しっかりとした”役積み”が素晴らしいシーンを生み出す…!『朝が来る』河瀨直美監督を迎え舞台挨拶開催!
実の子を産めず、“特別養子縁組“というシステムを利用した夫婦と、我が子を育てることができなかった少女それぞれの葛藤を描き、観る者に“家族の絆“というテーマを問いかける『朝が来る』が全国の劇場で公開中。10月31日(土)には、大阪・梅田のTOHOシネマズ梅田に河瀨直美監督を迎え舞台挨拶が開催された。
映画『朝が来る』は、不妊治療の末に特別養子縁組という手段を選んだ夫妻と、中学生で妊娠し断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母の姿を描く。栗原清和と佐都子の夫婦は一度は子どもを持つことを諦めるが、特別養子縁組により男の子を迎え入れる。朝斗と名付けられた男の子との幸せな生活がスタートしてから6年後、朝斗の産みの母親「片倉ひかり」を名乗る女性から「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話が突然かかってくる。当時14歳で出産した子を、清和と佐都子のもとへ養子に出すことになったひかりは、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心やさしい少女だった。しかし、訪ねて来たその若い女からは、6年前のひかりの面影をまったく感じることができず…
本作は、直木賞や本屋大賞を受賞した作家の辻村深月さんによるヒューマンミステリー小説で、テレビドラマ化もされた「朝が来る」を、『あん』『光』の河瀬直美監督のメガホンで映画化。栗原佐都子役を永作博美さん、栗原清和役を井浦新さん、片倉ひかり役を蒔田彩珠さん、栗原夫婦とひかりを引き合わせる浅見静恵役を浅田美代子さんがそれぞれ演じる。新型コロナウイルスの影響で通常開催が見送られた、2020年・第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出された。
上映後、河瀨直美監督が登壇。地元関西で満員のシアターで温かい拍手で迎えられ、リラックスした雰囲気で、舞台挨拶が行われた。
本作は、米国アカデミー賞の国際長編映画賞候補の日本代表に選出され、河瀨監督は「本当に感謝と、コロナがあってこんな状況ですが、これがきっかけでたくさんこの映画を観てもらえることになるならありがたいな」と感慨深い。思います。本来は6月公開であり、カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出された作品だったにも関わらず、なかなか公開できず「公開日が『鬼滅の刃』の直後だし、(主演の井浦)新くんも缶コーヒーでコラボしてるし、みんなあっちなん?」と一抹の寂しさを笑いながら話したが「映画館に若い人が戻ってきてくれることは本当にありがたい」と感謝している。
ビジュアルアーツ専門学校に通い、18歳で映画を作り始め、梅田周辺のミニシアターや映画館に通い詰めてきたことがあり「自主制作からコツコツやってきて今ここに至っているので、どうしても関西で舞台挨拶がしたかった」と告白。公開から1週遅れとなったが「今日ここで舞台挨拶が出来てとても幸せです」と嬉しく「昔なかった建物が建ったり、街はどんどん変わっていきますが、あの時の自分、っていうのはいまもここにあり続けています。本当に愛着があります」と関西への愛情を伝えた。
公式Instagram内のトークライブ「あさくるトーク」では、河瀨監督作品『Vision』に出演したジュリエット・ビノシュが登場しており「フランスはまたロックダウンしている。実は本作は一昨日カンヌのメイン会場で上映されたんですが、そこもコロナ対策でいつもと全く違う風景でした」と報告。「世界的なパンデミックの中、日本が経済と両輪でなんとか進めていけているのは日本人の気質。他にも色々なものが手伝っているとは思います」とふまえた上で「日本人は昔から病気を神様みたいに祀るなどして”無くすことは出来ないならうまく付き合っていこう”としてきたように思います。特に奈良の大仏の建立には天然痘というウイルスが関わっているし、こういう時にこそ何かが生まれるんじゃないか」と述べていく。
なお、鑑賞後に40代の男性が本当に泣き崩れたという話をよく聞いており「その年齢の方、ぜひどこが刺さったか教えて欲しいです。今それを募集していて分析しているんです。それが分かったら、40代から50代の俳優さん、例えば齋藤工さんとか、他にも、文化人や音楽家の方などと”あさくるトーク”メンバーで座談会したい」と検討中だ。また、永作さんと井浦さんは本当に夫婦と思える役作りをしており「それぞれが”役積み”をしっかりしてきてくれることによって、役そのものになって、本番で脚本にないセリフを言ってくれました。本当に素晴らしいシーンが撮れました」と振り返る。そこで、改めて、”役積み”とは「それぞれの役の履歴書というか、いままでどういった人生を生きてきて、いまどう感じているのかを紙に書いてきてもらいます」と説いていく。
最後に「新しく生まれてくる命、子供たちがこの世界の中で誰しもが幸せであってほしいと願っている、みんなそう思っているけれど、やっぱり自分たちのことで必死になっている社会があって、そこが見えなくなってしまっています。それはもしかしたらなんの罪でもないけれど、本作が、私たちのもう一歩先の明るい未来への力になっていけばいいなと思います。それで、朝斗が最後に”会いたかった”といった言葉を皆さんの中でも誰かに伝えていってもらえたらと思います」と締めくくり、和やかに舞台挨拶は終了した。
映画『朝が来る』はTOHOシネマズ梅田ほか 全国にて絶賛公開中
- キネ坊主
- 映画ライター
- 映画館で年間500本以上の作品を鑑賞する映画ライター。
- 現在はオウンドメディア「キネ坊主」を中心に執筆。
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