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現場で本当に何が起きるか分からないものを追って撮り続けた15日間の日々を繊細に映し出す…『二重のまち/交代地のうたを編む』小森はるかさんと瀬尾夏美さんに聞く!

2021年3月31日

Photo Fuda Naoshi

 

震災の記憶があまりない4人の若者が、岩手県陸前高田市の被災地を巡り、人々の声に耳を傾ける様子を映し出す『二重のまち/交代地のうたを編む』が関西での劇場でも4月2日(金)より公開。今回、小森はるかさんと瀬尾夏美さんにインタビューを行った。

 

映画『二重のまち/交代地のうたを編む』は、東日本大震災後のボランティアをきっかけに活動を始めたアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」によるプロジェクトから生まれたドキュメンタリー。2018年、岩手県陸前高田市を訪れた4人の若き旅人たち。震災から空間的にも時間的にも遠く離れた場所からやって来た彼らは、土地の風景の中に身を置き、人々の声に耳を傾けて対話を重ね、画家・作家の瀬尾夏美さんがつづった物語「二重のまち」を朗読する。陸前高田のワークショップに参加した初対面の4人が、自らの言葉と身体を通して、その土地の過去・現在・未来を架橋していく様子を、映像作家の小森はるかさんが克明かつ繊細に映し出す。

 

瀬尾夏美さんの「二重のまち」は、春・夏・秋・冬がある物語。日本の四季に合わせてワークショップの参加者を4人を選ぶことが大前提にあった。対象を全国に広げた公募にて出演者の募集を実施し「東日本大震災発生当時は高校生以下。震災との距離を感じており、関わりたいけど遠くに行けず何も出来なかった距離感にいる人に来てほしい」と呼び掛け。15日間を陸前高田市に滞在して人々の話を聞き、フィールドワークとしてまちの中を歩きながら「二重のまち」を読んでくれる人を募集したところ、55人の応募があり、書類審査と面談を通じて今回の4人を選んだ。

 

本作を制作することよりも、まず現場を作ることを優先した二人は、<継承のはじまりの場>を作ることが第一にあった。4人の姿を記録していく過程では、<継承>に関する様々なワークをしていくことと、「二重のまち」を彼らが朗読していくことを同時並行に進めている。当時の陸前高田について、小森さんは「嵩上げを終え、”上のまち”を歩くしかない。”下のまち”を想起出来ない状況がある」と認識し、「『二重のまち』というストーリーを用いながら、彼らがあの場所にいられるようにするため朗読の過程を記録しよう」と映画になるかどうか決めず撮影を始めたことを明かす。「小森はるか+瀬尾夏美」は美術館等で展示する作家であり、美術館等での展示用にカメラという装置を使ってワークショップを進行させることを考えており、様々な記録物が出来ること想定している。「陸前高田の方々による語りもあり、彼ら自身の語りもある。素材が沢山出来上がった」と実感しながら撮影が終わり「映像作品になるだろう」と徐々に計画。「様々な記録映像や抽象度の高い映像が沢山あり、どの部分を美術館向け作品にするか。或いは映画にするか」と2年程度かけて慎重に検討していく。ワークショップのドキュメンタリー映画にするつもりはなく「ワークショップという場の中で発生する、様々な方による”聞く”や”語る”を記録している。断片が何らかの映像作品の一部になっていくだろう」と想定しており「撮影時点ではドキュメントになっていないが、ドキュメンタリーのように素の状態の本人を追っていくものではない。設定されたその場で本当に何が起きるか分からないものを追って撮っている」と説く。

 

ワークショップに参加した4人について、小森さんは「撮られていることを自然に受け入れてくれる人達」だと感じており「カメラがある現場とない現場が分かれている。カメラを意識し過ぎることもなく、無視するわけでもない。中間的に撮られることを受け入れてくれた4人だった」と振り返る。参加者のうち、3人は俳優で、もう1人はシンガーソングライターであるため「どう撮られているか、ある程度見えているか、を想像出来る人達だった」と感心。また、陸前高田のまちに出ている時と屋内施設で過ごしている時の印象は違っており「”まち”という場所から少し切り離された空間がある。15日間の後半は皆が気づいてきたことを互いに語ることを繰り返した。陸前高田の方と話している姿を撮っている時よりも強調して、4人の中で話している人と聞いている人に対する撮り方を明確に分けていました」と解説する。15日間は大変ではあったが「現場を支えてくれたスタッフ内でのコミュニケーションも充実しており、”こんなものが映るんだ”という驚きがあった。撮影班は4人おり、皆で作れたという意味でも、今までの陸前高田で撮ってきたことと全く違う経験だった」と、様々な実験をしながら楽しんで制作出来たことを懐かしんでいた。

