを集めることができなかったが、一人で監督・脚本・撮影・照明・美術・CG・VFX・編集を担当して完成させる。「大変ですけど、そうでもしないと撮れない。演出に集中するのが大変だった」と告白し、本作での反省を踏まえ、撮影後に別作品の撮影現場に参加し、経験を積んだ。現在は撮影現場などで新たに出会った仲間たちとMVやCM監督の仕事を経て、次作への意気込みを新たにしている。

 

SF映画のような世界観の設定と青春ロードムービーが合わさったストーリーとして展開されている本作。廣監督個人はあまりSF映画のファンではないが、『アバウト・タイム 愛おしい時間について』や『イルマーレ』のようなSFらしくない作品を目指したという。今作の脚本執筆時は20歳であったため、それを自分の中での節目と考え、「自分自身にとって意味のあるものにしよう」と、これまでの人生で影響を受けた様々なものを作中に取り入れた。作中の主人公たちが東京を目指すストーリーは、「その当時、親友と『東京に出ないか?』という話をしていたんです。自らの状況と重なる部分があった」と、廣監督は振り返る。結果的に「今回は、”自分のために作った映画だ”と認識している。青臭いテーマやセンチメンタルな描写から逃げずに、真正面から描きたかった」と冷静に話す。当時の廣監督が強く影響を受けていたという岩井俊二監督の「リリイ・シュシュのすべて」に対するオマージュなども、分かりやすく入れられている。「当時の自分にしか作れなかった映画であり、やりたいことをやった」と当時を振り返り、包み隠さずに語っていく。

 

キャスティングも手探り状態だったが「主人公の少女ユキ役は、力強い演技をする、少年のような女性が良い」と熟考。候補を挙げていった中で、芋生悠さんの存在を知り「この人しかいない」と、直感的にオファー。もう一人の主人公、カガリ役の中山優輝(現・輝山準)さんとの出会いは、まさに運命的なものだった。当時キャスティングが難航していて、撮影開始日が迫ってくる最中に出席したイベントで、偶然出会ったのだった。中山さんは当時、演技経験は全くなかったが、「どうしても俳優になりたい。どんなことでも一生懸命やります」と熱い思いを伝えた。廣監督はその熱い思いに感化され、リスクを承知で主役をオファー。とはいえ、撮影当初は台詞が棒読みになってしまうところも多く、苦労は絶えなかった。しかし「上手ではなかったかも知れないですけど、良い映画にしよう、と一生懸命やってくれました。撮影が進むにつれて、ものすごく良い演技をしてくれるようになりました。確かに大変でしたけれど、中山くんを選んで良かった」と感慨深く語る。作中、青年カガリにとって重要な存在である彩役を演じた瀬戸かほさんについては、「この役のモデルとなった人に、雰囲気や存在感が通ずるような人が良い」と考え、キャスティングした。

 

本作は2020年1月11日から東京・アップリンク渋谷にて公開。劇場に訪れた様々な人の意見・感想を通して、当時の自分たちのことを改めて俯瞰するような感覚があった。「今回は、自分自身が未熟だったから、上手く描き切れなかった部分がある」と省み、今後の作品に対する目標も見出していく。尊敬するガス・ヴァン・サント監督や、ディヴィッド・フィンチャー監督、テオ・アンゲロプロス監督らのように、「画の雰囲気を通して、感情を表現できたら」と決意を新たにする。村上春樹さんの『ノルウェイの森』の一節を「どのような真理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような強さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ」と引用して「哀しみや、センチメンタルな感情を、目を背けずに描いていきたい。」と語った。「映画の中では、夢を見たい。自分が消化しきれなかった感情をこそ映画の中で描くことで、それに似た感情を抱いている人に対しても、そっと寄り添うような作品になれるだろうと思っています」という。本作では作品のスタイルが確立出来ているかは確信がないが、自分の作風について「一貫していることと云えば、青っぽい画作り、肌寒い感じが好きであること。寄りの画があまり好きではなく、引きの画を好んでいる。それは登場人物達がどのような状況にあっても、一定の距離を置き、遠くから見守っているような状態が好きだからです」と語っている。今後の作品については「自分の中で納得いくまで深く掘り下げて人間を描きたい。サスペンス映画も撮りたいです」と拘りを貫く姿勢が伺えた。

 

映画『あの群青の向こうへ』は、8月1日(土)より、大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、京都・九条の京都みなみ会館でも近日公開予定。

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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