 

撮影が終わり、まずはワークショップの時系列通りに映像を編集し、4人それぞれが陸前高田の方に会いにいき話を聞いて語り直す構成に仕上げていく。そこで、現場で得た成果と映像の中で結果的に見えたこととのバランスを考えながら再構成しており「彼らが語り直すプロセスと、それぞれが聞いたことをもう一度想像しながら『二重のまち』を読むことは平行に存在していた。この環境をどう見せるか」と熟考して編集を重ねていった。小森さんは「現場レベルにおいては、語り直すプロセスによって作品になる気がしましたね。聞いている段階で良い場面に沢山遭遇していたが、想定の範囲内。語り直すプロセスにおける向き合い方こそが見せたいシーンになる」と出来上がった作品について満足している。瀬尾さんとしては「ワークショップを企画している段階で、何らかの作品にはなる」と感じており「企画を組む段階で、現場でどうやって彼らをケアしながら回すか。企画の時点で作品になるのは当たり前。立ち会うとなにか起こる。良いシーンが撮れたからこそ映画になる」と作家ならではのコメントを頂いた。

 

なお、本作の公開に合わせて、特集上映「映像作家・小森はるか 作品集2011ー2020」が開催される。全9作品7プログラムが上映されるなかで、小森さんは、本作に関連する作品として『波のした、土のうえ』と『砂粒をひろう―Kさんの話していたこととさみしさについて』を挙げ「この2つを見ると、『二重のまち/交代地のうたを編む』とは違うものものが見えるかもしれません。私達2人が制作してきた過程が分かるかもしれません。ある意味で変わっていない部分が見えるかな。聞いた話をテキストにしていくこと、その場にいてドキュメントにしていくこととが同じ手法で作られていることに気づいておもしろいんじゃないかな」と提案。また、大阪・茨木市で2017年3月に撮った記録である『砂連尾理 ダンス公演「猿とモルターレ」映像記録』について「映像作品というより舞台の記録。演出的な施しがなく、そのままの映像記録」と説明し「作品の中で『二重のまち』という物語を様々な形で読む。本作にもつながっていくので見てもらえたら」と願っている。

 

そして、「小森はるか+瀬尾夏美」による作品は、茨木県の水戸芸術館で開催中の「3.11とアーティスト:10年目の想像」や石川県の金沢21世紀美術館で4月29日(木・祝)から開催される展覧会「日常のあわい」で展示されていく。今後の活動について、小森さんは、東日本大震災後の陸前高田といった地域に拘らず「この時代に何が語られるべきか、何を伝えていくべきか」と考え「東日本大震災が起きた後、この場所で語られることや語れないこともあるんだったら語り継いでいくこと等様々な面がある。様々な出会いがある中で出来ることがある」と模索している。次は、東京での撮影を視野に入れており「コロナ禍にある若い人達の生活のことについて語ること。一方で、東日本大震災以降に起きている小規模災害を経験した方に何が出来るか」と考え「所謂分かりやすい当事者ではなく、周辺にいながら書かれていない方達がやってきたことにアンテナを張りながら仕事を重ねていけたら」と現在の状況を真摯に見つめて話す姿が印象的だった。

 

映画『二重のまち/交代地のうたを編む』は、4月2日(金)より京都・出町柳の出町座、4月3日(土)より大阪・九条のシネ・ヌーヴォで公開。また、神戸・元町の元町映画館でも順次公開予定。なお、本作の公開を記念して、4月3日(土)より大阪・梅田のMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店 5F芸術書コーナーにて選書フェアを開催。小森はるかさんと瀬尾夏美さんの二人が読んでる本が三つのテーマ[1.「声」から連想する本][2.「創作」自身の捜索に影響していると思う本][3.「愛」とにかく愛してやまない本]を基にして並べられる。

 

キネ坊主
映画ライター
映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
最新のイベントレポート、インタビュー、コラム、ニュースなど、映画に関する多彩なコンテンツをお伝えします!

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